「・・・愛していますよ。」

「弁慶・・・」

「あなたを、心から・・・」

そう言って抱きしめてくれた弁慶の背に、震える手を伸ばす。



ずっと、ずっと望んでいたもの。
あたしだけを見て、あたしの事だけを考えてくれる・・・弁慶。



「弁慶・・・」

「僕はこんな風にしか・・・君を愛せない。」

「・・・そんな事ない。」

弁慶の背に回した手でギュッと黒衣を掴み、そっと目を閉じる。

「あたしは今・・・幸せだから。」

「ふふ、そんな風に可愛らしい事をされたら、離せなくなりそうです。」



――― 嘘



そんな事を言っていても、朝になれば弁慶は何もなかったかのようにこの手を離すだろう。
それが分かっているから、少しだけ意地悪を言ってみた。

「じゃぁ、離さないで・・・って、お願いしてもいい?」

「・・・いけない人ですね、君は。いつの間にそんな表情をするようになったんですか。」

「弁慶がこんな顔、させてるんだよ。」

「それじゃぁ責任を取らなきゃいけませんね。」

クスクスといつものように柔らかな笑みを浮かべながら、背中に回されていた手が、あたしの両頬に添えられた。
普段ならそれだけで顔を赤くして目をそらしてしまう所だけど、今だけは目をそらしたくない。



――― あなたが好き

その想いを瞳に込めて、まっすぐ弁慶の目を見つめる。



「・・・困りましたね。本当に・・・離せなくなりそうだ。」

「・・・」

「目を、閉じて下さい。」

「・・・」

「僕はこれ以上、君に捕らわれる訳にはいかないんです。」

そう呟くと、頬に添えられていた弁慶の手があたしの目を覆い隠した。

「べんけ・・・」

その手を剥がそうと抗議の声をあげかけた瞬間、その声は弁慶の唇に奪われてしまった。
背中に回していた手で小さな抵抗をしてみるけど、それすらも時と共に無意味なものとなる。



キスで脱力してしまったあたしの体を抱き上げてくれた弁慶が、ほんの少しだけ悲しそうな声を落とした。

「・・・君が望んだ事ですよ。」



一夜だけの恋で構わなかった。
弁慶が、あたしを見てくれるなら、それだけでいいと思った。

――― そう、割り切っていたはずなのに・・・





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■切な甘い10のお題■一夜だけの恋。
うわぁ〜〜ん、弁慶ぃ〜っっ!!・・・自分で書いててあまりの切なさに泣きたくなった(おい)
大好きだけど、弁慶は今、人を愛する事は出来ない。
それでも愛して欲しくて望んだ一夜だけの恋・・・弁慶にとっても辛い、一夜なのですよ。
割り切れるもんじゃないよなぁ・・・相手があの弁慶だもん、うん、余計辛い気がする。
くっっ、絶対幸せにするからねっ!(意味不明な言動は愛ゆえとお思い下さい(笑))