「えいっ!」

「やったな〜」

目の前で繰り広げられるのは、いつもの非日常的な光景ではなく…この国ではありえないくらい平和な光景。

彼らの手に握られているのは血まみれの斧…ではなく、水鉄砲。
その中に入っているのは、銃弾でも硫酸でもない。
ごく普通の水…飲み水として飲んでも問題ない水。
それを使って互いに水を掛け合う姿は、どこか和むものもある。

ただ…その場所が、問題。

「ねぇ、二人とも…楽しい?」

「「うん!とっても!!」」

いつものように声を揃えて笑顔を向けられ、大きくため息をつく。

こんな大きな屋敷にいて、大きなお風呂場もあるのに…どうして彼らは、ビニールで作られた子供用プールに入って遊んでいるんだろう。



――― わからない…



はぁ…と大きなため息をつくと同時に膝を抱え、そこに額をつける。

大きな家に住んでいると、狭い場所や端っこが落ち着くのと同じなのかな。
…いや、でもここの人たちの感覚は普通じゃないから、それとは全く違うのかもしれない。

でも、どうしてここに子供用プールがあるんだろう。
ブラッドが買った…いや、あり得ない。
じゃあエリオットが…それも、あり得ない。

やっぱりここは二人が面白がって買って来たっていうのが正解かな?

俯いたままぶつぶつ呟いている間も、彼らの水遊びは続いていた。

「うわわっ、待った兄弟!今は水を入れてる途中だよ?」

「待ったなしって約束だよ」

「わわわ…冷たいよ兄弟!」

「えいえいえ〜い」

「やったなぁ!」



…あぁでも、こんな風に静かな時間も過ごせるんだ。
こっちの世界に来てから、もしかしたら初めてかもしれない。




そんな事をぼんやり考えていたら、急に冷やりとしたものをうなじに感じて声をあげる。

「うひゃっ」

「どうしたの、お姉さん」

「具合でも悪いの?」

顔を上げれば、そこにいたのは頭から水を滴らせている、双子。
あぁ…髪から滴った水が首筋に落ちたのか。
濡れた首筋を手で撫でながら、二人に心配をかけないよう声をかける。

「大丈夫だよ」

「でも、ずっと俯いていたよ」

「それに、ずっとぶつぶつぶつぶつ…呟いていた」

「まるで、文句を言ってるボスみたいだったよ」

「うんうん」



――― そんなに独り言呟いてたんだ…



「「大丈夫?」」

左右から心配そうに覗き込まれ、声をかけられる。

「…うん、平気。ありがとう、ディー、ダム」

「僕らお姉さんが大好きだから、元気がないと心配なんだ」

「お姉さんが元気でいてくれるなら、僕らなんでもするよ」

「本当に大丈夫だってば…」

笑顔で二人の肩を抱き寄せる。



あぁもう…可愛いなぁ…



その想いを伝えるように、ぎゅ〜っと抱きしめると二人の肩が妙に冷たい事に気付く。
水遊びに熱中していたせいで冷えたのかな?
そんなに温かく感じなかった自分の手が、二人の肩に触れていると酷く熱く感じる。

「お姉さん、手…熱いよ?」

「うん、凄く熱い」

「二人が少し冷たいんじゃない?」

抱き寄せていた腕を緩めて二人の顔を交互に見れば、少し唇が紫になっている。

「ほら、やっぱり身体冷えたのよ。もう水遊びはお終い」

「……冷えたんだ」

「…うん、冷えたんだね」

「そう。だから、ちゃんと身体を拭いて服を着て…」

風邪をひかないように…と、言いかけた唇をあっさり塞がれ思わず瞬きを繰り返す。
必死で肩を押し返してようやくキスから逃れ、目の前の相手を咎めようと名を呼ぶ。

「ちょっ…ディー!」

「ずるいよ、兄弟…」

「んっ!」

すると今度は別の方向から伸びてきた手が、顔を掴んで半ば強引に口付けられる。
そんな甘い戒めから解放されると、いたずらな笑みを浮かべた双子が声を揃えて耳元に左右から囁いた。

「「冷えた身体、お姉さんが温めてよ」」





…訂正。
やっぱりこの国に、平和な光景なんて…ない。





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2008web拍手、手を加えて再録…だけど、双子なので名前変換なし(笑)
あの国に、平和を求めるのは無理だと思う。
唯一あるとすれば………えーとぉ、寝てる時間…いやいや、寝ててもナイトメアがいたんだった。
平和、平和…えーと、誰かに愛されてる時間がある意味平和、なの、か、な?
すいません…自分でネタを振っといて、見つかりませんでした(苦笑)
双子の持っているおもちゃが好きです。
あの、ネーミングセンスも好きです(笑)