「・・・ヒノエ。」

「全く、困った姫君だね。」

「え?」

「どうしてオレを呼ばないんだい?」

何かを見ているようで、何も見ていない空虚な瞳。
けれど、オレの姿を見つけた瞬間、一瞬泣きそうな顔をしただろう?

「呼ぶ?」

「そう。」

ゆっくり姫君の元へ近づき、片膝をついて顎へ指をかける。
微かに揺らぐ瞳に映るのは、鏡のように反射して映るオレの顔。
が自分から見つめるのではなく、ただ目の前にあるモノを映しているだけの瞳。

「ねぇ姫君、男は何の為にいると思ってる?」

「・・・?」

「そう。特にオレみたいな男はね・・・」



――― 姫君を喜ばせる為に、存在してるのさ ―――



そう告げるつもりだったけれど、今の姫君に、その言葉は届かなそうだね。
微かに唇を噛み締め、顎にかけていた指を解いて両手を広げる。

「・・・女の全てを受け止める為にいるのさ。」

「・・・」

「・・・おいで。」



今、お前が胸に何を抱えているか、オレは知らない。



「いい子だから・・・」



けれど、何か辛い事があったから・・・そんな瞳をしてるんだろう?



「・・・



お前が話して楽になるのなら、いくらでも聞いてやる。
でも、お前は口にしてはくれないだろう?



両手を広げたオレを見て、の瞳からひと筋の涙が零れた。
堪えて、堪えて・・・それでも耐え切れなかったお前の苦しみが胸の内から零れた涙は、お前の思いに反して酷く輝いて見えるね。



「おいで」



あと一歩踏み出せず、口元で握り締めている手が小さく震えている。
オレの方から抱きしめるのは簡単だけど、それはお前が望むものじゃないだろう?



今、お前が欲しているのは・・・何よりも温かなモノ







――― 人の、温もり ―――



優しく微笑み、そっと名前を呼んでやると・・・が両手を伸ばしてオレの胸に飛び込んで来た。










ヒ・・・ノエ・・・

背中に回されたの手が、しっかりとオレの衣を掴んでいる。
震える肩は、今まで堪えていた涙を流しているという証だろう。
オレはそんなが泣き崩れてしまわないよう、小さな身体をしっかりと抱いてやる。



泣きじゃくるの身体を抱きしめながら、彼女が落ち着くまで何度も何度も同じ言葉を伝える。



――― 愛している、と ―――



お前がいつものように微笑んでくれるのなら、オレの持てる全ての熱をお前に捧げるさ。
この身も、心も・・・お前への思いで、熱く燃え上がるようになっているからね。

だから、冷えた心が温まったら・・・また、笑ってくれるね?
お前の笑顔は、オレの心を何よりも温かくしてくれるのだから・・・





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