本日の業務を終えた皆川が荷物をまとめ、さて帰ろうかとロッカールームを出た所でまだキッチンに明かりがついている事に気が付いた。
確か自分がキッチンを出た時に消したはずだが…。
足音を忍ばせてそっとキッチンを覗き込むと、日頃一緒に仕事をしているが残っていた。
「何してるのぉ?」
「み、皆川先輩っっ!?」
「みみながわ?」
流石に毎日一緒にいても皆川の気配を消した登場の仕方になれるはずもなく、は驚きで早くなった心臓に手を当て深呼吸をして何とか落ち着きを取り戻した。
「皆川先輩もう帰ったかと思いました」
「ん〜帰ろうと思ったらキッチンに明かりがついてたから…泥棒かと思ってね」
「すみません」
素直に頭を下げるの耳に、いつもの忍び笑いが聞こえてきた。
「泥棒なら丁重にお出迎えしなきゃと思ってねぇ…」
「そ、そうですね!」
「で、本当は何してるの?」
「…本当は内緒にしたかったんですけど」
そう言ってが背中に隠していたものを皆川の前に差し出す。
それはお店では扱っていない…チョコレートトリュフ。
見た目が違うものが数個あることから、何種類か作っているのだろう。
「チョコレート?」
「はい。この間私が発注を間違えた所為で大量にチョコレートが届いたんです。ケーキにするにも多すぎるし…それなら日頃お世話になっている皆さんに…その感謝も込めて…」
「あぁ、バレンタイン」
「はい!ってこれだけ日にち過ぎててバレンタインも何もないんですけど…」
苦笑するを余所に、皆川は視線をあらぬ方へ向けるといつもの怪しい笑みを浮かべながら当時の様子を語り始めた。
「バレンタイン…その日はねぇ、うちの店でもバレンタインフェアをやってね。店中チョコで溢れてたんだよぉ…その上お客さんはいろ〜んなチョコを持ってきてくれてね。お店が終った後、マキちゃんと徳ちゃんが嬉しそうに食べてたんだけど…食べ過ぎてねぇ、ふふふっ」
皆川は楽しそうに笑いながら店のフロアの方を指差しながらに向ってニヤリと微笑んだ。
「あの床が…マキちゃんと徳ちゃんの鼻血で血の海になったんだよ」
「え!?」
「名づけてブラッディバレンタイ〜ン♪」
「…それは片付け大変だったでしょうね」
その惨劇をそんな一言で片付けていいのだろうか。
彼女も大分皆川に毒されてきているような気がしてならない。
皆川はそんな事小さじ一杯分も気にせず会話を進める。
「んーでもねぇ太郎ちゃんが新製品の洗剤の威力を試す、いーチャンスって…それはそれは目を輝かせて喜んでたよ」
「そうなんですか。」
「…ちょっと青筋浮いてたけどね」
「そういえばこの間、柑橘系の香りがする洗剤の話してました!」
「んーそれとは違ったかな〜、何だか…ドロドロしててちょっと僕好み…な色だったなぁ」
皆川好みの洗剤って…と突っ込みを入れる人物は今日はもういない。
「そ・れ・に…血塗れになって掃除する彼らの姿も中々楽しかったよ」
「滅多に見れない光景ですものね」
「うんうん。ちゃんも分かってきたねぇ…」
毎日血塗れになって掃除する姿が見える喫茶店は…どうなんだろう。
しかもそれを楽しいの一言で済ましてしまっていいのだろうか。
少し通常と会話がずれている事を気にもせず、は背後にあったチョコレートの乗った皿を手に取ると皆川の前に差し出した。
「あ、突然ですけど皆川先輩。コレ味見して頂けませんか?」
「ん?僕に?」
目の前のお皿に乗った様々なトリュフとの顔を交互に眺める。
「はい!皆川先輩のOKが出れば、明日自信を持って皆さんに差し上げられます」
「ふ〜ん…それじゃ」
皆川は手近に置いてある一番スタンダードと思われるトリュフをひょいっと摘むと、それをじっと眺めてから口元へ運ぼうとしてピタリと動きを止めた。
何かおかしな所があったのかとが不安そうに声をかける。
「皆川先輩?」
「ちゃん、ちょぉ〜っとお口開けて?」
「は?」
「そう。はい、あ〜ん」
意味も分からないまま目の前で口を開けている皆川同様、も遠慮がちに口をあけた。
「!?」
目にも止まらぬ速さで皆川が手にしていたチョコレートをの口の中に放り込んだ。
自然と口中にチョコレートの甘さが広がっていく。
はそのまま反射的にもぐもぐと口を動かすと、しっかり飲み込んでしまった。
は眉を寄せると少し困った表情で目の前で口元を押さえて笑っている皆川を見た。
「私が食べても意味ないんですけど…」
「大丈夫、ちゃ〜んと味見してあげるから」
「本当ですか?じゃぁ…」
がパッと表情を変え皆川に新たなチョコレートを差し出そうとした瞬間、の唇に何か柔らかいものが触れた。
「…うん。とぉ〜っても美味しく出来てると思うよ」
にっこり笑うと皆川は自分の唇をネコのようにぺろりと舐めた。
「!!!!!」
「ゴチソウサマ」
ふふふと笑いながらキッチンを出て行く皆川の背中を、まるで熱したフライパンの上にのったバターのように蕩けた体で見送るだった。
結局そのチョコは翌日スタッフの手に渡る事は無く、綺麗にラッピングされキッチンにいるあの人の元へと運ばれた。
これ実は先月書いたんですよ。
やっぱりカフェ吉のメンバーにもチョコレートをvvvと思った時には既に期日は過ぎていた(笑)
それでもやっぱり書きたくて…どうしてこうなったんだろう(おいおい)
何気なく思いついたのをメモしておいて、それをパソコンに打ち直したら…皆川先輩にヒロイン食べられちゃった(苦笑)
うちの皆川先輩サンもしかして、手…早すぎ?
…ま、いっか♪(いいのか!?)
あと少しカフェ吉話が手元にあるのでもう暫くお付き合い下さいねv
(…って誰が付き合ってくれるんだろう…皆川先輩の出生の秘密と同じくらい謎だわ)