「泣くなよ、姫君。」
「む・・・り・・・」
「オレがお前を置いていくわけ、ないだろう?」
「・・・で・・・も・・・」
優しく微笑んでくれているけど、腕の中のヒノエの体は徐々に冷たくなっていく。
「や・・・」
「オレとした事が・・・ドジったね・・・」
「喋らな・・・で・・・」
止血はした。
持っている薬草も使える物は全部使った。
それに、譲くんが弁慶を呼びに行ってくれてる。
でも・・・でも・・・・・・
「・・・お前は、怪我・・・してない、ね?」
「ん」
コクコクと頷いた瞬間、抱きかかえているヒノエの顔に涙の雫が落ちた。
「泣くなよ・・・姫君の、泣き顔なんて・・・」
「喋っちゃ駄目!!」
「残念・・・その願いは、聞け・・・ないな。」
荒い呼吸の中紡がれる言葉は、最初に比べて細くなっている。
両腕で抱えているヒノエの体も、気のせいではなく・・・重く感じる。
「だって・・・オレが、口を閉ざす、と、お前・・・は、また・・・・・・・・・」
動いていた唇が止まり、ヒノエの瞼がゆっくり閉じられそうになったのを見て、思わず声をかける。
「ヒノエ!!」
「・・・・・・ほら、ね。オレが・・・話して、いないと・・・姫君、が・・・心配、する、だろ・・・」
ゆっくり開かれた瞳には、まだ微かに力があって。
唇から紡がれる言葉も、細々とだが・・・生きる力を感じる。
「ヒノ・・・」
「大丈夫だよ・・・じきに、アイツ、も・・・来る。その時、おっ死んで、たら・・・笑われる・・・から、ね。」
「そ、そうだよ。だからっ、だからっっ」
――― あと少し、頑張って・・・
そう言葉にしたいのに、その言葉を受け止めるはずのヒノエの顔は青ざめていて・・・白い。
お願い。あたしの大切な人を、助けて・・・
白龍から与えられた、あたしの中にある力を与えても構わない。
あたしが動けなくなっても構わない。
少しでも、あたしの力を与えられるなら・・・
そう思いながら、青白くなっているヒノエの唇にそっと自分の唇を重ねた。
冷たくて、乾いている唇に少しでも温もりと潤いを ―――
「・・・嬉しい、ね。姫君からの・・・口づけ、なんて・・・」
「元気になったら・・・次は・・・ヒノエから・・・・・」
ヒノエの頬に涙を零しながら精一杯微笑んでそう呟けば、ヒノエが初めて口元を緩めて・・・笑った。
「ヒノエ!大丈夫か!」
「譲くん・・・」
「全く、無茶ばかりして・・・」
「弁慶さん、早くヒノエの手当てを!」
「落ち着いて下さい、譲くん。彼女の応急処置が施されているなら大丈夫です。」
「弁慶・・・」
ポンッと肩に弁慶の手が置かれ、優しい笑みが安堵の言葉を告げてくれる。
「ありがとう、あとは僕に任せて下さい。」
「・・・随分早い、お出ましだ・・・ね。もう少し、姫君との逢瀬を・・・楽しみ・・・たか・・・」
「そんな口を利く余裕があるなら、多少手荒い手当ても耐えられますね。」
「そう、だ・・・・・・ね・・・」
「ヒノエ!」
「気を失っただけです。・・・大丈夫、あなたがここまで頑張ってくれたんです。どんな事をしても、僕が死なせません。」
あたしの腕からヒノエを抱き上げ、断言してくれた弁慶を・・・信じる。
――― 助かる・・・ヒノエは、助かる
後日、起き上がれるようになったヒノエの元へ向かったあたしは、いつものように名前を呼ばれて、いつものように・・・その腕に抱きしめられた。
そして、そっと耳元で囁かれ・・・照れながらもゆっくり目を閉じる。
――― 約束だったろ?
もう、涙味のキスはいらない
■切な甘い10のお題■涙味のキス。
web拍手の小話だって分かってたんですけど、いやぁ〜ノッちゃってね(笑)
息も絶え絶えなヒノエのお話です。でもちゃんと最後は頭領復活してます!!
・・・ってか、このまま息絶えたら多分あたしが泣き出しそうだ(苦笑)
基本的に甘いけど、切ない・・・を目標に頑張ってるので死ネタはありません!!