「うぁ〜〜んっ!携帯〜〜っ!」

「アドレスが無事なら問題ねぇだろう」

「アドレス以外も大事なのいっぱいいっぱいあるのーっ!」

「せやねぇ…写真とか、ムービーとか」

「そうっ!」

「普段からバックアップをとっとかねぇからだろう」

「携帯にもあるなんて知らなかったもんっ!」

ソファーに座っている二人の間…というか、隙間の床に座り、ソファーを叩きながら突っ伏す。

は、ほんま機械に弱いなぁ」

「無事に戻ってきてぇぇぇ〜〜」

よしよしと宥めるように頭を撫でられ、ぐしぐしと鼻を鳴らす。

「言霊の力ってあるやろ。無事に戻ってくるよう、俺も言うたげるわ」

蓬生ぃ〜

「せやから、泣かんどいて…な?」

零れた涙を指で拭われ、その仕草に一瞬目を奪われる。
けれど、次の瞬間、ごきっと音がしそうな勢いで強引に反対側に首が動いた。

「うわ…」

「そんなんでお前が泣き止むっていうなら、俺も言ってやる」

「…千秋」

「ちゃんと直って、戻ってくる…安心しろ」

「千秋が…いい人だ」

「はぁ?いい人じゃねぇよ」

「え?だって…」

他人の携帯が無事戻るよう祈ってくれる千秋のどこがいい人じゃないんだろう。
そう思って首を傾げると、背後から抱き寄せるよう肩から真っ白な腕がするりと首にまとわりついた。

「いい人やのうて、いい男って言うたげるとええんよ」

「実際いい男だろう」

「確かに、いい男です」

「…やって、良かったな、千秋」

「なんかお前に言わされたようで、いまいちだな」

「わがままな坊ちゃんやなぁ…」

くすくすとすぐそばで聞こえる笑い声。
そして、目の前で呆れながらも、肘をついてこちらを見ているまっすぐな眼差し。



困った…なんだか、居心地がよくて…困る。



「けど、蓬生。お前が写真やムービーを大事に思ってるってのは驚きだな」

「ふふ…そりゃ、色々撮っとるからね」

「ほぉ…」

「蓬生写真撮ってたの?」

腕の中で僅かに身体を捻り、蓬生へ視線を向ける。

「思いつくままに…言うか、つい手ぇが動いて、な」

「へー、見せて見せて」

「…んー、それはあかん。内緒や」

「えー」

「…どうせ見せられないもんばっかり撮ってんだろ」

「いややわ、千秋。そないなもん今更残してもしょうがないやん」

「今更、ってことは、昔は撮ってたな」

「若気の至りってやつや。千秋にも見せたやろ?」

「あー…随分とお盛んだった頃の、な」



見せられない?
若気の至り?
お盛ん???




謎の単語がどんどん頭の中に落ちてきて、パズルゲームで行けばもうすぐで画面いっぱいに積みあがってゲームオーバーだ。

「けど、今はちゃうよ…大事な、俺の宝物や」

「そいつはいい。おい、、そのまま蓬生捕まえておけ」

「え、あ、うん!」

首に回されている腕をロックするかのように、自らの手でがしっと掴む。
すると、座っていた千秋が立ち上がり、蓬生の背後へ回った。

「ちょ、千秋、何するん?」

「携帯を貸せ」

「あー、あかんて。ちょ、離してぇや」

「なんか面白いからやだっ!」

「ったく、チェーンで繋ぎやがって…」

「千秋、あかんて!、手ぇ離し!」

「あはははは!」



携帯電話のデータが、なくなるかもしれない。
そんなことを考えてたら、凄く寂しくなった。
今までの全部が消えちゃうような…そんな感じ。

でも、そんなものも吹き飛ばしてくれる…彼らがいる。



「………なるほど」

「見せてっ、見せてーっ!

「千秋…それ、に見せたら…本気で絶交や」

なんでっ、なんでーっ!

千秋が頭上高く掲げてることと、貼ってあるメールガードのせいで画面は全く見えない。

「千秋ーっ!見せて〜っ」

「今度は俺にわからないロックNo考えるんだな、蓬生」

「千秋がこない意地の悪いことするなんて思わんかったわ」

「あーっ!」

あたしが蓬生の携帯を見る前に、携帯は正しい持ち主の元へ戻った。

「諦めろ、。あれはまだ……お前には早い」

「はぁ!?」

「そうそう、そういうことや」

「ええ!?」

ぐしゃぐしゃと千秋に頭を撫で回され、髪がぼさぼさになると、今度は千秋が蓬生の隣に隙間を開けずにどっかり腰を下ろした。

「おい、。紅茶だ」

「あ、俺も」

「…むぅ〜〜」

「ぼさぼさの頭にふくれっ面じゃ、迫力ねぇぞ」

「ええね。そないな顔でも、あんたは可愛えわ」

にっこり笑った蓬生が、携帯を構えて写真を撮った。

「こんな変な顔、撮らないでよ!」

「可愛え言うとるのに」

「おい、。早く紅茶を持って来い」

「くぅ〜〜…あとで覚えてろーっ」

「俺よりもお前が覚えていたらな」

にやりと意地悪く笑われ、その場で数回床を踏みつけてから台所へ向かう。
紅茶の中になんか入れてやろうかと思うけど、その後を考えると報復が怖いので結局出来ない…というのが、いつものオチ。





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蓬生が昔撮ってたのは、現像できない写真(笑)
けど、蓬生が撮ったというよりは、おねーちゃんたちが蓬生と一緒に撮ったとか、シーツ纏ったのを勝手に撮ったとか、そんなん。
勝手に撮られたわって言って、千秋に見せたことがあるとか。
…寧ろ、そんな状態の蓬生撮る方がいいと思…げほげほ←おかしいです、それ。
今の蓬生のフォトフォルダにあるのは、何気なく手が動いて撮ってしまうもの…好きな人の写真ばかりです。

…やばいな…神南コンビ、面白い。

ちなみに実際にデータが吹っ飛ぶかも…と言われた私の携帯は、二人の力もあったのか全データ無事に手元に戻ってきましたとさ(笑)