どわーっ!!ま、ま、待てっ皆川っ!話せば分かるっ!!

「ふふふふふ・・・」

「・・・何の騒ぎだ。」

「あ、太郎さん、おはようございます。」

「・・・聞きたくないが、あの馬鹿は何やったんだ?」

「いつもの事ですよ。」

にっこり笑顔で微笑む純だが、その手に持っているトレイは既にベコベコに折りたたまれている。
ちなみにトレイは純銀製で、間違っても紙のように容易く折りたためるものではない。

「また彼女に何かしたのか・・・懲りないヤツだな。」

そう言いながらも太郎は側にあったモップを手に取ると、逃げ惑う真希に向かって放りなげた。

「うぎゃっ!」

「う〜ふ〜ふ〜・・・逃がさないよぉ〜♪」

「た、太郎っ!てめぇ!

「で、その彼女は?」

「奥で休んでます。」

「・・・じゃぁ彼女が目覚める前に準備するか。」

「そうですね。あ、でも太郎さん制服は?」

普段から綺麗好きな太郎が、荷物を安全地帯に置いてシャツの袖を捲る姿を見て純が首を捻る。

「制服に着替える為とはいえ、女性が休んでいる部屋に入れる訳ないだろう。」

「さすが太郎さんですね。」

「・・・それに、あれ以上皆川の逆鱗に触れたら今日は店開けられそうにないしな。」

「既に今日のケーキが半分壊滅状態だ、ってマスターが嘆いてました。」

「・・・真希のヤツ、一回死んで詫びろっ!!

純が持っていた折れ曲がったトレイを奪い取ると、皆川に紐で縛られた上、謎の札を貼られ動けなくなっていた真希の後頭部めがけて放り投げる。
カーンという甲高い音が店内に響き、その後低い笑い声と共に気絶した真希を引きずりながら・・・2つの影は店の奥へと姿を消した。










「ん・・・あ、あれ?あたし・・・」

「おはよ、。」

にっこり笑顔での前に紅茶を差し出す。

「目覚めの一杯、どう?」

「ありがとうございます。」

「それにしても不運だったねぇ。」

この場合、再起不能までに痛めつけられた真希の事では決してない。

「まさかの着替え中に真希ちゃんが入って来るなんて・・・」

よしよしと労わるようにの頭を撫でていると、が小さく首を振った。

「え?違いますよ、皆川さん。」

「ん?」

「私が驚いたのは・・・その、更衣室に・・・天敵の、あの・・・」

彼女の言う天敵とは、飲食店の天敵でもある・・・アレである。
良く他店では『太郎ちゃん』などの隠語が使われるが、ここ、カフェ吉祥寺では同名の店員がいるためその隠語は使われていない。
その時々で呼び名が違うが・・・大抵は『真希』と呼ばれているらしい。
勿論そんな名付け方をしたのは、この店一番の綺麗好きである太郎だ。

「・・・もしかしてが悲鳴をあげたのは、その所為?」

「はい。それで真希先輩が来て退治してくれたんですけど、私驚いて気絶しちゃったんです。」

「ふ〜ん・・・」

悲鳴を聞きつけ、店にいた皆川と純が駆けつけた時に目にしたのは、着替え途中のが真希の腕の中で気を失っているという光景だった。



――― ようするに、真希は無罪・・・という事らしい



「そうだ!真希先輩にお礼を言わなきゃっ!」

「あぁ大丈夫、大丈夫。僕がしっかりの分までお礼言ったから。」

お礼とは、再起不能になるまで呪い倒した事だろうか?

「でも・・・」

「そんな事より倒れた時に頭とか打っていたら大変だから、今日は早退して病院に行こうね。」

「大げさですよ、皆川さん。すぐお店に出れます。」

笑顔でベッド代わりに並べて使っていた椅子から起き上がろうとするの額を皆川がコツンと指でつついた。

「何かあってからじゃ遅いよ?」

「でも・・・」

「僕を安心させると思って、ね?」

店の誰にも見せない、愛しい彼女にしか見せない優しい笑み。
それを見たは敵わないとでも言うように手を上げた。

「・・・はい。」

「じゃぁ帰る準備して待っててね。すぐ送ってあげるから。」

「近道からですか?」

「勿論。」

近道というのは、店の中から皆川の家まで繋がっている謎の通路の事である。
ちなみに皆川以外の人間が中に入ると、外へはどうやっても出れないという迷路みたいな通路だ。

勿論トラップが無い訳は無い。

「じゃぁ準備が終わったら声、かけてくれるかな?

「はい。」

元気の良い返事に満足し、笑顔で彼女のいた部屋を出ると、裏口のゴミ箱横に捨てていた真希の様子を伺う。

「ごめんねぇ、真希ちゃん。でも日頃の行いが悪いからだよぉ〜?」

側のゴミ箱の上にいたスケキヨの頭を撫でながらポケットから携帯電話を取り出し、ある所へメールを送る。

「今、キミのだ〜い好きな人を呼んでおいたから、彼女に看病して貰ってね?」

けれど、縄でぐるぐる巻きにされた真希はピクリとも反応しない。

「さて、今日はどのルートで彼女を送ろうかなぁ♪」

店に向かって響く地響きなど聞こえない、とでも言うように鼻歌を歌いながら、帰り支度を始める皆川。





例え、世界中が敵に回ったとしても・・・彼、皆川ひふみに逆らうような愚か者はこの店にはいない、という話?





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世界中が敵に回っても・・・
もしかしたら、サイト内で一番書きやすい人かもしれません。
時間がどれだけ経っていても、彼を書くのは苦じゃありません・・・っていうか、勝手に動く(笑)
世界中のどんな人間が敵に回っても、皆川さんを敵に回してはいけません。
だって彼は・・・人じゃないから・・・(笑)
あ、そうそう。最後に皆川さんが電話したのは愛里さんです。
純の従順な可愛い後輩さんですよ♪無事真希ちゃんが手当てされたかどうかは・・・知りません♪
とりあえずゴミ箱に乗っていたスケは、足音が近づく前に店に戻り、純に抱っこして貰ったみたいです(安全地帯に逃げ込んだ、とも言う)


お題作成者:沙李さんへ
カフェ吉を忘れずにいてくれて、ありがとうございますっ!
という訳で、皆川さんに全開で動いて貰ったら・・・真希ちゃんが大変な事になっちゃいました(苦笑)
本当はお題の相手が皆川さんだったので、ひとりだけ・・・と思ったんですが、やっぱりカフェ吉は全員がいてドタバタするのがお約束よね♪
と思い、更に久し振りだから出来るだけ参加させようと思ってこうなりました。
え?徳ちゃんがいない?あれぇ?おかしいですねぇ。
多分、お店に出せないケーキを裏でガツガツ食べてるから表に出てこないんです!えぇきっとそうですとも!!
お題企画に参加して下さってありがとうございました!!