「分かってたけど…さ」

遠くで聞こえるワルツの音色を耳にしつつ、はぁ〜…と、ため息をついて頭を垂れる。

「踊れるわけ、ない…って」





文化祭2日目の後夜祭。
パートナーからコサージュを貰って、ホールで踊る。

それは、星奏学院に入った者なら誰もが憧れる…光景。

大好きな人との、思い出のひと時。





「満足ですよ〜?文化祭のクラスに遊びに来て貰って、一緒に写真撮って…」

でも、やっぱり…

「…満足、だもん」

――― 踊りたかったな…

金やんが似合うって言ってくれた、純白のドレス。
コンクールに参加するたびに、お母さんがあちこち手を加えてくれて、今じゃ最初の面影はどこへやら。

「…ごめんね」

階段なんかに座り込んだら、折角のドレスが汚れちゃうよね。



でも、もう少しだけ…



と、感傷に浸りかけた瞬間、誰かの足音が近づいてくるのに気付いた。
こんな情けないところ見られたくなくて、ぎゅっと膝を抱えるとそのまま顔を隠すようにうずくまった。

でも、その足音は遠ざかるどころかこっちへ近づいてくる。



まさか…



なんて、思う間もなく、慣れ親しんだ香りに包まれた。

「ったく…こんな、とこにいたのか」

「…金やん」

金やんが肩で息をするなんて珍しい。

「どしたの?」

「どうしたも何も…って、あー…ちょい待ち」

「?」

呼吸を整えながら、がしがしと頭をかきつつ、妙に落ち着かない様子で周囲を見回してる。

後夜祭に不審人物でも現れた?
それとも、ハナさんが悪い男、じゃなくてオス猫に言い寄られた?

でも、取り敢えず待てと言われたので先生が声をかけてくれるまで大人しくしている事にした。















「あー…ま、あれだ」

先生が話し始めたのは、カップラーメンだったら麺が伸びきっちゃいそうなくらい時間が経ってから。

「…ここなら、構わんだろう」

「???」



――― さっぱり、わかんない



思い切り首を傾げると、金やんは苦笑しながら目の前に跪き…ポケットから何かを取り出した。

「堂々と…って訳にはいかんけどな」

「…」



金やんの手にあるのは、大きな手のひらには不似合いな、小さな…マリーゴールドのコサージュ



「本当なら壁の花なんかじゃなく、ちゃんとホールの真ん中までエスコートしてやりたいんだが…今はこれで勘弁してくれや」

そう言いながら、更にコサージュをあたしの方へ差し出す。

「…こんなんでも、受け取ってくれるか」

控え目な、でも…温かみのある、声。
震える手で、コサージュを差し出す金やんの手を取る。

「こ、
な…じゃな…



――― こんなん…じゃない
あたし、これが…欲しかったの




「…ばーか、これくらいで泣くな」

「だ…って…

「わかってるよ、…ありがとさん」

小さく呟かれた声に応えたいのに声が出なくて、ただただ頷く。



ありがとう…
本当に…ありがとう




「で、

「?」

「手に持ったままじゃ、形にならんだろ。コサージュはどこにつけるもんだ?」



ダンスの申込は、相手がコサージュをくれること
そして、コサージュを貰ったら…



「胸に…つけ…る」

「正解」

にっこり笑顔で言われて、あたしも自然と笑顔になる。

「えへへ…嬉しい」

「…そっか」

「うん」

寒さでかじかんだ手じゃ、中々上手くつけられなくて…そのたびに先生が「お前さん、ぶきっちょだなぁ」とか「明日までかかるのか?」とか言われたけど、どんな言葉にも…温かいものを感じる。



ようやくつけられたマリーゴールドのコサージュを胸に立ち上がると、くるくる回りながら満足気に金やんに見せる。

「出来た!」

「おー、ご苦労ご苦労」

「可愛い?」

「…あぁ」

もう、これで充分。
先生っていう立場でこんなことしちゃ…ってのが絶対絶対あったと思うけど、でも…凄く嬉しい。

「ありがとう、金やん!」

「そんだけ喜んで貰えりゃ、花も満足だろ」

「うん!」

「…じゃあ、次は」

そう呟くと、金やんは少し照れくさそうに、あたしの方へ手を差し伸べた。

「踊るか…」

「いい…の?」

「言ったろ、ここなら構わんだろってな…」

「うん!」

そのまま手を取り、遠くに聞こえるワルツのリズムに乗って踊りだす。

「ほー、中々様になっとるじゃないか」

「金やんこそ、踊れるんだね」

「当たり前だ。何年お前さんより長生きしてると思う」

「えーと…」

「あ、いや…真面目に考えられると、それはそれで凹む」

「あはははは!」





豪華なシャンデリアや音楽が近くで流れているわけじゃないけれど

頭上できらきら瞬く星たちはシャンデリアの灯りみたいで
音楽に満たされたこの場所では、微かな音色もしっかり耳に届いていて…




「…」

「ん?何か言ったか?」

「ううん、なんでもない」



嬉しくて、嬉しくて…
つい、言いたくなったけど…
それは、呟くだけに、しておこう

今は、まだ…先生と生徒、なのだから





――― 素敵な想い出を、ありがとう…先生

大好き…





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3月くらいからコルダ熱…というか、金やん熱にかかりまして(笑)
凄い勢いでコルダ1、2、アンコールと金やん だけ 頑張りました!
…ってかさ、コルダ2のサブの扱いって(ごにょごにょ(苦笑))
相手が誰もいたら、先生踊ってくれてもいいじゃんよっ!!!
いや、まぁ、誰もいない場合は女の子達でわいわい出来るんですけど、そんなんどうでもいいんですってば!
私、金やんと踊りたいんですものっ!!!
…という訳で、ないものは自家発電するしかありません(いつもの事)
ところでダンスって、あれ、どこでやってるんですかね?(笑)
講堂とかだったら、森の広場まで聞こえませんよねぇ〜音楽…でも、ほら、ファータがいればなんとかなるかなぁとか。