「金や〜ん」

「なんだー、〜」

「…これ、なんか、違う」

ぷしゅーっと水鉄砲を金やんに向けると、それを洗面器でガードされた。

「お前さんが言ったんだろう。泳ぎたいって」

「言ったよ!言ったけど、ここで泳げるのは赤ちゃんくらいだよっ!!」



そう、何故かあたしはおニューの水着を着て、金やんの家のお風呂に入ってます。



「今日は真夏日だから水風呂は気持ちいいだろう」

「そりゃ気持ちいいけど!」

「人混みに出る手間もなく、かかった金は水道代だけ。究極のECOだろうが」

「金やんが出不精なだけでしょう!!」

再び水鉄砲を向けたけれど、今度はお風呂のフタで完全ガードされた。

むぅ〜〜〜

「あのな、お前さん。オレが、このあっつ〜い中、わざわざ人でごった返してる海やプールに出向くと思うか?」

「…そこを出向いてくれるのが、彼氏じゃないのぉ〜」

「馬鹿言うな。学校界隈でお前さんと二人きりでそんなとこ行けるわけなかろう」

「じゃあさー、車借りてさー」

「金がない」

「ぶぅ〜…」

思いっきり頬を膨らませて、お風呂場の入口に座ってる金やんに水鉄砲を向ける。
面倒くさそうにフタを立ててガードしようとしたのを見てから、手で水をすくって上からかけた。

「うわっ!!」

「あはははは!やったー!!」

…」

「いいじゃん、金やんだって一応水着なんでしょう?」

「俺は良くても、誰がここ片付けるって言うんだ?ん?」

「いいじゃん、ほら、あれだよ!暑い地面に水まいたら涼しくなる…あのほら、み、み…水まき!」

「ここは家の中、だ」

「うわっっ!!」

今まで座り込んでた金やんが洗面器を持ってこっちにやって来た。

うにゃあああっ

「少し沸騰した頭、水で冷やしとけ」

こっ、これ…じゃ、しゅ、しゅぎょ、修行っ…、よっ!!

ばしゃばしゃと次から次へと洗面器ですくった水を頭からかけられて、目も開けられない。

「おーそりゃ良かったな」

なっ、に…がーっ!!

目を閉じたまま、両手で水をすくい手当たり次第水をぶっ掛ける。

「こ、こらっ……ぶっ!

声の調子から顔にかかった事がわかり、その位置に再び水をぶっ掛けようとしたら、両手を掴まれた。

「お、前……なぁ」

頭から水が滴って目が開けられない。
掴まれたままの手の甲で、ごしごし顔を拭ってから目を開けたら…頭からびしょ濡れになった金やんがいた。

「…わーびしょ濡れだね、金やん」

「誰のせいだかな」

「あたし〜♪」

にこにこ満足そうに笑っていたら、人ひとり入るのが精一杯ってお風呂に金やんが足を入れてきた。

「ほぇ?」

「ほれ、ちょっと詰めろ」

「ちょ、せ、狭いっ!金やん、無理あるよ、無理!」

「だったらここ座ってろ」

水風呂に浸かっていた体を引き上げられ、お風呂場の縁に座らせられる。

「ずっと入ってたらさすがに身体冷えるだろう」

「えーまだ平気〜」

「ダメだ。少し出とけ」



こーいう所は先生っぽいのになぁ〜…



そんな事を思いながら、足だけ水に浸かってるので、お風呂に入ってる金やんを蹴らないようにしながら軽く足を動かす。
暫くぱちゃぱちゃっていうあたしが水を蹴る音しか聞こえなかったお風呂場に、金やんの声が響いた。

「…似あうな」

「え?」

「水着…買ったんだろ」

「あ、う、うん」

そういえば、最初はそれを見せに来たんだっけ。
それでプール行きたい、海行きたいって言ったら、こーいう事になったんだった。

「似合ってる」

優しく微笑まれて、そんな風に言われると…なんだか急に恥ずかしくなって来た。

「あ、あり…がと……え、えと、や、やっぱり冷えたから出よう…かな」

なんとか誤魔化して、お風呂から出ようとしたら手を掴まれてそのまま音を立てて水風呂へリターン。

「もう少しいいだろ?」

「いや、でもほら!やっぱ風邪ひくと大変だから!!」

「だったら、ほれ…こうしてりゃ温かいだろ」

お風呂の中でぎゅーっと抱きしめられて、シャツを着ていた金やんから温かい体温が伝わってくる。
ほんの少しの嬉しさと…それを上回るいつも以上の恥ずかしさ。
それをどう言葉にしようかと、もぞもぞ動いていたら、耳元に小さな声が聞こえてきた。

「お前さんが卒業したら、いくらでも…どこでも、付き合ってやるよ」

「…」

「海でも、プールでも…どこへでも、な」

「金やん…」

両手をついて顔を上げると、申し訳なさそうな顔をした金やんがいた。

あたしが学生の間、先生と一緒に出掛ける…なんて事、早々出来ない。
それに、生徒がこうして先生の家を訪ねること自体が…本当は渡ってはいけない橋なのかもしれない。
それでも迎えてくれて、こうして…少しでも願いを叶えようとしてくれる。
頬に流れる雫を拭う手に擦り寄るよう顔を寄せると、反対側の頬に優しく唇が触れた。

「…先に出て、メシの用意しといてやるよ。お前さんは、シャワー浴びて着替えて…出て来い」

「はい…」

ぽんぽんっと宥めるよう頭を撫でられて、体を包んでいた温もりが離れていく。
ばったん…と音を立てて閉められたドアの向こうでは、思いっきり床に広がってるだろう水溜りをふいている先生の姿。



卒業したら、一緒にお出掛けしようね
それから、二人で写真を撮ったりして…今、出来ないことを、いっぱいしよう





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2008web拍手、名前変換入れて手を加えて再録。
金やんとプールなんて行けないですよねぇ。
合宿とかに同行してくれても、一緒に…なんて想像も出来ない。
で、どうなるかというと…先生の家のお風呂で水遊びになりました、と(笑)
いいじゃん!なんかあの、でっかい身体がちまっと風呂に入ってるとか!
しかもぎゅむっとねこ鍋みたいに一緒に入るとか幸せじゃん!(主に私が)
なんかもう…愛しくてしょうがないな、この三十路の先生。