演奏し終えて、どうだ!!と振り向いたら、金やんが俯いていた。
具合でも悪くなったのかと慌てて顔を覗き込んだら…微かな寝息と共に、頭がゆらゆら揺れている。

「…寝て、る?」

こんなに無防備な姿を見るのは初めてで、思わず持っていたフルートを床に落としそうになった。
慌ててしっかり握り直してから、ちょっと顔を近づけて寝顔を見つめる。

無精ひげに、ぎゅっとまとめられた髪。
走り回っていたからか、ちょっと髪がぼさぼさになってる。

「ん〜…」

もう少しちゃんと見たいけど、俯かれてたら良く見えない。
というか、今のあたしの体勢ってかなりおかしくない?



――― フルート片手に、床に頭をつける勢いで先生の寝顔を覗き込む女子生徒



「うん…かなり怪しい人だ」

ぽつりと呟き、妙な体勢から起き上がってスカートの埃を払う。
ちょっとでも寝顔見れたし、また誰か探しに来たら大変だから、真面目に練習してよう。
とはいえ、金やんの眠りは邪魔したくないので、今まで弾いていた曲とは別の楽譜を用意した。



――― っ!!



滅多に見ない、慌てた様子の金やん。
天羽さんに何を聞かれてたのか…気にならない訳じゃないけど、なんとなく予想がつく。

あの噂…かなぁ?










金やんの様子がいつもと違うっていうんで、この間から何人かに聞かれたんだよね。
先生に何かあったの?って。
それをなんであたしに聞くのかわからないけど、でも、毎日楽しいって言ってるよ?って、素直に答えた。

そしたら、何故か…金やんに彼女が出来たらしいとかいう噂が流れ出した。



おかしいなぁ…
なんで、そうなったんだろう…




「ん…」

疑問がそのまま音に現れたのか、金やんが僅かに動いた。
慌てて楽譜に意識を集中させると、揺れていた頭が壁に寄りかかり…気持ち良さそうに再び眠りだし、思わず笑みが零れる。

寝ていても音色の変化に気付くなんて、ホント先生らしいなぁ。





金やんが変わった原因が、あたしなら嬉しい。
それだけ、影響を与えられるくらい…想ってくれてるって思えるから。

金やんより、全然子供で
どんなに頑張っても、片付けを手伝うのが精一杯で
山積みの書類やお仕事の手伝いなんて、出来ない。
ましてや、彼女です!なんて人前に出る事も無理。

それでも、今…
こうして金やんのために、演奏が出来る。



いつの日か、言葉に出来る日を夢に見つつ
今はまだ、言葉に出来ない想いを音色に託して
眠るあなたに、届けよう

――― 大好き…の気持ちを





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Il mondo di cambiareの続きです。
ただ単に、演奏を聴いてたら寝てしまった金やんを見たかっただけです(どきっぱり)
でも、こーイメージの中では床に座って壁に寄りかかって腕組んで、そのままこくりこくり…となってるので、床に頭つけて覗かないと顔は見えないかなぁと。
悔しいので寝顔金やんはどっかでリベンジしてやりたいと思います。
…ってか、やっぱさぁ絶対無精ひげだけは剃りたい。
だってあれさ!無精ひげもちゃんとしないと伸びるじゃん!
ってことは、ある程度手入れしてるんでしょ?!
だったら、いっそ剃ればいいじゃんっ!!

金やんの髪を切って、無精ひげを剃りたい会の自称会長です(本気)