「お待たせ、悟空。」

「ありがとう、。うわぁっ・・・美味そう!」

「ただのココアじゃ面白くないから、焼いたマシュマロ乗っけてみました♪」

「すっげぇ!」

少し大きめのマグカップを悟空に渡すと、熱さも確認せず茶色の液体を飲み干そうとしたので慌てて止める。

「ま、待った悟空!熱いから気をつ・・・」

・・・っ!!



――― 間に合わなかった



あたしの静止が僅かに遅れた所為で、熱々の液体は悟空の舌先を焼いてしまったらしい。

「あぢい・・・」

「遅かった。」

がっくり肩を落とし、それでもまぁ一気に飲んで喉を焼くよりマシだよね・・・と都合良く自分を慰めてみる。

「冷ましながらゆっくり飲もう?」

「うん!」

今度は注意深く、ふうふうとカップに息を吹きかけ、適度に冷めただろう頃合を見計らってひとくちココアを飲んだ悟空は、目を細めてホッと息を吐いた。

「すっげぇ美味い。」

「良かった〜♪」

悟空の前の席に腰を下ろし、猫舌のあたしは更に注意深くココアをひとくち飲む。

「ごめんね。折角八戒のケーキ楽しみに来てくれたのに・・・」

「んんん」

ココアを冷まして飲むのに一生懸命な悟空はマグカップから口を離さず、首を横に振った。

「まさかアレが悟空の為に用意されてたケーキだなんて思わなくて・・・」





八戒が買物で留守の間、美冷さんがやって来た。
相変わらず何を言っているかは分からないけど、それでも慌てている事と、八戒の焼いたケーキが欲しいという事だけは何となく分かり、今朝八戒が焼いていたケーキを渡してしまった。
何度も何度もお礼を言って手を振る美冷さんを見送って数分後、今度は両手に荷物を抱えた悟空がやって来てこう言った。

「腹減ったぁ〜!!なぁ、八戒のケーキ何処?」

そう、今朝八戒が焼いたケーキは、お買物を手伝ってくれた悟空に対するお礼だという事にこの時ようやく気付いたのだった。





寝坊したから、八戒にその事聞いてなかったんだよね。
こういう時はメモでも残して・・・って、書いてある文字あたし読めないじゃん。
ん〜・・・じゃぁ暗号文とか考えて、このマークの時は人にあげないとか決める?
でもそんな面倒なの悟浄が賛成するわけないし・・・と、そんな事を考えながら眉間に皺を寄せていたら、目の前の悟空のカップが空になっているのに気付いた。

「あ、ごめん。お代わりいる?」

「・・・ん〜、いい。」

「でもお腹空いてるんじゃないの?」

そう尋ねると同時に悟空の腹の虫が元気良く鳴きだした。

「・・・ほら。」

「あ〜、えっと・・・こんなのいつもの事だから!」



――― そりゃ確かにそうだ



「いや、でも・・・」

「ホント、マジで大丈夫だから!!」

もう一度台所をあさろうかと立ち上がりかけたあたしの手を掴んで、必死に引き止める悟空。
その手を振り払ってまで台所へ向かうのはどうかと思い、取り敢えずもう一度席に座る。
だけど席についてからも悟空の腹の虫は一向に鳴き止まず、見かねたあたしは持っていたカップを指差した。

「えーっと、飲みかけだけど、あたしのココア半分あげようか?」

「マジ!?」

にこぉっと笑顔で空のカップを差し出され、思わず胸がときめく。



――― か、可愛いっっ!!



この笑顔が見れるなら今すぐ台所中探して何か食べ物でも見つけてきてあげたい、と心底思う。
でも・・・あたしが少しでも席を立とうとする仕草を見せると、悟空の目が少しだけ寂しそうな色に変わってしまう。



立ちたい、でも立てない。
ある意味・・・物凄いジレンマ。



それでも少ししかないココアを飲みながら悟空の話を聞いたり、あたしの話を聞いてもらったりするこの時間は・・・八戒達とは味わえない穏やかな空気。

あははははっ!

「なぁ?三蔵ひでぇだろ?」

「うん、それは酷いっ!」

寺院での三蔵の話を聞いたら笑いが止まらなくなっちゃったよ。
笑いすぎて零れそうになる涙を指先で拭いながら、ふと悟空の方を見たら・・・凄く、凄く優しい笑顔でこっちを見ていて、ドキッとした。

「あのさ、オレおやつより何より・・・の笑顔が好きだな。」

「え?」

「どんなに腹が減って腹の虫が鳴っても・・・なんか、が側で笑ってくれてっとすっげぇ胸が温かくて、なんも食う気しなくなる。」

「悟空・・・」

「だからさ、腹鳴ってても、がいてくれる方がいい。おやつなんかより、がいい。」

へへへ、と照れながら言う悟空に何て言えばいいか言葉を選んでいる間に、人の声が近づいてくるのに気付き、自然と視線を悟空から扉へ動かす。

「ちぇっ、もう帰って来ちゃった。」

「・・・」

「今度はもっともっと早くお使いから帰るから、そしたらまた一緒にお話してくれな?」

そう言うと今まで一度も席から離れなかった悟空が席を立ち、声が聞こえる扉の方へ向かっていった。
あたしは・・・といえば、突然の悟空の告白に徐々に顔が赤らんでいくのに動揺している最中。





いつものただの、おやつの時間。
一緒にお茶をしたのは、可愛い・・・悟空。

でも、彼の言葉は・・・いつもと何処か違っていた。





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3時のおやつ
おやつよりも何よりも彼女の笑顔が好きだ・・・そう、言い切る悟空が書きたかったんです。
他の3人は多分言いたくても言えない台詞じゃないかなぁって。
悟空だから素直に、何気なく言える台詞だと思うんですよ。
それにあの悟空が、お腹をグーグー鳴らしてても、それでも二人きりでいれる時間を大切に思ってるって凄い事じゃないですか!?
多分、次のお買物はもっともっと早く終えて来ると思いますよ。
だって早く終われば終わるほど、大好きな彼女と一緒にいる時間が増えるんですから♪
そんな可愛い悟空の話でした!!


お題作成者:みおさんへ
3時のおやつなんですが、おやつは一体何処へ行ってしまったんでしょう(苦笑)
本命はホットココアですが、実は彼女と過ごす甘い時間が、この時の悟空にとってのおやつです。
みおさんが思っているのと違う方向へ進んでしまっていると思いますが、久し振りに可愛い悟空が書けて私的には満足です(笑)
お題企画に参加して下さってありがとうございました!!