「はぁ〜…暑いな」
上着を椅子にかけて、ネクタイを緩める金やんの姿を見てポツリと呟く。
「もう少し見てたかったな」
「ん?」
「なんでもない」
変身後…っていうのは、ホント今のことを言うんだろうな。
だって、もう…いつもの金やんだもん。
それなのに数分前まで、金やんだってわからないぐらいビシッと決めた格好してたなんて信じらんない。
「暑ぃなぁ…」
シャツのボタンを外して襟元を仰ぐ姿を見て、再び本音がポロリ。
「理事会…またやればいいのに」
「あのなぁ…冗談はやめてくれ。今回はたまたま、だぞ。たまたま」
「…なんも言ってないもん」
ぷいっと横向いて、大きくため息。
…自分、こんなにスーツ好きだったけ?
ううん、そんなことない。
スーツが好きだっていうなら、毎日お父さんがスーツ着て仕事に行ってるから…毎日嬉しいはず、だもん。
お父さん、スーツ似合うし…うん。
それに他の先生や、吉羅さんだって毎日スーツ着てるじゃん。
でも、こんな風に…穴が開きそうなほど、見つめたりはしない。
…あ、そっか…
着ているのが…金やんだから、だ…
「…結局惚れた弱みとかいうやつ?」
はぁ〜〜〜…と肺の中の空気を全部吐き出す勢いでため息ついたら、すぐ側から声が聞こえた。
「お〜い、〜?お前さん、ひとりごとを言うつもりならもう少し周りに気をつけた方がいいぞ〜」
「っ!!!」
いつの間にか、椅子の背に顎を乗せてたあたしの目の前で金やんがニヤニヤ笑ってた。
遅いとわかっていても、つい口元を手で覆ってしまうのは…聞かれちゃまずいことを呟いてたって言うようなもの。
「う……ぁ…」
どこからどこまで聞かれてたのか。
恥ずかしさと戸惑いと…全部が入り混じって、一気に顔が赤くなる。
「ど、ど、ど…どこ、か…」
尋ねようとしても、喉がつまったようになって声がうまくでない。
そんなあたしとは対照的、とでもいうように笑ってる金やん。
暫くそんなあたしと金やんの奇妙なにらめっこが続いたけど、先に落ち着いた金やんが口を開いた。
「あんな堅苦しい格好、ごめんだ」
「…似合ってたのに」
「そりゃ、ありがとさん。だが俺には似合わんよ、あーいう格好はな」
「似合ってたってば」
「んじゃ、その台詞はも少し先の未来で、も一度聞かせて貰おうか」
「もう少し先?」
意味がわからず尋ねれば、足が痺れたとかいいながら立ち上がったので、後を追うように椅子から立ち上がって腕を掴む。
すると、それを待っていたかのように顔を近づけて、耳元に囁かれた言葉が、あたしの身体の力を一気に奪い…そのままもう一度椅子に座り込んでしまった。
「…え、え、え!?」
「さーてっと、んじゃちょっくら見回りでもしてくるか。お前さん、留守番頼んだぞ〜」
脱力したあたしを残して、金やんは見回り…という名目で部屋を出て行った。
多分、きっと、それはここを抜け出す"嘘"なんだろけど、今のあたしにそれを突っ込む余裕はない。
…いつか、お前さんのためだけに着てやるさ
真っ白なタキシードを、な
外は雨
でも、この季節ならではのイベントもある
ジューン・ブライド…6月の花嫁
貴方の色に染まる…という意味を持つ
真っ白な日のための…特別な、衣装
2009web拍手、名前変換入れて手を加えて再録。
昨年のじめっとした梅雨を乗り切るために書いた話でございます。
めいっぱい趣味に走りました…いいんです、私が幸せだったら(笑)
DVD最終巻で着てるスーツというか、あの格好も好きです。
…がしかし、個人的に石川さんの選ぶスーツはどれも大好きです!
あの体格に似合う、そして自分に似合う服を知ってるってのは最強だ!
是非これからも、素敵スーツを見せてください…って、あれ?金やんから石川さんになってる(苦笑)