「ちょっ・・・」

「駄目です。」

「でっ、でもっ」

どんなに抵抗しても、壁に押し付けられた手は、一ミリも動かすことが出来ない。

「・・・絶対、離しません。」



緩められた口元
笑っていない瞳




「僕はあなたを愛しているんです。」

唇が触れそうなくらいの距離で、甘い台詞を囁いているのに・・・喜びよりも先に、恐怖が身体を支配する。

「ペーター・・・」

「僕の側にいるなら、それでいい・・・それだけでいい。そう思っていたけれど・・・」

両手を束ね片手で頭上に固定し、空いている方の手で、ゆっくりあたしの唇をなぞる。

「・・・他人があなたに触れるのは、見ていられない。」

「だっ、だからあれは・・・」





急いでいたから城内の廊下を思いっきり走っていて、曲がり角をきょろきょろしながら歩いていたエースに思いっきりぶつかって・・・倒れたら、偶然触れてしまった、いわば事故。
そりゃ勿論驚かなかった訳でもない。
けど、相手が相手なだけに・・・うそ臭い爽やかさで誤魔化されてしまった。

それを・・・ペーターが見ていた事さえ除けば。





「事故だって・・・」

「事故・・・随分と都合のいい言葉ですね。」

「だって
本当の事なんだもん・・・

自然と小声になるのは、ペーターが本気で怒っているから。
こんな風に、あたしに対して怒りを見せる事なんて今までなかったから。
暫く嫌な空気が部屋を包み、お互いひと言も声を発せず・・・時間が朝から夜に変化した。

やがてペーターが小さな声で名を呼んだ。

・・・

「な、なに?」

声をかけられた事が不覚にも嬉しくて顔を上げると、今だ笑っていない瞳に捕らわれた。

「今からキスします。勿論許可してくれますよね。」

「え?」

「・・・目、閉じないで下さいね。」

有無を言わせない、声。
疑問の声も、否定の声もあげる事が出来ず困惑していると、更に脅しとも取れる言葉が降ってきた。

「閉じたら、今日はあなたがなんと言おうと
すっっっごい事しますから・・・」



――― は?



その言葉に驚いているうちに、唇が触れ・・・キスをした。
呪文でもかけられたように瞳が閉じられず、ただただ赤い瞳を見つめ続ける。
キスをして、離れたと思うと再び唇が近付いてくる。
何度も何度も口付けをして、徐々に身体の力が抜けてきて足が震え始めた。

「ま、
まっ・・・て・・・・・・

「まだです。」

崩れ落ちそうになる身体は、壁に押さえつけられているペーターの片手で支えられている。
手首に痛みを感じるほど、強く抑えられているのに・・・唇に降り注ぐキスは、まるで砂糖のように甘い。





ぐったりと力をなくして、肩で息をするようになって・・・ようやく両手の戒めが解かれた。
そのまま崩れそうになる身体を、ペーターが抱きとめた。

「・・・まだ消毒は済んでませんよ。。」

「?」



――― 消毒?



「言ったでしょう?あなた以外の人との触れあいは雑菌がつく、と。」

「・・・」

「まして、あの、エースくんなんて雑菌の親玉です。ウィルスです。そんな彼と事故とはいえ、触れた唇なんて・・・いくら消毒しても気がすみません。」



――― まさか・・・



「雑菌が身体にまわる前に、僕が全て綺麗に消毒してあげます。なんせ僕、綺麗好きなウサギですから。」

「っ!!!」

「抵抗しても無駄ですよ?あぁでも抵抗する力ももうありませんよね。」



あれだけ僕に、酔ってくれたんですから・・・



そう耳元に囁かれて、殴ってやりたいのに、彼の言うとおりもう手をあげる力も残っていない。





勿論、それからペーターの部屋に帰って、あちこち
全身消毒されたのは言うまでもない。





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ハートの国のアリスを書く上で難しいこと。
意味深な台詞
微妙にアブナそうなシチュエーション
・・・です。
私的にすんげぇ難しくて困ってます(苦笑)
多少でも皆さんが読んでうひゃ〜とかうわ〜とか思ってくれればいいんだけどねぇ・・・(遠い目)
ま、本家本元(ゲーム)には敵わないってね。
壁際追いつめと酔わせるってシーンはゲームでもあります。
・・・この時の誰かさんの演技がまた凄いんだ。
好きなので、使ってみました・・・ってか、詰め込んだ。
エースは雑菌の親玉ではありませんが、個人的に面白い役職?をつけたなぁと思い満足です。
ま、あちこち全身消毒されて下さい(意味不明と書いて、限界(苦笑))