「ちょっといいですか?」

「何?」

八戒に手招きされ、開いていた雑誌を閉じて立ち上がる。

「どうしたの、八戒?」

「貴女に渡したい物があって・・・庭先に出て貰ってもいいですか?」

「うん、いいよ。」

そのまま後について庭に出ると、テーブルの上にお茶が用意されていた。

「あ、外でお茶するの?今日は久し振りに暖かいもんね。」

「それもいいんですが・・・その前に、少しだけここに座って待っていて貰えますか。」

「忘れ物?」

「えぇ、そんな所です。すぐに戻りますから、お茶でも飲んで待っていて下さい。」

「はーい。」

八戒に言われたとおりカップに紅茶を入れてひとくちのみ、頬を撫でる爽やかな風に目を細めていると、視界に有り得ない物が映った。

「・・・」

「本当はもっと可愛らしい物にしようと思ったんですが・・・」

「・・・」

「貴女の事を考えて選んでいたら、こんなに大きくなってしまいました。」



八戒の声と共に目の前にやって来たのは、大きな大きな・・・花束。



「・・・・・・は、八戒・・・こ、これ・・・は?」

「ホワイトデーの贈り物です。」

「え、えぇー!?」

ホワイトデーって、今年は全員にひとつのケーキを焼いただけだからお返しいらないって念を押したのに!!
それにどうみたってこの花束、ケーキの3倍返しを超えてる。

「受取って貰えますか。」

「ちょ、待って八戒!!これじゃぁあたし花屋さんになっちゃうよ!?」

「はい?」

「っていうか、どうしたのこれ!?」

「あはは、やっぱり驚かれちゃいましたね。」

「普通驚くよ!!」

「さっきも言ったとおり、最初は小さな花束か花篭にする予定だったんです。それならお返しとして受取って貰えなくても、貴女の部屋に飾れるでしょう。」



――― ・・・うん、確かに



「そう思ってお店に行ったんですが、一足早い春の花が沢山あって・・・全部詰めたらこんなに大きな花束になってしまったんです。」

「・・・・・・」



開いた口が塞がらない。



あんなに悟浄に家計費のやりくりの大切さを説いていたのに、それなのにこんな所にお金を使っちゃっていいの!?

「安心して下さい。これは僕の財布から出てますから。」

不安を見透かすようににっこり笑顔でそういった八戒だけど、収入は悟浄のお金しかないはずなのにいつの間に稼いだんだろう?

「・・・どうしました?」

「あ、ううん。えっと・・・あの・・・」

疑問を残しつつも、この花を受取るかどうか悩んでいるあたしに気付いたのか、八戒は花束を持ったままあたしの手を取った。

「貴女の為に選びました。今の僕の気持ちと共に、受取って貰えますか?」



そんな台詞を、優しい笑顔と共に言われて受取らない人は・・・いないよ、八戒。



「・・・はい。」





ホワイトデーのお返しは、両手に抱えきれないほどの花束





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■ホワイトデー10■両手に抱えきれないほどの花束
最後の最後まで誰にしようか考えて、この方になりました。
実は今1番スランプで書けない人なんですけどね(苦笑)
両手に抱え切れない花は、実際テレビで見ました。八戒の台詞もほぼそれに近いです。
相手の事を思って花を選んだらこんなに大きくなりましたってのが使いたかったのと、八戒のマル秘財布話が書きたかっただけ(笑)