「ぷしゅっ…」
「ふふ…可愛いくしゃみやね」
「だって、こんなに寒いなんて思わなかったんだもん」
カレンダーはとっくに4月。
桜だって満開を通り越して、昨日なんて突風で桜吹雪が見れるぐらい。
「せやから、まだ早い言うたんよ」
「だってー……は、は……くしゅっ!」
「やれやれ…」
コートの襟をかき集めても、薄手のコートは風を遮るどころか、裾をばたばたなびかせて、冷たい空気を身体の中へ送り込んでくる。
「オシャレもええけど、風邪ひいたら本も子もないで」
呆れ顔で、自動販売機へ向かう蓬生の後をついていく。
「…久し振りのデート、オシャレして、悪い?」
がっしゃん
飲み物が取り出し口に落ちる音がやけに響いた…気がした。
すぐに取り出して、振り向くと思った彼が、手に持ったまま背を向けている様子に、不安が募る。
もしかして、デートを楽しみにしていたのは自分だけなのだろうか。
オシャレばかり気にして、気温を考えなかった自分に呆れているのだろうか。
いつまでも振り向いてくれない蓬生に、不安ばかりが増していく。
自然、俯きがちになっていくあたしの視界に、足音が近づいてきた。
「…そないな顔、せんでええよ」
「……」
「忘れとったよ。あんたが、そういう子やったって」
どういう意味だろう。
そう思って顔をあげようとしたけれど、それよりも先に抱き寄せられる。
「ほ、蓬生!?」
「寒いんやろ。せやったら、こうして抱きあえば、俺の体温も伝わるんとちゃう?」
確かに…確かに、蓬生の鼓動も聞こえそうなくらい抱き寄せられれば体温が伝わって温かい。
…がしかし、ここは外!
他の人の目というものがある。
「ちょっ、あのっ」
「やっぱあんたは抱き心地ええなぁ…」
「蓬生っ!!」
「ふふ…あかんよ。寒い言うたのは、の方や…逃がさへんよ」
耳元をくすぐる柔らかい音色。
そこから届いた吐息が耳を赤く、熱く染める。
「〜〜〜〜馬鹿」
「はいはい」
「…けど、好き」
「知っとるよ」
そんな声に覚悟を決めて、背に回していた手でぎゅっと彼の身体を抱きしめる。
こうしてしまえば、あたしの顔は…蓬生にしか、見えない。
あたしも、蓬生以外…見えない。
これなら、どこにいても、寒くないし…温かいね。
2010年4月の関東の気温はおかしいです。
まるでその日の天気予報と同じくらい、気温が安定していません。
コートとかクリーニング出しちゃったし!とか言う人は多いのではないでしょうか。
そんな訳で、久々のデートってんで春物を着て失敗しちゃったパターンでした。
春コートの下にホッカイロとか貼るしか、もう手はないんじゃないでしょうか(苦笑)
そんなんバレたくないけどな、特に、蓬生に。