泣くなよ、姫君。

む・・・り・・・

オレがお前を置いていくわけ、ないだろう?

「・・・で・・・
も・・・

優しく微笑んでくれているけど、腕の中のヒノエの体は徐々に冷たくなっていく。

「や・・・」

オレとした事が・・・ドジったね・・・

「喋らな・・・
で・・・



止血はした。
持っている薬草も使える物は全部使った。
それに、譲くんが弁慶を呼びに行ってくれてる。

でも・・・でも・・・・・・



・・・お前は、怪我・・・してない、ね?

「ん」

コクコクと頷いた瞬間、抱きかかえているヒノエの顔に涙の雫が落ちた。

泣くなよ・・・姫君の、泣き顔なんて・・・

「喋っちゃ駄目!!」

残念・・・その願いは、聞け・・・ないな。

荒い呼吸の中紡がれる言葉は、最初に比べて細くなっている。
両腕で抱えているヒノエの体も、気のせいではなく・・・重く感じる。

だって・・・オレが、口を閉ざす、と、お前・・・は、また・・・・・・・・・

動いていた唇が止まり、ヒノエの瞼がゆっくり閉じられそうになったのを見て、思わず声をかける。

ヒノエ!!

・・・・・・ほら、ね。オレが・・・話して、いないと・・・姫君、が・・・心配、する、だろ・・・

ゆっくり開かれた瞳には、まだ微かに力があって。
唇から紡がれる言葉も、細々とだが・・・生きる力を感じる。

ヒノ・・・

大丈夫だよ・・・じきに、アイツ、も・・・来る。その時、おっ死んで、たら・・・笑われる・・・から、ね。

「そ、そうだよ。だからっ、だからっっ」

――― あと少し、頑張って・・・

そう言葉にしたいのに、その言葉を受け止めるはずのヒノエの顔は青ざめていて・・・白い。



お願い。あたしの大切な人を、助けて・・・
白龍から与えられた、あたしの中にある力を与えても構わない。
あたしが動けなくなっても構わない。
少しでも、あたしの力を与えられるなら・・・



そう思いながら、青白くなっているヒノエの唇にそっと自分の唇を重ねた。
冷たくて、乾いている唇に少しでも温もりと潤いを ―――

・・・嬉しい、ね。姫君からの・・・口づけ、なんて・・・

「元気になったら・・・次は・・・
ヒノエから・・・・・

ヒノエの頬に涙を零しながら精一杯微笑んでそう呟けば、ヒノエが初めて口元を緩めて・・・笑った。










ヒノエ!大丈夫か!

「譲くん・・・」

「全く、無茶ばかりして・・・」

「弁慶さん、早くヒノエの手当てを!」

「落ち着いて下さい、譲くん。彼女の応急処置が施されているなら大丈夫です。」

「弁慶・・・」

ポンッと肩に弁慶の手が置かれ、優しい笑みが安堵の言葉を告げてくれる。

「ありがとう、あとは僕に任せて下さい。」

・・・随分早い、お出ましだ・・・ね。もう少し、姫君との逢瀬を・・・楽しみ・・・たか・・・

「そんな口を利く余裕があるなら、多少手荒い手当ても耐えられますね。」

そう、だ・・・・・・ね・・・

「ヒノエ!」

「気を失っただけです。・・・大丈夫、あなたがここまで頑張ってくれたんです。どんな事をしても、僕が死なせません。」

あたしの腕からヒノエを抱き上げ、断言してくれた弁慶を・・・信じる。

――― 助かる・・・ヒノエは、助かる










後日、起き上がれるようになったヒノエの元へ向かったあたしは、いつものように名前を呼ばれて、いつものように・・・その腕に抱きしめられた。
そして、そっと耳元で囁かれ・・・照れながらもゆっくり目を閉じる。

――― 約束だったろ?



もう、涙味のキスはいらない





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■切な甘い10のお題■涙味のキス。
web拍手の小話だって分かってたんですけど、いやぁ〜ノッちゃってね(笑)
息も絶え絶えなヒノエのお話です。でもちゃんと最後は頭領復活してます!!
・・・ってか、このまま息絶えたら多分あたしが泣き出しそうだ(苦笑)
基本的に甘いけど、切ない・・・を目標に頑張ってるので死ネタはありません!!