「・・・どうしました!」
「ん?」
夕飯を食べ終えて、のんびり食後のお茶を飲んで八戒が片づけを終えるのを待っていたら・・・台所から戻ってきた八戒が凄く驚いた顔をしていた。
「目にゴミでも入りましたか?」
「どーしたの八戒。」
普通に首を傾げて話しかけただけなのに、あたしの声を聞いた瞬間・・・八戒の綺麗な顔が僅かに歪んだ。
「それはこちらの台詞です。」
そう言うと同時に頬に伸ばされた八戒の手。
頬を包み込むように添えられた八戒の右手。
水に触れていた所為か少し冷たいけど、今のあたしにはちょうどいい。
ゆっくり目を閉じてホンの少しその手に顔を寄せようとしたら、頬に手を添えたまま右手の親指がそっとあたしの目元を拭った。
何かゴミでもついてたのかな?
「・・・泣いて、いたんですか?」
「え?」
八戒に言われて顔を上げ、自分の手で目元を擦ると・・・僅かな水滴が手についた。
「あっあれ!?」
「・・・」
「あたし・・・なんで?」
八戒を待っている間ただボーっとしていただけ。
入れてもらったお茶を飲んで、風が吹いて揺れる庭の木を見ていただけ。
今日は色々忙しかったけど・・・無事全部終わって良かったなって思いながら、何気に部屋を見渡したら誰もいなくって
・・・そうしたらちょっと気が緩んで一つため息をついただけ。
ただ・・・それだけなのに、どうしてあたし・・・泣いてるの?
考えている間も目から溢れる涙は止まらない。
「あれれれ?」
「・・・どうぞ。」
瞬きするたびに膝に落ちる涙の粒。
手でも拭いきれなくなる前に八戒が洗面所から洗いざらしのタオルを持ってきてくれた。
「どうぞ。」
「あ、ありが・・・」
タオルを受け取ろうと伸ばした手を八戒に取られそのまま抱き寄せられた。
八戒がこんな風に断りも無く動く事って・・・初めてだなって朦朧とする頭で思っていたら、耳元で囁かれた声はいつも以上に優しいくて・・・
「・・・一人で泣くだなんて悲しい事をしないでください。」
「八戒・・・」
「こうなる前に僕が気付いてあげられれば良かったんですが・・・すみません。」
ぎゅっと抱きしめられて、その温かさを感じた瞬間―――胸から何かがこみ上げてきた。
――― 忙しかった
色々な事が立て続けにおきて、それでもそれから逃げられなくて
やり遂げた瞬間、力尽きてしまった。
悲鳴をあげる心
求めていたのは優しく包んでくれる・・・腕
「・・・なんかね、泣きたかったんだ。」
「・・・」
そう、疲れも何もかも泣いて忘れてしまいたくなった。
泣きたい、でも一人で泣くのは寂しい。
そう思っても溢れる涙は止まらなくて、でも心は誰かを探してた。
そして・・・八戒が来てくれた。
「泣いても・・・いいかな。」
「・・・えぇ。」
優しい声に誘われるように僅かに口元が緩み、頬を絶え間なく涙が伝っていく。
そんな顔を見られたくなくて、わざと明るい声で聞いてみる。
答が何かを知ってるくせに、分かっているけど聞きたくて・・・
「顔・・・見ないでくれる?」
「―――えぇ、見ませんよ。」
それを肯定するかのようにしっかりと背中に回された手。
――― 分かっていた答え ―――
八戒だったそう言ってくれると、八戒だったらそうしてくれると分かって言った。
時に自然と涙が溢れる事がある。
嬉しいわけでも悲しいわけでもない。
ちょっと疲れたとき、心がいっぱいになった時
そんな涙を優しく受け止めてくれる・・・優しい腕が、欲しかった。
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