人に対して嫉妬するのは、結構当たり前って思える。
でも、私が嫉妬しているのは…人じゃない。

「ほぉ〜ら、スケ…ご飯だよ」

「にゃぁ〜」



皆川先輩がいつも一番側に置いて可愛がっている、猫のスケキヨ。

朝仕事場に来て一番に挨拶するのも、
一番最初にご飯をあげるのも、
一番気遣うのも…猫のスケキヨであって、私じゃない。



そりゃ私だってスケキヨは可愛いって思うし、時折膝だって貸してあげるけど…でも、でも私だって大好きな皆川先輩の側にいたい!
嫉妬全開の瞳でご飯を食べているスケキヨをじっと見ていれば、何故か耳元で皆川先輩が私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

「どしたの、ちゃん?」

「はっはい!?」

「何だかこの辺のオーラがやけに…紫色だよ?」

「え?!」



――― オーラが紫?



これはオーラが見える事に驚くべき?
それともその色が紫って言われた事に驚くべき?!

皆川先輩相手にそんな細かい事こだわっても仕方がないってわかってるのに、慣れ親しんだ現実からは想像できない単語に思わず首を傾げてしまう。
そんな私を見ても先輩は口元に手を当てるだけで、何も言わない。

「紫…」

「うん、紫」

思わず口にしたのは日頃聞きなれた色。

紫色って…どんな色だったっけ?
いや、違う!紫って色にどんなイメージあったっけ!?

一生懸命それを糸口に頭を回転させるけど、お馬鹿な頭では何も浮かばない。
苦悩している私を横目に、ご飯を食べ終えたスケキヨを抱き上げた皆川先輩が急に声を上げた。

「あぁ…なるほど、そういう事」

「えっと…何ですか?」

「ううん。別に…なんでもないよぉ〜…」

くっくっくっ…と真希先輩がいたら震え上がりそうな笑みを浮かべながら、皆川先輩は楽しそうに笑っている。



…私、また何かやった?



先輩を前にするといつも自分の言動を振り返ってしまう。
ここ、カフェ吉祥寺では皆川先輩に対する言葉は全て『口は災い』になってしまうのだ。
だから自分の身を守る為にも、皆川先輩に対して言葉を口にする時は慎重に事を運ばねばならない。
とはいえ彼相手にそんな冷静に対処できる人なんてこの店にいない。



…勿論、私もその一人



そんな風に自分の言動を振り返っている私は、この時皆川先輩の目が微かに光っていた事に…気づく事はなかった。

「…ねぇ、ちゃん。ちょっとこっちにおいで」

「あ、はい」

考え事をしている間に、スケキヨは自分の家と言っていいのだろうか。
真希先輩のロッカーの中へと潜り込んでいて、皆川先輩はロッカーに寄りかかるように立っていた。
内心ドキドキしながら側まで行くと、先輩がじーっと私の顔を見た。

「…なっ、何ですか!?」

「んー…いや、ちゃんが疲れてるんじゃないかなぁって思ってね」

「大丈夫ですよ?」

一応体力には自信がある。
…というより、この店で体力と精神力がなければ働く事は出来ないだろう。

「でもちょっと顔が赤いね、熱があるかもしれないから少し休んだ方がいいよ」

「だ…」

大丈夫ですよ、と言いかけた私の声は…悲鳴で一気に吹き飛んだ。

「きゃぁーっ!」

「ほーら、大人しくして…暴れるとおまじない、効かないよ?」

「おっ…おっ、おまじな、い!?」



ぎゅっと抱きしめて耳元で囁く声のどれが何のお呪いなんですかっ!



嬉しさと恥ずかしさ半々、でも徐々に赤くなる耳は確実に皆川先輩の声が耳に届いているって事。

「ね、紫の色の意味…知ってる?」

「はい?」



きゃぁーっ声、声がひっくり返ってる!!



ヘンな声が出ないよう口を押さえようにも、両手も含めて皆川先輩に抱きしめられてるから動かす事が出来ない。
まるで普段皆がかかる罠のように、自由が利かない体を皆川先輩は更に強く抱きしめて耳元に声を注ぎ込む。

「紫のオーラはね…嫉妬、って意味なんだ」

「…え?」

「さて…キミは誰に嫉妬、してるのかな?」

至近距離でいつものような妖しい笑みではなく、柔らかな笑みを浮かべられて思わず声をなくす。

「…あぁでも今は綺麗なピンク色だね。何かいい事でもあったのかな?」

きっと皆川先輩は気付いてる。
私がスケキヨに嫉妬して、皆川先輩に抱きしめられて頬を赤らめてるその意味を。
小さく深呼吸をして、微かに動く手で先輩のエプロンをギュッと握りしめた。

「み、皆川先輩が側に…いてくれるからです」

今出来る限りの勇気を言葉にした。
その精一杯の勇気のお返しは、頬に触れた柔らかな唇。
そして緩められた腕から自由になった手で、頬に手を沿え顔をあげると…今まで見たことがないような笑みを浮かべた皆川先輩がいた。

「うん、僕もちゃんと一緒にいるとピンク色になれるよ」

「…皆川先輩」

人の気持ちを色で表し、尚且つそれが見えるのは皆川先輩だけだと思う。
でも、そんな先輩の力のおかげで…私は皆川先輩に想いが告げられた。



次の休憩時間からは、スケにも嫉妬しない。
だって、彼の一番が自分だって分かったんもの。





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15のお題のボツ作品、カフェ吉バージョンその1(笑)
ヒロインが違うじゃん(苦笑)
まぁ別の場所にUPの予定だったから、何も考えず書いたんだよね。
嫉妬=紫、と言う図式が何故か自分の中に出来上がっていて…皆川先輩ならその辺の色も読めそうだよなぁと思って書きました。
ま、途中で書けなくなって放置しちゃったんだけど、ね。
好きな人が出来ると、その視線が別に向いてるのが寂しくないですか?
ヒロインは寂しくて、ついに猫のスケにまで嫉妬し始めちゃいました(笑)
このまま放置しておくと、わら人形を使ってからかわれる真希ちゃんや太郎ちゃんすら羨みそうな勢いです(爆笑)
あぁ、その前に思いが叶ってよかったねw←ま、まとめ?(汗)