「金やんって、怪人(ファントム)の衣装似合いそうだよね」

「は?」

こいつの突発的な言動には随分慣れたと思ったが、まだまだ甘いってか?

「なんでまた」

を見習って、たまには素直に尋ねてみれば、無邪気な笑顔と共に答えが返ってきた。

「昨日、深夜に映画やっててね」

「…ほぉ」

「で、それ見てたら先生ファントムみたいって!」

映画、オペラ座の怪人…っつーと、公開された当時は随分と話題になってたな。



以前であれば、こんな話題には耳も貸さなかっただろう。

――― もう、歌は沢山だ

けれど、目の前でが楽しそうに表情を変えて話しているのを聞くと、一度観てみるのもいいかもしれない…と、思ってしまう。

きっとそれがこいつの力なんだろう。
それとも、俺自身が変わったのか…




ひと通り話し終えて満足顔のを見て、顔を近づける。

「ってことは、なにか…」

「ん?」

「もし俺がファントムだっていうのなら、ここからお前さんを攫っちまわないといけないってことだな」

にやりと笑みを浮かべてそう呟けば、珍しく頬を染めることもなく、まっすぐ俺を見たままポツリと呟いた。

「先生が音楽の天使?」



――― 天使



…誰が聞いても、耳を疑うな。
俺自身ですら、一瞬眩暈がしたぞ…

「だってファントムは音楽の先生だから、金やんであって…で、ヒロインから見たらファントムは音楽の天使だから、金やんは天使…」

あーいい!みなまで言うな、!」



一回言われりゃわかるっ!
そう何度も言われると、物凄い疲労感に襲われるから、止めてくれ。




再び訪れた眩暈に耐えるよう片手をこめかみに当てて、作業机に寄りかかれば、が心配そうに近づいてきた。

「大丈夫?」

「…あー、そんな心配しなさんな。すぐ治まる」

ごまかすようにの頭をちょいと乱暴に撫でてやると、いつものようにその手を押さえようと暴れだす。

「髪がぐちゃぐちゃになるーっ!」

「あとで直せばいいだろう」

「そーいう問題じゃなーいっ!!」

ムキになって俺の手を押さえようとしてる姿を見て、自然と笑みが零れる。



お前は、俺に音楽だけじゃなく
他にも色々…与えてくれてるんだぜ?

ちょっとしたひと時の大切さや…
愛しい、と想う気持ちを…与えてくれた




「離してぇ〜っ」

「へいへい」

くっくっ…と笑いながら手を離してやると、頬を膨らませてこっちを睨んでいる。
本人は怒っているつもり…だろうが、全く…それすら俺には随分と魅力的な表情だよ。

「…

声のトーンを落として名を呼び、誘われるようその頬へ顔を近づける。
柔らかな頬へ唇が触れるまで、あと数センチ…という所で、耳障りな校内放送が鳴り響いた。



吉羅からの…呼び出し、だ。



そんなもん取り敢えずほっとくか…と思ったが、腕の中の恋人は気が気ではないらしい。

「かっ、か…金やん」

「ほっとけ」

「で、でも…吉羅さ…理事長さんの呼び出しだよ!?」

ぐいぐいと両手で顔を押し返され、やれやれとため息をついての手を取る。

「誰に似たやら、真面目な生徒だな…お前さんは」

「ふ、普通だもんっ!呼び出しされたら、すぐ行かなきゃ…」

「そーいう所が真面目なんだよ。呼び出しは数回無視するのが当たり前だぜ?」

「ふ、不良教師!」

噛み付いてくるようなの台詞に笑いながら、掴んだ手の甲へ音を立てて口づける。

「…俺をそんな風にしたのは、誰のせいだかな?」

「っ!!」

瞬時に真っ赤に染まった顔を見つめながら、声を潜めて囁く。

「…どうやら俺はこの学園に捕らわれてるらしい」

「ほ、ほぇ!?」

「だから、お前さんが早いとこ俺をここから攫ってくれや」

手を離してからの頭をぽんっと叩いてから背を向け、手を振りながらドアに向かって歩き出す。

「学園っていうファントムから、お前さんがどうやって助けてくれるか…楽しみにしてるぞ〜」



本当に捕らわれているのは、誰なのか
そして何に捕らわれているのか…

まぁ、そんなものどうでもいい





取り敢えず今は…
邪魔してくれた吉羅に、不満でもぶつけに行くとするか。





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ま、あれですよ。
深夜に映画のオペラ座の怪人やってたんですよ。
そんで、こー…何気なく見てたら、あー…似合いそうだよね〜と思って(笑)
ファントムの衣装も似合うけども、個人的にはラウルやって欲しい!!
…となると、誰がファントムなんだろう?
柚木先輩あたりいってみる?(すんごい適当だな(苦笑))
ただ単に、学院に捕らわれてる俺を、攫ってくれ…的な台詞が使いたかっただけです。