「・・・ねぇ悟浄?」

「ん?」

椅子に座って俯いたまま、後ろのソファーに座って雑誌を読んでいる悟浄に声を掛けた。

「価値観の違いって・・・どうしたらいいんだろうね。」

「・・・はぁ?」

「ホント、意見の食い違いって・・・」

チャン?」

ソファーが軋んだ音が聞こえ、雑誌が何処かに投げられた音が聞こえた。
それでもあたしは振り返らず、スカートの裾をギュッと握ったまま下を向いている。

「どうして話・・・聞いてくれないんだろう。」





一生懸命話をしても聞いてくれない。
どんなに説明しても分かってくれない。
相手の言い分も、気持ちも分かるけど・・・それは違うって思う。
思い出すだけで悔しくて、涙が零れそうになった。





「・・・どうした?」

ふと気付くと、悟浄の手があたしの手に重ねられている。
小刻みに震えている手をしっかり包んでくれる、大きな手。

「・・・ちょっと・・・ね。」

少しでも口を開くと気が緩んで涙が零れてしまいそうだった。
唇を軽く噛む事でそれを堪えようとしたら、あたしの手を包んでいない方の悟浄の手が頬に添えられた。

「・・・無理すんなよ。」

そう言ってゆっくりあたしの頬を撫でてくれる悟浄の手は・・・まるで壊れ物に触れるように優しくて、いつも以上に暖かい。

「・・・ご、じょう・・・」

「・・・来いよ。」

それでもあたしは動く事が出来なくて、まるで石のように固まってしまった。



揺れているのはあたしの視界だけ。



顔をあげて目の前の悟浄を見ているはずなのに、何故かぼやけている。



悟浄・・・悟浄は今、笑ってるの?
困ってるの?それとも・・・



「・・・しょうがねェなぁ、チャンは・・・」

小さなため息が聞こえた後、悟浄に両手を引っ張られてそのまま椅子から崩れるように落ちた。


落ちた先は悟浄の腕の中。

「こーゆー時は甘えりゃイイんだよ。全部受け止めてやるから・・・」

息が詰まりそうなくらいきつく抱きしめられているはずなのに、今はそれがやけに心地よく感じる。
一度目を閉じると頬を涙が伝っていく。



もう堪える事・・・出来ない。





「悟浄!」

「・・・泣けよ。側にいてやるから・・・ずっと・・・」

両手を悟浄の背中にしっかり回してギュッと抱きつく。










言いたい事は沢山ある。
聞いて貰いたい事も沢山ある。
でも今は・・・泣かせて欲しい。
話すよりも、何か言ってもらうよりも・・・温かい腕が欲しい。
抱きしめて受け止めてくれる人がいて欲しい。





BACK