「涼兄、新しいシャンプーここに置くよ。」

お風呂場にいる涼兄に声をかけたけど、シャワーの音で聞こえないらしい。
まぁ涼兄なら気付くだろうと思って踵を返した瞬間シャワーが止まり、涼兄の声が聞こえた。

「悪いね、ありがとう。」

「ううん。」

「ついでにもうひとつ頼まれてくれるかい。」

「何?」

「そこに置いてある白衣をクリーニングに出して貰えるよう、母さんに渡してくれるかな。」

「白衣?」

言われて周囲を見渡すと、洗濯機の所に白衣が置かれている。

「洗濯機の上のヤツ?」

「あぁ。一応何も物は入ってないと思うけど・・・」

「あたしも確認してあげるよ。」

「お願いするよ。あぁ、そうだ。小銭が入ってたらお小遣いにしていいからね。」

もぅ、涼兄ってばいつまで子供扱いするつもりなんだろう。
文句のひとつも言ってやろうと思ったけど、再びシャワーの音がお風呂場に聞こえ始めたので文句を言うのは涼兄がお風呂を上ってからにしようと決めて、脱衣所を出た。
そのまま台所へ向かい、さっきまでいたはずの母親に声をかけようとしたら・・・机に一枚のメモを残して姿を消していた。
そこにはお隣に行ってきますと書いてあるが、多分お茶をしに行ったに違いない。

「ま、その内帰って来るよね。」

久し振りに涼兄が帰って来てるんだから夕飯までには帰るだろうと高を括って、取り敢えず白衣を椅子にかけようとしてポケットのチェックを思い出す。

「いっけない。」

慌てて大きな白衣のポケットに手を差し入れ、中を探る。
何もないか・・・と思った瞬間、手に紙のような物が触れたので、何気なく取る。

「・・・え?」

小さく折り畳まれたメモに書かれた字は、涼兄の字じゃない。
どう見ても女の人の字で・・・携帯の番号と名前が書いてある。

「た、ただの友達だよね。そう、そうだよ
・・・友達・・・だよ。

そう言いながらメモをたたもうとするけど、何故か手が震えて上手く端と端があわせられない。

やだ・・・

震える手をもう片方の手で掴んで、何とか震えを止めようとするけど・・・止まらない。

・・・やだよ、涼兄・・・



兄妹なら、ずっと一緒にいられると思った。
側にいて、誰よりも甘えられて、我が侭を言えて・・・愛して貰えると思った。
でも・・・こんな風に、いつか涼兄にも彼女が、出来る。



あたしより、妹より大切に思う女性が・・・



やだ・・・

ギュッと白衣を抱きしめて、顔をうずめる。
まるで涼兄がそこにいるかのように、胸元に頬を寄せ・・・そっと唇を乗せる。





決して伝えられない想い
報われるはずのない、想い

――― 今だけ、私を涼の香りで包んで・・・





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■切な甘い10のお題■貴方の服に口付け。
極少数の涼兄好きさんのため、と言っても過言ではありません(笑)
一応サイト内を網羅しようと、色んな作品を混ぜて書いてるのでこんなのも出てきます。
これはまだ涼兄が恋人じゃない時、手のかかる妹の時です。
あんなカッコイイお兄ちゃんがいて、ある日突然彼女が出来たら絶対戸惑うなぁ・・・ってか邪魔する自信がある(本気(笑))