「・・・どうすれば良い。」
もう何度自問自答したか分からない。
いくら考えても良い考えは浮かばない。
どんな事をしても、どんな運命を選んでも・・・私が望む運命に行き着く事が出来ない。
「神子・・・」
優しいあの人を・・・死なせたくない。
彼女が生きていてくれる事、それが私のただひとつの願い。
「私に何が出来ると言うのだ。」
そう呟き天を仰ぐ。
空に浮かぶ月は、ちょうど最初に時空を飛んだ時と同じように眩しく光輝いていた。
「・・・どうすればこの運命の螺旋から抜け出せる。」
ふと、人の気配に気付き視線を向ければ、木の陰からひとつの影が現れた。
「あ・・・」
「どうした。」
「す、すみません!あの、望美先輩から先生を呼んで来てくれと頼まれて・・・」
「神子が?何かあったのか。」
「いいえ!夕食の用意が出来たので、呼びに来たんです。」
「・・・そうか。」
ゆっくり立ち上がり迎えに来た少女の元へ向かう。
「手間をかけさせたな。」
「・・・いいえ、あたしに出来る事なんてこれくらいですから。」
少し寂しげに微笑む姿は、何処か神子の苦悩する表情と似ている。
様々な神子に出会うと、中にはこの少女のように自分の非力さを悔やむ神子もいた。
「これくらい、などと言ってはいけない。」
「え?」
「その言葉を口にするだけで、お前は自分の可能性を自ら潰してしまっている。」
「・・・可能・・・性?」
「そうだ。」
「あたしにも可能性なんてあるんでしょうか?」
躊躇いつつも私を見上げる目の奥に、小さく揺れる炎が見える。
「先輩のように剣も使えず、後方で支援出来るほどの知恵もない。そんなあたしにも、今ここで何か出来る事ってあるんでしょうか。」
「・・・お前は何も出来ないと思っているのか。」
「少なくとも、皆の足手まといになっていると・・・思っています。」
――― 力がない自分は、あの人を守れない
お前は・・・幼い頃の私と同じなのだな。
力が無ければ、誰の助けにもなれないと思っていた・・・あの頃の私と。
「・・・、すまないがそこの薬草を取ってくれるか。」
「え?」
「先程、葉で手を切ったらしい。血止めに使いたい。」
「あ、はい・・・どうぞ。」
山の中、多種多様な葉が目の前に広がる中、少女は躊躇う事なく血止めに使う葉を私に手渡した。
「利き手だったら、あたしが葉を貼りましょうか?」
「いや、いい。」
「でも先生が手を切るなんて珍しいですね。」
「・・・まだ気付かぬか。」
「え?」
「お前は足手まといではない、という事に。」
「・・・分かりません。」
首を傾げている少女へ、周囲へ広がる草花を指で示す。
「山程ある草花の中から、お前は即座に薬草を探す事が出来た。違うか。」
「・・・あ」
「戦場において、小さな傷でも時が遅れれば致命傷ともなりかねない。そんな状況においてお前のように冷静に物事を行える人物を足手まといだと私は思わない。」
「・・・先生。」
「自信を持て。お前には神子と違う場所で活かせる力がある。」
「はい!ありがとうございます、先生!!」
満月にかかる雲がなくなったかのように屈託のない笑みを浮かべ、少女は足取り軽く前を歩く。それを見て、ふと私の心にある事が過ぎった。
――― この少女が、私を刻の螺旋から解放してくれるのかもしれない
何度も神子の死をこの手に感じ、何度も神子を説得した。
今まで何度も歩み、上書きしてきた運命の中に・・・一度もと呼ばれた少女は現れなかった。
「先生!」
「・・・今行く。」
神子、もしかしたら今度こそお前を助ける事が出来るかもしれない。
螺旋の出口を照らす者が、今・・・私の前を歩いている。
私はお前を ―――
刻の螺旋
お題を見た瞬間、動きが止まってしまいました(笑)
こりゃどうみてもリズ先生だけど、先生が書けるのか!?と試行錯誤した結果、熊野話の後に書こうと思っていた八葉合流後の話になってしまいました。
元々本編を書いてそこで使おうと思っていたネタだったんですが、上手くまとまったと思ってます。
神子は龍神の力や剣が使えるけど、ヒロインは何もない。
だから皆に同行するのに足手まといになっていると悩んでいる所にさり気なく相談に乗ってくれたのが先生です。
熊野にいる間に薬師の弁慶が色々教え込んでたので、普通の人より薬草に関して詳しくなってるんですよ。
・・・って、この辺は本編で語れってネタですね。
お題作成者:ひーろさんへ
初書きのリズ先生ですが、如何でしょうか!?
多少偽者チックなのは大目に見て頂けると嬉しいです(汗)
先生らしいお題なのに、それに私の技量がついていかず、まだ書けていない設定を持ち出すような事になっちゃってすみません(苦笑)
でも私的にはこんな先生の雰囲気が好きだったりします♪
お題企画に参加して下さってありがとうございました!!