「はぁ〜・・・」
「どうした。」
「あたしって役に立たないなぁって思って・・・」
あかねちゃんが札探しに行く場所にいる怨霊の属性を間違えたり、方忌みを忘れてそこへ行くよう言ったりと、ここ数日ミスばかりだ。
皆は気にするなと優しく言ってくれるけど、これだけ続くとさすがに凹む。
「あぁ〜・・・」
「あまり陰の気を散らすのは良くない。」
「・・・ごめんなさい。」
「悪い気はより悪い気を呼ぶ。私の言葉に謝る必要はない・・・気にするな。」
――― 気にするな
この言葉は今のあたしに向けられているはずなのに、何故か胸が痛む。
「ごめん・・・」
「・・・」
こんな調子じゃ泰明さんも嫌な気持ちになっちゃうよね。
けれど、一度塞ぎこんでしまった気持ちは中々晴れない。
「・・・」
「・・・」
いつにもまして気の利いた事も話せず、ただ時だけが過ぎていった。
「・・・。」
何を話そうか悩んでいたら、その前に泰明さんに名前を呼ばれたのでパッと顔を上げた。
「はっはい!」
「動くな。」
「・・・はい?」
泰明さんの突然な物言いにはかなり慣れた方だと思うんだけど、それでもやっぱり主語と目的語が抜けているとイマイチ意味が通じない。
でも取り敢えず『動くな』と言われたので、そのままじっとしていると泰明さんが懐から何か紙を取り出して、それに向かって何か呟き始めた。
――― 術、かな?
やがて泰明さんが口をつぐみ、呼吸を整えてから紙に息を吹きかけると、その紙が柔らかな光の塊となってあたしに向かって飛んできた。
「うわっ・・・」
「動くな。」
う、動くなって・・・何かワケ分からないのが飛んできて動くなって!!そんな無茶なっ!
と、心で思いながらも泰明さんの言う事に逆らう方が怖い。
だからギュッと目を閉じて光の塊から顔を逸らして必死で耐える事にした。
「・・・」
「」
「・・・っ」
「・・・、目を開けろ。」
「・・・?」
「早くしろ、消えるぞ。」
「は?」
消える、と言われて慌てて目を開けると・・・あたしの周りをキラキラした物が取り囲んでいた。
「・・・何、これ。」
「お前の気だ。」
「気?」
「そうだ。人間は微量ながら気をまとって生活している。」
手を上げると手の周りに膜が張っているかのようにキラキラ輝くものがまとわりついてる。
「不思議な感じ・・・」
まとわりつかれてるのに、感触も、重さも、何も感じない。
光が自分の周りにある、ただそれだけ。
「先程唱えた術は、のまとう気を見せるための術だ。」
「あ〜・・・なるほど・・・」
うんうんと頷くと、まとわりついている光も微かに揺れる。
試しに手を左右に振ってみたら、花火の残像のように光が空中に僅かに残る。
――― 面白い
調子に乗って、空中に文字を書こうとしたら・・・遊びすぎたのか、光がパッと消えてしまった。
「・・・あ」
「が動いたので、気の流れが乱れて術が解けた。」
「・・・ごめん。」
あたしも子供じゃないんだからもう少し落ち着けよ。
あまりの情けなさにがっくり肩を落としていたら、ポンポンと不器用に頭を叩く手があった。
「・・・???」
突然の出来事にそのまま動きを止めていると、その手はもう一度ポンポンと頭を叩いた。
この場にいるのはあたしと・・・泰明さんしかいない。
で、両手を床について頭をたれているあたしが、自分の頭を撫でる事は不可能。
って事は・・・この手は、泰明さん!?
その事実を確かめるべく、ゆっくり頭を起すと・・・あたしの頭に手を乗せたまま、まっすぐあたしを見ている泰明さんがいた。
「・・・」
――― 人間、あり得ない出来事に遭遇すると声が出ないらしい
「・・・が良くやっている事を真似ただけだが、間違っていたか。」
「はい?」
真顔でそう言われて、思わず聞き返す。
「お前は神子が何か失敗をした時、何も言わずこうしていなかったか。」
「・・・した、と思う。」
あかねちゃんに何か嫌な事があったり、何か失敗した時、あたしは慰める意味を込めて抱きしめて背中を叩いたり、頭を撫でたりした事はあった。
でもそれを泰明さんは一体何処で見てたんだ!?
「お前にこうされると神子の暗い気は祓われ、陽の気が戻っていた。これはの世界の呪いではないのか。」
お母さんが子供をあやす、って感じだけど・・・呪いと言われるとどうなんだろう?
「お前の気が乱れていると私の心も乱れる。」
「・・・」
まっすぐ目を逸らす事無く、泰明さんのオッドアイがあたしを見つめている。
吸い込まれそうに深い、エメラルドの瞳。
何もかも見透かされてしまいそうな、琥珀の瞳。
「お前が沈んだ顔をしていると・・・何故か私の胸も痛む。」
「泰明さん・・・」
「お前にはいつも・・・笑顔でいて欲しい。何故こう思うのか分からないが、私はそう望む。」
「・・・」
嘘のない、実直な言葉。
きっと泰明さんは思った事をそのまま口に出しているんだろうな。
だから、こんなにあたしの胸に言霊が響くんだ。
自然と笑みが浮かんで、そっと泰明さんの衣の裾を引っ張って声をかける。
「泰明さん、さっきの呪いもう一回やってくれる?」
「何をだ?」
「頭を撫でるヤツ。」
「・・・やはりあれは呪いなのか。」
「そう、あたし達の世界で・・・相手を元気付けるためのおまじない、だよ。」
そう言うとあたしは軽く瞳を伏せた。
自らの意思で人に触れる事の少ない泰明さんの手は、何処かぎこちないけれど・・・髪の流れに沿って頭を撫でてくれる手はとても温かい。
――― 失敗は成功の元 ―――
いつまでも過ちを引きずっていては、成功するものも上手く行かなくなる。
この優しい手の主を困らせないよう、明日には元気に笑おう。
そしていつものように・・・笑顔で皆を見送ろう。
元気の出るおまじない
お相手が泰明、という事で可愛らしいものになりました。
これ、相手が違うと何されるかわかりませんからね(苦笑)←暗に友雅の事言ってるし(笑)
元気のないヒロインを元気付けようと、泰明さん頑張ってますw
彼を書くのは実は・・・楽です。
全てにおいて隠し事をせず、何でも素直に口に出せるので楽なんですよ(笑)
しかも見たもの聞いたもの全て吸収して、それを次へ生かす賢い人なので経験を積めば友雅さん以上にモテる人物にもなりかねません!!
という訳で、人に触れる事の少ない彼に頭を撫でて貰うのが『おまじない』ですw
呪い=まじないと読みますので注意して下さいね。
お題作成者:里紗さんへ
まだ完結していないストーリーの設定を使っちゃってゴメンなさい。
うたた寝遙かで、ヒロインは土御門の藤姫の館にいますが、途中から晴明様のお屋敷に移る予定なんです。
でもその話が書けなそうなので、実はちょっと困っていたりする(小声)
という訳で、この話は晴明様の館の一室で行われているやりとりなのです。
泰明さんがお相手という事で式神を使ったり、慣れない仕草を出したりしてみましたが如何でしたでしょうか?
お題企画に参加して下さってありがとうございました!!