「おい、ちょっといいか。」

「はい。」

食事を終えて先輩達と話をしている時、九郎さんに声をかけられた。

「どうしたんですか?」

「・・・たいした事ではない。」

皆の前じゃ出来ない話なのかな?
あ・・・もしかしてまた何処か怪我でもしたの!?

「怪我したんですか!?」

反射的に九郎さんの手を掴んだが、当の本人は夜目にも分かるほど頬を染めてそれを否定した。

違うっ!怪我などしていない!

「良かった。」

手を払いのけられた事はちょっと寂しいけど、怪我がないならそれでいい。

「もし怪我したら言って下さいね。すぐに手当てしますから。」

「・・・あぁ。」





それから暫くの間沈黙が続いたが、やがて九郎さんが手を前に差し出してこう言った。

「今日はばれんたいんの礼をする日なのだろう。」

「え?」

「本来であればきちんとした品を渡す所だが、今は難しい。だからこれで我慢してくれ。」

そう言ってあたしの手に乗せてくれたのは、小さな木彫りのウサギ。

「うわぁ・・・可愛い!どうしたんですか、これ!?」

「移動中手頃な大きさの木を見つけたからな。暇を見て俺が作った。」

「え?九郎さんが?」

「あぁ。」

「・・・凄い。器用なんですね。」

「そうでもない。」

ぶっきらぼうにそう言いながらも、顔をそらした九郎さんの耳が少し赤くなっている。
それに気付かないフリをしながら、指先でそのウサギの背を撫でていると、不思議と温かな温もりが指先に伝わってくる気がした。

「ありがとうございます、九郎さん。あたしこれ大切にします!」

「あぁ・・・そういって貰えれば嬉しい。」

「こんなに小さいのに躍動感あって、ちゃんと持っていないと逃げ出しちゃいそうですよね。」

「お前は足元が覚束ないからな。転んだ隙に逃げるかもしれんぞ?」

う゛・・・否定出来ないかも。」

誰も見てない所じゃ転んだ事ないのに、誰か見てると・・・転ぶ事多いんだよね。
しかも九郎さんが見てる時が、一番多いかもしれない。

「安心しろ。もしお前が転んで、兎が逃げそうになったら・・・俺が捕まえてやる。」

「九郎さん・・・」

・・・誰にも、渡さない。

「?」

「さぁ、そろそろ戻るぞ。俺だけじゃなくお前まで陣を離れていると望美が煩い。」

「先輩が?」

「そうだ。お前に何かあると一番煩いのは望美だからな。」

「・・・心配、かけてるのかな。」

「馬鹿・・・それだけお前の事を気にかけているという事だろう。俺もお前の姿が見えないと落ち着かん。それと同じだ。」

「・・・・・・・・・え?」

「行くぞ。」

「あの、九郎さん!?」

少し足早に前を歩く九郎さんを追いかけるべく、あたしも転ばないよう気をつけながら足を進める。



横に並んだら、教えてくれますか?
今、九郎さんが言った言葉の意味を。

そして、さっき呟いた・・・意味深な言葉の意味を・・・





ホワイトデーのお返しは、真心を込めて





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■ホワイトデー&迷宮発売記念10■真心を込めて
九郎に苦労した。シャレじゃありません。本当に苦労したんですっ!!
だってこの人書けないんですもん。だから半ば強引に書いたとも言う。
他の人より愛情が少ないからかしら(苦笑)でも取り敢えず迷宮発売記念には間に合った!!
後半になればなるほど話が長くなってるのはまとまりがつかず、ダラダラ書いてるからです(苦笑)