「…う〜」
「ついこの間教えたばかりだろう」
「ん〜〜〜っ」
「ほら、とっとと思い出しなよ」
こつん、と手の甲で頭を叩かれて顔を上げる。
「だってこんな所で勉強なんて、落ち着いて出来るわけないじゃないですかーっ!!」
そう、ここは…柚木先輩の別荘にある、プールサイド。
先輩の電話で目が覚めて、いい所に連れてってやるなんて甘い言葉にいつものとおり騙されて…ついた先は、都心から車で3時間程の場所にある高級別荘地。
「お前がプールで泳ぎたいって言ったんだろう」
「確かに言いましたけどぉ〜」
がじがじとジュースのストローを噛みながら、ぽつりと呟く。
「まさか別荘のプールなんて…誰も予想しませんよ」
「お前、オレが人で溢れかえった場所へ行くと思う?」
「……思いません」
「火原なら大喜びで行くだろうけど、オレはごめんだね」
――― というか、遊園地のプールにいる柚木先輩なんて想像するのも難しい
「ほらほら、手が止まってるよ。このままじゃ、プールを前に泳がず帰る事になるぜ?」
「だったら先に遊びましょうよーっ!!」
パラソルの端から見える、輝く太陽。
すぐ側には、涼しそうな音を立てて風で波打つプール。
「これじゃ大掛かりないじめです〜っ!」
「全部お前のせいだろう?」
「う…」
「夏休みも後半に入るっていうのに、苦手だからって理由で全く手付かずの宿題を抱えていたのは誰かな、さん?」
学校で見られるにっこり笑顔の白柚木様。
「お前に付き合っているオレはいい迷惑だ。いいからとっととやれよ」
「……はい」
白から黒への切り替えもお手のもの。
そしてそんな先輩に逆らえないあたしは、時折横目でプールを見ながら手を動かすしかないのでした。
「…ま、こんなところか」
「……」
知恵熱が出そうなほどクラクラしながら、大嫌いな古典と嫌いな数学、苦手な物理を片付けた。
頭にフライパンを乗せたら、目玉焼きすら出来そうに沸騰してる…気がする。
机に突っ伏しているあたしの頬に、急にひやりとしたものが当てられた。
「ふひゃっ!?」
「…頑張ったご褒美だよ」
「え?」
目の前に置かれたのは、良くテレビで見るフルーツが刺さってるようなドリンク。
「うわぁ…」
「それを飲んで、ひと息ついたら着替えておいで」
「?」
喉が渇いていたので、ドリンクを飲みながら首を傾げる。
「プールへ行くなんて言っていなかったから、水着…ないだろう」
「…な、ない…です」
「向こうの部屋にお前に似合いそうな水着を何着か用意してあるから、好きな物を選んでおいで」
「え、えーーーっ?!」
今度はドリンクから口を離して、驚いて立ち上がる。
「何着かって、せ、先輩!?」
「お前、服のままで泳ぎたいっていうのか?別にオレは構わないけど」
「いえいえいえっ!泳ぐなら水着がいいですけどっ!」
考えてみれば、先輩とこんな素敵な場所で過ごせただけじゃなく、宿題も殆ど手伝って貰って…更に、水着まで借りれるなんてさすがに申し訳ない!
「じゃあ構わないだろう」
「で、でもっ!」
解き終えた問題集を見ながら、別のノートに何か書き込んでる先輩に顔を近づけると、そのまま軽く唇が触れた。
驚いて声も出ず、そのまま長い髪をまとめている先輩をじっと見つめる。
「頑張ったご褒美だよ、」
「……」
「あぁ、でもケアレスミスが多いな…」
くすくす笑いながら、ペンでノートを示す先輩。
そこには途中までマイナスで計算していた数式がプラスになっている。
「あ、あぅ…」
「間違えてる部分はお前が着替えてる間にまとめといてやるから、今度会う時までにやっておけよ」
「え、あ、はっ、はい!ありがとうございます!」
「じゃあ、着替えておいで。一生懸命勉強する姿もいいけれど、たまにはいつもと違う姿も見てみたい」
「はい!!」
笑顔で頷いて、執事さんに案内されて部屋へ向かった。
そこであたしは再び大きな声をあげる事となる。
「ふふ…本当にお前はオレを退屈させないね。可愛くて、愛おしくて…仕方がないよ」
2008web拍手、名前変換入れて手を加えて再録。
ゲームでも漫画でもそうですが、あの人のやる事なす事、全て自分…引っかかります。
そしていつも、呆れるような顔をされた後に笑われます。
いや、その笑われ方も愛しくて仕方がないって感じでいいんですが、なんで引っかかるんだろう自分(苦笑)
柚木先輩は別荘とか連れてってくれそうですよね。
軽井沢とかさ…そーいうとこ。
いいなぁ…プールのある別荘に連れてってくれるとか、羨ましすぎる。
そんな訳で、自分の夢を詰め込んだ話でした。
ドリンクとかもいいよね、あのフルーツ刺さってるヤツ!(笑)