「ヒノエ〜?」

「もう少しだから、いい子にしてな。」

「・・・そう言ってもう随分歩いたよ?」

「ふふ、焦らすのも楽しみを膨らます一種の手段だよ。」

「むぅ〜・・・」

「絶対おまえを喜ばせて見せるから、もう少し頑張ってくれると嬉しいね、姫君。」

そう言いながら、繋いでいた手をギュッと握られてしまったら・・・何も言い返せない。





それから随分と急な山道を登って、滅多に人の通らない道も通って・・・ようやく開けた場所が目の前にありそうって所に来たら、繋いでいた手が離れ、その手で目隠しをされた。

「ちょっ、ヒノエ!?

「別に何もしやしないよ。」

「じゃぁこの手離して?」

「残念。いくら姫君のお願いでも、それは聞けないな。」

「ヒノエ〜!」

「ふふ、あと数歩前に進んだら、目隠しを解いてあげるよ。」

耳元で優しく囁かれて、思わず耳が真っ赤に染まる。
それを後ろから見たヒノエが微かに笑っているのも何となく分かる。
恥ずかしいやら照れくさいやら・・・とにかく早くこの戒めを解いて貰おうと、ヒノエに示されるままに足を進める。

数歩歩いて立ち止まった場所でヒノエの戒めが解かれ、ゆっくり目を開ける。

「・・・・・・」

「おまえへの、贈り物だよ。」



声を無くしてしまうくらい咲き誇る、一面の花畑。



「・・・・・・」

「ばれんたいん、とやらのお返しを色々と考えたんだけどね。おまえには物をやるより、美しい景色を見せた方が喜ぶんじゃないかって思ったのさ。」

「綺麗・・・」

「ここはオレの秘密の場所のひとつだからね。今まで誰も連れて来た事はないんだ。」

「そんな大事な場所にあたしを連れて来ちゃって良かったの?」

「・・・馬鹿だな。おまえだから、連れて来たんだよ。」

「?」

意味が分からなくて首を傾げると、ヒノエが優しく微笑みながら、そっとあたしの髪に手を伸ばした。

「おまえなら、この咲き誇る花畑の何処にいても見つけられるって思ったから、さ。」

「どういう・・・意味?」

「あれ?まだ分からない?」

「・・・うん。」

「じゃぁ、こうすれば分かるかな?」

肩を抱かれて咲き乱れる花の中を進み、中央で座るよう促され腰を下ろす。
甘い花の香りに囲まれて、キョロキョロ周りを見ていたら、不意にヒノエに肩を押され視界が空に向けられる。

「ちょっ、ヒノエ!?」

「どんなに大輪の花が咲いても、おまえ自身の美しさには敵わない。」

「・・・え?」

「どんな花でも、おまえ以上に甘い香りを放つ花は・・・ない。」

「・・・」

「ここにある花を全部、おまえにやるよ。だから、その代わり・・・」

最後に耳元に聞こえたヒノエの言葉は、今日一番あたしの胸を高鳴らせた。



――― 甘い蜜を、オレにくれるね?





ホワイトデーのお返しは、ドキドキがいっぱい





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■ホワイトデー&迷宮発売記念1■ドキドキがいっぱい
本当はこれ、花のネタで書いてたんです。
で、多分、そのまま花にしても良かったんだけど、寧ろドキドキも詰まってる気がしたので、最後の最後で変更しちゃいました。
ちなみに甘い蜜は、姫君の唇です(照)