周囲が何となく禍々しい気で包まれている城。
その城に、何故か時折迷い込むあたし。
そしてそんなあたしをいつも最初に見つけてくれるのは・・・吠登城の王子様。
「、こんな所にいたのか。」
「紅孩児。」
「・・・あまり城内をひとりでうろつくな、と言わなかったか。」
言われました・・・というか、紅孩児に会う度に言われてる気がします。
「ごめんなさい。」
「まぁいい。行くぞ。」
「え?もう?」
「何だ。何か用事でもあるのか?」
「用事って訳でもないけど、もう少しここから景色を眺めてたいなぁって。」
眼下に広がるのは岩場。
吠登城の周囲を囲んでいるのもむき出しの岩ばかり。
緑なんてこれっぽっちもないし、鳥たちの声と言ってもカラスの鳴き声ばっかり。
それでも紅孩児の住んでいる所だって思うと、少しでも色々な物を見ておきたいって思う。
「・・・構わないが。」
「ありがとう。」
にっこり笑って再び窓辺に肘をつくと、キョロキョロと視線を動かす。
ふと頭に何か乗せられた気がして手を伸ばすと、紅孩児が着ていたマントのような物がかけられていた。
「?」
「暫くここにいたいのなら、それを被っていろ。」
「どうして?」
「・・・お前、自分が人間だという自覚はあるのか。」
「あたしは人間以外の何者でもないけど?」
小首を傾げて視線を窓の外の景色から後ろにいる紅孩児に向けると、大きなため息をつかれた。
「何、そのため息。」
「ここは吠登城だ。」
「知ってるよ。」
「ここにいるのは妖怪ばかりで、人間など・・・・・・殆どいない。」
「だよね。」
「そんな中、お前のような人間が城内を歩いていたらどう思う。」
「ん〜・・・珍しい?」
「・・・ある意味そうだ。」
ある意味ってどういう意味だろう?
それを尋ねようと口を開く前に、階下の窓からこのお城にいるであろう妖怪さん達の声が聞こえてきた。
その内容は、ホラーを苦手とするあたしにとっては最悪なもの。
「・・・」
「・・・言い方は悪いが、この城の下級の妖怪達にとって人間とはそういう物だ。」
――― 要約すれば、食料って事ですか・・・
しかも女・子供は肉が男に比べて柔らかくてオイシイらしい・・・思わず自分の身体をギュッと抱きしめてしまう。
そうだよね、側にいるのが紅孩児達じゃなかったら、その場で食べられたり殺されたりしちゃう可能性だってあったんだよね。
それに不法侵入者とみなされれば、どっちにしろ今ここでのんびり外を眺めるなんて事も出来ないだろう。
でも、そんな事が出来るのは、側に・・・彼がいてくれるから。
「どうした。」
「・・・紅孩児って、優しいね。」
「突然何を言っている。」
「ん?ずっと思ってた事だよ。」
突然目の前に現れた、得体の知れない人間を
吠登城の王子様、という地位でありながら匿って
尚且つ、部屋から姿がなくなればこうして探してくれる。
「あたし、紅孩児に会えて良かったなぁ・・・」
「・・・そうか。」
「うん。」
普通に考えれば周囲に岩場しかなく、飛ぶものと言えばカラスだけって環境は決して温かくは感じない。
でもね、紅孩児が側にいると・・・なんか胸が温かくなるんだよ。
「そろそろ戻ろう。八百鼡が茶を用意すると言っている。」
「わっ、嬉しい♪八百鼡ちゃんのお茶!」
「こらっ、!急に走るな!しかもそっちは逆だっ!!」
ねぇ、紅孩児。
いつまでも貴方は今のままの貴方でいてね。
貴方の信じる者のために
貴方を信じる者のために・・・
そして願わくば、これ以上優しい貴方が傷つかないよう・・・祈ってる。
優しい王子様
懐に入った人に対して、紅孩児は目に見えて優しいんじゃないかなぁと勝手に思っていて出来た話がこれです。
うたた寝in吠登城に彼女が現れ、姿が消えると心配で探してしまう。
そして彼女がもう少し外を見ていたい、と言えば上着を(というかマント?)を貸してその願いを叶えてくれる。
でも一応人間だから、妖怪の城にいるってのがどれだけ危ないかってのを小耳に入れさせてみました(笑)
だってそうしないと、またフラフラ出歩くからねぇこのヒロインは(苦笑)
お題作成者:ライトさんへ
一応お題そのまま・・・を書いたつもりなんですが、如何でしょうか?
まぁつもりはつもり、でしかないんですが、私的にはこんな感じの優しい紅孩児が好きだったりします。
あれですよ、ほらっ!最初の頃、李厘がいなくてお迎えに行く紅孩児!あの印象が強いみたいです(笑)
お題企画に参加して下さってありがとうございました!!