「…どう?」

「ん…少し、熱いかもしれんね」

「蓬生は元々体温低いから、熱く感じるだけじゃない?」

「せやけど、あんたの平熱とそうじゃない時はわかるよ。あぁ、あと…あん時は、熱くなるってことも」

「そっ、それは言わなくていい情報っ!」

「ふふ…せやったね」

「…おい、お前ら」

声をかけられたので、蓬生と同時にそちらへ顔を向ける。

「なんや、千秋かい」
「どしたの?」

「お前ら、場所を考えろ」

くいっ…と千秋が指差す方向へ視線を動かすと、デジカメを構えて満足気な顔をしている支倉さんを筆頭に、菩提樹寮の面々がいた。

「…勢揃いやんねぇ」
「夕食前だからかな」

「わかってんなら…」

千秋の低い声が耳に届いた瞬間、ごちん!と鈍い音と共に額に激痛が走った。

「そういうことしてんじゃねぇ!手間かけさすな、阿呆!」

「「っっ〜〜〜…」」

蓬生と同時に額を押さえ、痛みのあまり涙すら浮かんできた。

「千秋…今のは、痛いわ…」

「そんぐらいしねぇとわかんねぇだろう!」

「い、痛いよぉ〜」

「だったら、ガキみたいに人前ですんな!」

そう言われて、きっ!と千秋を睨む。

「普段千秋の前でしてても何も言わないじゃん!」

「言わないんじゃねぇ…言っても聞かないから、面倒で諦めたんだ」

「せやったら、今回も見逃せばええやん」

「あいつらが騒ぎ出したから、仕方なくだ」

「…副部長、さん。夕食でみなさんが降りてきた目の前で、いつものようにされていたのです」

「………へ」

「あぁ、そういやそんな時間やったね」

「え、えぇ!?

「ようやく気づいたか」

一気に顔に熱が集まり、思わず蓬生の服を掴んでその背に隠れる。

「別におでこで熱測っとっただけやから、やましいことしとらんよ?」

「お前、もう少し他人の目も気にしてやれ。さすがにこいつが哀れに見えてきたぞ」

「ふふっ…」

蓬生の背に隠れても、皆の声は嫌でも耳に届く。



「いや…いいものが撮れた。ほら、見るか?」

「すごい、綺麗に撮れたね」

「ふふっ…私の腕もあるが、被写体もいいからな」



「あいつら…いつもあんななのか」

「そんなに驚くようなことか?俺やお前もよくかなでとやっただろう」

「東金も言ってたけど、ガキの頃と今を一緒にすんな!」



「うわー、いいなーいいなー!おでこでお熱測るなんてっ!オレも測って貰いたーい!」

「……うるさい、水嶋…」

「いや…ある意味あれは、男のロマンでもある!」

「ですよね、狩野先輩!」

「熱…熱を測っていたんですか」

「部長…顔、赤いですけど…大丈夫、です…か」

「あぁ、心配をかけてごめん。大丈夫だよ」



「…部長、カモミールをおいれしました」

「あぁ…」

「我々にはいつものこと、でしたが…」

「油断、したな」





「蓬生ぃ〜〜〜」

「別にええやないの。と俺が仲良しさんやって、みんなが知ってくれるんは悪いこととちゃうよ」

「そうだけど、なんか、恥ずかしいよーっ!!」

ぎゅう…っと蓬生の服を握り締めていると、背中に回すように伸びた彼の手がぽんぽんと落ち着かせるよう体を叩いた。

「あんたが恥ずかしゅうても…俺は、あんたを離す気もないし、こうして触れることをやめる気もないよ」

「………」

「惚れたお人がそばにおったら、触れたい思うの…当たり前やろ」

「……蓬生」

すがり付いていた手の力が緩み、肩口から後ろを振り向いていた蓬生の目をじっと見つめる。
けれど、甘い空気は…ぱんぱん!と力強く叩かれた手によって、強制的に打ち切られた。

、蓬生。メシが冷める」

「…せやった」
「あ、そっか」

「こちらへどうぞ、副部長、さん」

他の皆は既に食べ始めていたけれど、一部の人はこっちが気になっていて手が止まっていたようだ。
そんな中、あたしと視線が合うと、慌てて手を動かして食べ始めた人が、揃ってむせたのは何故だろう。

「…蓬生」

「なんや、千秋」

「…………………なんでもない」

「いややわ…その沈黙。言うてくれた方が、いくらかすっきりするわ」

「だったら、言わないままでいてやる。それが罰だ」

「いけずやねぇ…」



夕食の時間より、少し早く食堂へ行ったら蓬生がいた。
そうしたら、あたしの顔が赤い事に気付いて、いつものように熱を測ってくれた。
それは、日中外にいた時間が長かったから、少し日に焼けただけだったんだけど、それがまさか、こんな事になるなんて、思わなかった。





「…おでここっつん、って。普通はあんまりしない、の?」

「幼い子を持つ親ならばするかもしれないが、年頃の男女はやらないな」

「かなでちゃんもしない、の?幼馴染くんとかと…」

「律くんは、たまに…」

「ほぉ、それはいいことを聞いた。如月弟はしないのか?」

「響也が熱を出した時に、あたしが……」

「あー、困るよねぇ…そういう時…」

「だが、そういう時は…」

この日、女子寮では部屋の電気が消えるのが…いつもよりも遅かったのは、言うまでもない。





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おでここっつんで熱を測る、がテーマです。
あれって、本当に測れるんですかねぇ…さっぱわかりません。
でも一番書いてて楽しかったのは女子寮の部屋での会話(笑)
多分、かなでちゃんが熱だしたら、律くんはおでここっつんやる。
で、響也が慌てると思う。
で、響也が熱だしたら、かなでちゃんがそれをする。
そして、響也が慌ててベッドから落ちる。
如月兄弟はそんな感じだと思う。
あそこの幼馴染はなんか絆があって入り込めない感じ(勝手な印象)

とりあえず、ニアが大好きだ!(全く蓬生の話してないことに気づけ)