人間には、定められた物がある。
――― それは、生命の寿命

ケド、その寿命ってヤツの中には自分で延ばしたり縮めたりするコトが出来るモンもある。





恋の寿命





「悟浄〜・・・引っかかったぁ〜」

「あぁ?あー・・・ちょっと待ってろ。」

両手に抱えていた洗濯物を部屋の中に放り込むと、シーツを持ったまま動きを止めているチャンの元へ急ぐ。

「はーやーく〜」

「ヘイヘイ。」

可愛らしいおねだりに口元を緩めながら、木の枝に引っかかってる部分に手を伸ばして外してやる。

「・・・ナンでこんなトコ引っかかるんだ?」

「知らない。」

「そりゃそうだっと・・・ほい、取れたゼ。」

「ありがとう、悟浄!」

振り返ればチャンがにっこり微笑んでいる。
何時からだったかな、この笑顔が眩しく思える反面、オレだけに向けて欲しいって思い始めたのは・・・。

「雨が降り出す前に取り込めて良かったよ。」

「まだ降らねェよ。」

「えーでもあっちの空暗いよ?」

「あンぐらいなら平気だって。」

「じゃぁ取り込むの早かったかな?」

まだ少し湿っているシーツを持っているチャンの顔が曇るのを見て、オレはその頭にいつものように手を乗せぐしゃぐしゃと髪をかき乱す。

「半渇きでも部屋に吊るしときゃ乾くだろ。」

「干す場所ある?」

「・・・居間、か?」

「居間、かなぁ。」

別にシーツなんざその辺にほっぽっといても問題ない気ィすんだけど、この辺八戒に似てチャンも几帳面だよな。

「取り敢えず、中戻ろうぜ。チャンが急に呼ぶから洗濯モン床に放り投げちまった。」

「え?皺になっちゃうじゃん!!」

慌てて部屋に戻ろうと踵を返したチャンが、でかいシーツの端っこを踏んづけてバランスを崩した。

「きゃ・・・」
「危ねっ!!」





ドサッッ



腕を伸ばしてチャンが地面に衝突するのは何とか防げた・・・ケド、オレが思いっきり背中から地面に落ちた。

「いっつ〜・・・

「悟浄?悟浄!



あ〜・・・頭がクラクラする。



「大丈夫?悟浄!!」



ンな必死な声で名前呼ばなくても大丈夫だって。
オレの体が丈夫なのはチャンも知ってンだろ?




早く彼女を安心させようと目を開けると・・・真っ白な空をバックに至近距離でオレを見下ろしているチャンがいた。

「・・・」

何で空が白いのか一瞬意味が分からなくて、視線をチャンの背に向ける。
あぁそうか、チャンが持ってたシーツが転んだ拍子に広がってオレ達に覆いかぶさったのか。
原因が判明すると、何故か世界にオレとチャンだけがいるような感覚に捕らわれた。

「悟浄!」



閉鎖された空間の中、必死な顔でオレの名を呼んでいる。



「・・・大丈夫?」



ただ、オレの事だけを考えてくれている。



「悟浄?」



大きな瞳をじっと見つめれば、そこに映っているのは・・・オレの姿。

今、チャンの目に映ってるのは・・・オレだけ。



恋の寿命は、オレの手に握られている。
今、ここで彼女へ思いを告げたら・・・この寿命はどうなる?






「悟浄・・・ボーっとしてるけど平気?」

オレよりも小さな手が遠慮がちに頭に触れ、そっと撫でてくれる。
な、チャンが触れてくれるたび、オレがどんだけ嬉しいか知ってるか?





好きだ、と

愛している、と・・・君に告げてしまいたい。

だけど・・・恋に臆病なオレは、この手に握っている寿命の運命を ――― 
まだ、決められない。





至近距離で心配してくれるチャンの顔をこの目に焼き付けて、ゆっくり瞳を閉じる。






























オレが目を閉じた事に驚いたチャンの声が変わる。

「悟浄!!」

その声を聞きながらゆっくり目を開けると、腰に回していた両手でチャンの体を思い切りギュッと抱きしめた。

「はぁ〜、チャンって抱き心地いいよなぁ〜♪」

「ちょっ、悟浄!!」

「オレ、チャンの布団ならなってやってもイイなぁ・・・な、どう?使ってみない、悟浄サン布団?」

ニヤリと口元を緩めてチャンの耳元に囁けば、瞬時に耳まで真っ赤になった。

「つ、使わないっ!!は、はっ離して!!

「イイじゃん♪助けてやった礼ってコトで、も少しゆっくりしてけって。」

そんな風に軽口叩きながらも、腰に回していた手を少しだけ緩めてやる。
するとオレの上でじたばた暴れていたチャンが立ち上がり、シーツを持ってあっという間に裏口まで逃げてって、捨て台詞のようにこう言った。

「悟浄の馬鹿っ!!」

バタン、ガチャ・・・と扉を閉めて、鍵までかけてくれる大サービス。
それを地面に座ったまま見ていたら鍵が外され、僅かな隙間から赤ら顔のチャンが顔を覗かせた。

「・・・助けてくれて、
ありがとう。

「どー致しまして。」

片手を上げてウィンクすれば、再び扉が音を立てて閉まり、鍵も掛けられた。





この恋を終えてしまうのは簡単だ。
ケド、今まで味わった事のないこの感覚を・・どうやらオレはまだ失いたくないらしい。

恋の寿命は・・・まだ、当分尽きる事はない





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恋の寿命
彼女が好きで好きで、想いを伝えたいけれど伝えた後どうなるかを考えてしまったら動けなくなってしまうという可愛い悟浄の話です(笑)
恋愛に寿命の有無があるかは分かりませんが、何かいい感じだなぁと勝手に思ってます。
切るも伸ばすも自分次第ってトコがいいかなぁって。
想いがあふれる前に自分を抑えて、何もなかったかのように茶化して誤魔化す悟浄がちょっと切なく感じるのは私だけでしょうか?


お題作成者:はつえさんへ
恐らく思っているのとは違う方向でお題使ってますよね?(汗)
でもでも思いついたのが何故かろうそくの火を見ている悟浄だったんですよ(苦笑)
妙に切ない感じになっちゃってすみませんm(_ _)m
でもでもこんな悟浄もたまにはいいかなぁって思ったりしました。だってほら、うたた寝で自分の想いを表に出す事ってないから!!(精一杯の言い訳だな(苦笑))
お題企画に参加して下さってありがとうございました!!