「あぅ〜暑いぃ〜」

「…黙れぇ〜ー、暑さが倍増する〜」

なんだって今日に限ってこんなに暑いんだ…

1時間ほど前、電気系統の異常ということで全ての空調が止まった。
すぐに直るものだと思ったが、業者の到着が遅れているらしく、僅かな時間で部屋の温度は一気に上昇。

教師じゃなけりゃとっとと帰って、エアコンの効いた店で一杯…と行きたい所だが、そうもいかない。

「ビール飲みてぇ〜」

「あたし、カキ氷〜」

「おー、いいな…」

「でしょ〜?」

音楽準備室は窓を開けても風の流れが殆どない。

ったく、後ろ髪が鬱陶しく感じるな。
背中に髪が乗ってるだけでも暑さが倍増してる気がするぜ。
…っと、だったら俺以上に暑そうな人間が目の前にいるな。

そう思って顔を上げてを見れば、ついさっきまで肩口から見えていた長い髪が…消えていた。

「お前、髪…どうした?」

「暑いから、上げた〜」

ほら、といってまとめあげた髪を見せようと背を向けた瞬間、思わず目に飛び込んだ白いうなじ。

「首筋に髪があるだけでも暑いから、上げたら随分涼しくなったよ」

「そ、そうか…器用だな、お前さん」

「普通だよ〜」

たかが、髪を纏め上げただけで随分と雰囲気が変わるもんだな。
そんなことを思いながら、温くなった茶をひと口飲んだ瞬間、の行動に危うく茶を吹きだしそうになった。

っ!!」

「ほぇ?」

「いくら暑いからって、人前でそれは止めろ」

頼むから、俺の前…いや、俺以外のヤツの前で襟元緩めたりせんでくれ。

「だって暑いから、少しここ開けて風を…」

「恥じらいを持て、恥じらいを!一応、教師の前だぞ」

「んーわかった…」

「わかれば…って、
ーっ!

襟元を緩めていた手が、今度はスカートに伸びたと思ったら、裾を持ってばたばた風を送り始めた。

「それも止めろ!」

「えー?」



――― 勘弁してくれ…



がっくり額を机につけたい気分になりながら、この無邪気な恋人の甘い誘惑になんとか耐える。

別に俺は仏さんでもなんでもない、ただの男だぞ…

まぁ、ここが学校で、尚且つ音楽準備室じゃなけりゃ、だけど…な。
ここが学校で助かったというべきか、残念だというべきか。

とにかく、現状を打破するには…暑さで麻痺した今の俺にはこれしか思いつかない。



「ん?」

「購買で、アイス…買ってこい」

「いいの?」

突っ伏したまま財布を差し出すと、の手が僅かに俺に触れた。
思わずピクリと動きそうになるのを堪えて、財布の感覚がなくなってからぐっと手を握り締める。

「なんでもいいから2本ぐらい買って来てくれ」

「はーい」

「お前さんは、1本だぞ」

「えー?」

「奢って貰えるだけありがたいと思え」

「…はーい」

そのまま、足音が遠ざかりドアが閉まる音を聞いて、大きなため息をつくと同時に握り締めていた手を緩める。

「ったく…」



生徒とはいえ、相手は愛しい女で…
卒業までは…と、自分で言った手前、何かするつもりはない。




「けどなぁ…あんまり、俺の忍耐を試しなさんな」

前髪から零れる汗を手の甲で拭いながら、の何気ない仕草を思い出す。

「余裕なんざ、もうあまりないぞぉ〜…」

無理矢理買い出しに行かせるくらいなら、帰らせればいい。
けれど放課後の僅かな時間、俺と一緒に過ごせるのを楽しみにしているに…帰れ、とも言えない。

「となると、願うは…ひとつ、だな」

腕時計を眺めながら、点検終了予定時間までのカウントダウンをはじめる。

「あと…30分、か」





大人の余裕でやり過ごせるかどうか…微妙な時間、だな。





BACK



相手が好きだと気づいて。
そんで、その相手と想いが通じ合えて。
そしたら、こー…動きたい衝動に駆られても、動けないってジレンマが出るんじゃなかろうかと。
えぇもう楽しいぐらいに誘惑させて貰いましたけど?(笑)
夏服のスカートぱたぱたとか、セーラータイプの胸元緩めるとか無茶苦茶楽しい!!
相手の苦労は全く考えず…だってほら、男性心理わかりませんし、私(おい)
本当に書いててとても楽しいお話でございました♪

でも、ま、学校だからアイスを買ってきた頃には空調直ってますよ。
じゃないとさすがに
可哀想…げほほ(笑)