「あーっ、かったる…」

捲廉は今日も退屈していた。つまらない会議や書類、それに加え今日は副官の小言も重なった。それらから逃げる様に当ても無く館内を歩き回る。
やがて通路の角を曲がると一人の女とぶつかった。

「わりぃ。」

「ご、ごめんなさい。」

捲廉はまじまじと自分にぶつかってきた女の顔を見た。
めぼしい女は全て食い尽くしたはずだったが、何処に隠れていたのか中々に好みの美女だった。身に着けている衣服から歌姫であるという事はわかった。
物色中の(?)捲廉の耳に数名の足音が届いた。腕の中にいた女はその音を聞くと、それから逃れる様にそわそわし始めた。

「アンタ…追われてんの?」

「…」

無言を肯定と見なし捲廉は壁を背に女を立たせ抱きしめた。
ちょうど自分の背で相手が隠れる様に…。



やがて捲廉の背に声がかかった。

「捲廉大将!」

「よぉ〜随分と無粋な真似してくれるじゃん。女が怯えちまって大変だぜ。」

捲廉はここぞとばかりに女の腰を抱き寄せた。

「も、申し訳ありません。ですが…その…人を追っておりまして…」

「俺が見たのはあっちに向かって走る影だけだぜ。」

捲廉はあさっての方向を指差すと男達はそれを信じ、見当違いの方向へと走って行った。
男達が完全に通りすぎたのを確認してから腕に抱いていた女から力を緩めた。
すると、女が捲廉の頬に平手打ちを食らわした。

「勝手に抱かないで!」

「助けたのにそりゃねーだろ?」

女は身なりを整えるとキツイ目を捲廉に向けた。

「助けてくれって言った?」

「…イイヤ。」

捲廉はあらためて女を見直した。
力強い目、屈しない精神…今まで自分の周りにいた甘えるだけの女とは違っていた。
捲廉は女に興味を持った。

「なぁ、お前…名前は?」

「歌姫の名前を聞いてどうするの?捲廉大将?」

「イイ女の名前は聞かなきゃな♪」

捲廉の不適な笑みを見て対抗するかのように女は微笑んだ。

「15歳の女でもイイの?捲簾大将?」

「んあっ!?」

女が庭先の泉で顔を洗いその化粧を落とした。
すると幼い少女の顔がその下から現れた。
その時の捲簾大将の驚いた顔は今でも忘れられない。
それでも1度言い出した事は取り消さない捲廉だった。

「…5年後のデート予約してもイイ?」

その言葉に女(いや、少女か…)が吹き出した。

「気に入っちゃった!私、光明歌姫…ううん、って言うの。5年後デート誘ってね!捲廉大将!」

はそのまま垣根を越え隣の館へ走って行った。
捲廉はあまりのショックに天蓬の元へ戻りその事態を話そうといたが、先程逃げた小言の続きを逆に聞く事になってしまった。



これが捲廉と光明歌姫の出逢い
まだ、歯車は周り始めたばかり…





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ようやく捲兄に出会いました・・・。
金蝉との出会いから3年たって貴女も15歳になりました。
歌姫としての地位もかなり高くなっています。
女の子は化粧をすると年齢良くわかりませんよね。
百戦錬磨であろう捲兄が気付かなかったのは…貴女のお化粧の腕が良いんです(言い逃れ!?)
さぁ、悟空に会いに行きましょう!