ちゃんお待たせぇ」

「そんなに待ってませんよ」

「スケキヨもお待たせ」

の膝の上に座っていたスケキヨの頭をそっと撫でると、スケキヨは少し低めの声でにゃ〜と鳴きノドを鳴らした。

「それじゃぁ行こうか」

「はい!」

公園入り口の喫茶店を出て、桜がいっぱいある事で有名な公園へ向かう。
週末という事もあって会社の宴会や、大学生達の集まりで騒がしい中を通り抜けちょっと奥へ行くと一本だけ静かにたたずむ桜があった。



…ちょっとその周りが暗くて、壊れかけた社がある事を除けば絶好の穴場スポットである。



「綺麗ですね」

「でしょ?ここだと人も来なくて静かだし…僕のヒミツの場所だよ」

「そんな大切な所、私に教えちゃっていいんですか?」

腕に抱いていたスケキヨが舞い散る桜を追いかけて手を伸ばしてジャレ始めたので、はそっとその体を地面に置いた。

ちゃんは特別だから…でも、僕以外の人と来ると…」

「来ると?」

その人がどうなるか分からないけどね…

くっくっくっ…という何かを企んでいるような笑いが夜の社に響く。



――― 社にいるであろう神様の肝さえも冷えさせる皆川の笑い声



「じゃぁ今度真希先輩と来てみましょうか?」

少し意地悪な質問をして皆川の反応を見ようとしたが、言った瞬間皆川の口がニヤリと笑い無言で桜の幹に可愛いお人形を突き刺すと懐から木のトンカチを出した。
同時刻、まだ店に残っていた真希が急に胸を押さえて倒れたが、馬鹿やってんじゃないと太郎にモップで叩かれ止めを刺されていたのは…言うまでもない。

「ご愁傷さまぁ〜」

「冗談ですよ、皆川先輩以外の人とは来ません」

「それがいいと思うよ」

くすくす笑いながら夜桜を見上げるを皆川は満足げに眺めていた。
その時、皆川の足元でスケキヨがじーっと自分の顔を見上げているのに気づいた。

「スケキヨは別だよ。
キミはいつも彼女の側にいてね…余計な虫がつかないように

スケキヨと皆川の内緒話は、夜桜の下で交わされた大切な契約。










「さてっと、そろそろ店に戻らなきゃいけないかな」

「まだ皆仕事してるんですか?」

「仕事は終わってるんだけどね。さっきマスターが哀愁漂う背中を見せながら『春一番!桜紀行』な〜んてのを眺めてたからお花見を提案しようかなぁ…って思ってね」

「ここでやるんですか?」

ここというのは何度も言うが、公園の奥にある古びた社。
人気など全く無い、ある意味穴場といえば穴場だが、心霊スポットの1つになりかねない場所でもある。

「まぁここも候補には上がってるんだけど…場所取りは…もうひとつするつもりなんだ」

「ふ〜ん」

「だからちゃんも明日お花見しようね?」

「えっ!?」

「あれぇ都合悪かった?」

「そんな事無いけど…でも明日は…」

「来て…くれるよね?

「うっっ!」

にんまり笑う皆川は未だに少し慣れなくて…ちょっと怯えてしまう。
そんな事端から分かってやっている皆川はとの距離を徐々に縮めていった。

「来る?」

「ちょっ…
ちょっと遅れてもいいなら…

「それだと僕がつまらないなぁ〜」

「でもほら、太郎先輩は時間通り来てくれるだろうし、徳美くんはご飯あれば絶対に来るし、純くんは…分からないけど、…マキ先輩と同じくらいに行きますからっ!」

「ふ〜〜〜〜ん」

気づくと桜の木を背に逃げ場を失ってしまった。
近づく皆川の目は…笑っていない。

「じゃぁその3人が来なかったら?」

「え?」

「その3人が来なかったらは来てくれる?」

「そんな事…」

「来るんだよね?」

「は…はい」

有無を言わせない迫力の皆川に、はただただ頷くしか出来なかった。
が頷くのを見ると皆川は桜の木の下でまるで何かに魅入られた魔物のように美しい笑顔を見せる。
思わずその笑顔に引き込まれるようにボーっと見つめていると頬に何か温かいものが触れた。

「それじゃぁ明日10時に公園入り口に来てね」

それがにっこり笑って離れていった皆川の唇だというのに気づくには少し時間がかかって、硬直したままの体を皆川に手を引かれ人通りの多い公園へと戻っていった。





それからあとは皆が知っている通り。
スケキヨ達に公園の中心部で場所取りをしてもらい、それとは別にじゃんけんに負けた真希が例の社側の桜の木の場所取りに行った。
一人では嫌だと言った真希が徳を巻き込み、その後様子を見に太郎、純そして皆川がその場に向かった。
何度も逃げようとする真希を封じる為、即席の結界を皆川が作ったが失敗してしまい皆川と純以外の3人は翌日までその場を動く事は出来なかった。

しかしその結界は失敗したのではなく、を呼び出す為と彼女にちょっかいを出されるのを防ぐ為にわざと張った物だという事に気づくものは…翌日の花見の席でマスターと皆川の台詞を聞いた純だけだった。
結局は5分遅刻してやってきたが、遅れた理由がお弁当を作っていたという事だったので皆川は笑顔でを迎えるのだった。

この日一番のご苦労は…真希達でもでもなく、スケキヨと野良猫達だという事を誰が知っているのだろう。





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カフェ吉祥寺の2巻を見つけて…皆川の黒さにメロメロでした(笑)
特に花見話は大好きですね!どうしてあの人はにやりって笑うんでしょう!!にっこりなんてカケラも笑わないんですよね(爆笑)
純の人間外的要素も最近ちょっと好きなんですけどね(苦笑)
そうすると黒い人、皆川と純でしょ?いじめられ役が真希と徳でしょ?
…あ、やばい!太郎ちゃんの位置がマスターと同様になってる!(出てこないって事か!?)