「何ぶっ倒れてんだよ。」
「・・・高耶。」
重い瞼をゆっくり開くと、窓から差し込む光を背にあたしの顔を覗き込んでいる高耶がいた。
「あれぇ・・・鍵、かけてなかった?」
「かかってねぇよ。」
「・・・あれ?」
帰って来て着替えるのも面倒でそのままベッドに倒れたのは覚えてるけど・・・鍵、かけてなかったんだ。
「・・・ったく、俺じゃなかったらどうするつもりだったんだよ。」
「高耶じゃなかったら驚くね。」
目を擦りながらそう言うと、高耶が大きく息を吸って声を吐き出した
「じゃなくって!!」
「ん?」
「・・・はぁ〜、もぅいい。寝ろ。」
「んー・・・」
ペシッと軽く頭を叩かれて、そのまま目を閉じる。
「・・・高耶ぁ〜」
「何だよ。」
「そこに、いる?」
「あぁ!?」
目を閉じたままベッドの上で何かを探すように手を動かす。
けれど触れるのは温まったシーツだけ。
それがやけに寂しくて・・・もう一度同じ言葉を口にする。
「・・・いる?」
「いるけど。」
ようやく手に触れた温もりを離さないようしっかり握り締める。
「・・・おい。」
「寝るまで!寝るまででいいから!!」
ちょっと疲れただけだから
ちょっと心が疲れただけだから
・・・意識がなくなるまでの一瞬でいい。
側に誰かが ――― 高耶がいてくれるのを感じていたい。
「ちょっとだけだから・・・」
擦れそうになる声を必死に誤魔化して、零れそうになる涙を隠すようにもう片方の腕を顔に乗せた。
手に触れているのが高耶だと分るだけで、それだけで気持ちが落ち着く。
「。」
「・・・何。」
「手、離せ。」
「・・・やだ。」
高耶の声がいつもよりも低い・・・あぁ、怒ってるなぁって思いながらも掴んだ手の力は緩めない。
「ちょっとだけだっつってんだろ!」
「・・・」
強めに言われて渋々腕を掴んでいた手を離す。
温もりが・・・消える。
けれどそれを感じたのはごく僅かで、その温もりはまるであたしを包み込む毛布のようにそっと体を抱きしめてくれた。
「どうせなら添い寝しろ、ぐらい言ってみろ。」
「っ!?」
慌てて目を開ければ、いつの間にかベッドの上に高耶も一緒に横になっていて抱き枕のようにあたしの体を抱きしめていた。
「取り敢えず寝ろ。」
「たったったっ・・・」
「で、目ぇ覚めたらメシ食いに行くぞ。焼肉でも食って元気つけようぜ。」
「・・・高耶」
「あ、勿論お前の奢りな。」
ビシッと額にデコピンをしてから、ついでと言うように頭を労わるように撫でてくれる。
髪の流れに沿って撫でる手がとても優しくて、高耶の胸にそっと頬を寄せ目を閉じる。
「・・・側に、いてくれるの?」
「あぁ。」
「ずっと?」
「あぁ。」
「・・・がとう。」
擦れてしまった声は音にはならなかったけど、高耶には全部聞こえただろう。
側にいてくれるだけで元気になる。
声をかけてくれるだけで、疲れが取れる。
ぶっきらぼうで、口の悪い高耶。
でも、その存在はあたしの中で誰よりも大きい。
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