「おっ!なんだ、これ」

「エリオット!?」

背後から声をかけられ飛び上がると、そこにいたのは嬉しそうな顔以上に嬉しそうに揺れている耳を持った…ウサギさん…じゃなくて、エリオット。

「綺麗なニンジン色だな!新しい菓子か?」

「え、いや…その…」

おかしい。
今の時間帯、エリオットは仕事だってブラッドは言っていた。
だから、エリオットのいない時間を狙って、これを作っていたのに…

「なぁ、食ってもいいか?」

尋ねてはいるけど、既にその手はカップケーキに伸びている。

これは彼が期待しているものではない。
だから彼の笑顔が曇るのを見たくなくて、その手を止めようと声をかけた…けれど、時既に遅し。

「エリオット、待っ…」

大きな体に不似合いな素早い手は、カップケーキの包みを剥がしてその中身をあっという間に口に入れてしまった。

「あぁ〜……」

「………ん、んんー???

やっちゃった…と手を額につくあたしと、首を傾げるエリオット。
暫しもぐもぐと口を動かし、ごくりと飲み込んだ後…彼が口を開いた。

「…なぁ、

「……」

「これ…ニンジンじゃ、ねぇよな?」

「うん」

「色はニンジンに似てっけど、味は全然違う…」

「だって、これカボチャだもん」

「カボチャ!?」

ニンジンが嫌いな訳じゃないけど、いつもいつもいつも食卓にオレンジが並ぶとさすがに辛くなってくる。
それなら、似た色のものを食卓にどさくさ紛れに並べてしまおう…と思ったんだけど、並べる前にオレンジ色大好きな人が帰ってきてしまっては、作戦失敗。

「そっか…カボチャか…」

ニンジンだと思って食べたのがカボチャだったからか、大きな耳がくったり倒れてしまった。
そんなエリオットが見たくないから、食べる前に止めたかったのに。
小さくため息をついて、エリオットの前からカップケーキの入ったカゴをよける。

「ごめんね。もっと上手になったら、今度はニンジンで作るから…」

「…って、もしかしてこれ、が作ったのか?」

「え?あ、うん」

「へ〜あんた凄いな!茶をいれるのが上手いだけじゃなく、菓子も作れるのか」

「いや、コックさんほどじゃないし…これぐらいしか出来ないけど」

お城のコックさんは、本当に凄い。
役なしのカードって言われているけど、毎回毎回よくここまでニンジン料理が思いつくってほど、色々な物を作り出している。
その人に比べれば、あたしは簡単なお菓子を作ることぐらいしか出来ない。

しかも端っこ焦げてるし、形悪いし。
だからエリオットに見つからないよう、こっそり練習してたのに…

もじもじと指を持て余していると、にょきっと伸びた手が次から次へとカップケーキを手に取り、口に運び始めた。

「ん、ふまい、ふまい!」

「エリオット!?」

んぐっっ!!

勢い良く食べたせいで喉に詰まらせたらしく、どんどんと胸を叩いているエリオットに用意していたお茶を慌てて手渡す。
それを手にすると、一気に飲み干して口元を手で拭って微笑んだ。

「あー、ありがとな、。菓子も紅茶もどっちも美味かったぜ!」

「え、えっと…どういたしまして」

気づけばカゴに入っていたカップケーキはなくなっていた。
結構作ったから、ブラッドのお茶請けか双子のおやつにしようと思ったんだけど…まさか、エリオットが全部食べてくれるとは夢にも思わなかった。

「でも、どうして?」

「ん?」

「ニンジンケーキが好きでしょう?」

「あぁ、大好きだ」

エリオットが好きなのはニンジン…もとい、ニンジンを使った食べ物。
だからいつも、食卓はオレンジ色一色。

「これ、カボチャケーキ…だよ」

けれど今、彼がいつもニンジンケーキを食べるような勢いで食べたのはカボチャケーキ。
ニンジンなんてひとかけらも、隠し味にすらも使っていない。



――― どうして?



素直に疑問を口にしたら、本人もあまりよくわかっていないのか、長い耳が首を傾げると同時に揺れた。

ん〜〜〜〜〜

「………」

腕を組んで、首を傾げて…一生懸命考えてくれる。
3秒でも悩むには充分だと言う彼が、あたしの他愛無い質問を考えてくれてる。

それが、妙に…嬉しい。

でも、そろそろ止めないと頭から湯気が出てきちゃいそう。

「エリオ…」
「わかったぜ!」

声をかける前にポンッと手を叩き、揺れていた耳が挙手でもするようにピンと伸びた。

「なんで、ニンジンケーキじゃないのに美味いのか!」

「…教えてくれる?」

「あぁ、すっげー簡単なことだ!あんたが作ったからだ」

「え?」

が作ったから、ニンジンが入ってなくてもすっげー美味く感じたんだ!!」

「エリオット…」

「また今度、これ、作ってくれよ」

空っぽになったカゴを指差して、にこにこ微笑む彼を見て…涙が出そうになるくらい嬉しく感じる自分がいた。

「うん、喜んで」

今度作る時には、もっともっと美味しく作るよ。
だって、誰のためでも…じゃなく、エリオットのためだけに作るから。

いっぱいいっぱい、気持ちを込めて作るから…
だから、一緒にお茶しましょう?

いつでも、あなたを待っているから…





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昨年途中まで書きかけてたんです。
しかもこれは、当初ハロウィン仕様でした(苦笑)
それを、こー…手直ししてアレンジして、一年経ってようやくお星様のお願いとして復活!?
エリオット、こんな感じで大丈夫なのでしょうか?
ってなんで毎回こんな不安ばっかりやねんっ!!(笑)
あの、ウサミミとでかい図体で可愛いとこが好きでございます。

【お星様にお願い2008】笠木静流さん
一年前のお願いが、年を越えて叶う…ってのも、七夕のお願いっぽくてアリかな?と(苦笑)
エリオットがご希望とのことで…初書きのエリオット(単独)ですが、大丈夫ですかーーっ?!(笑)
その願いに、多少なりとも叶えば幸いです