天蓬が部屋までの回廊を歩いていると、庭先から大きな物が落ちる音が聞こえた。
反射的にそちらへ視線を向けると小さな女の子が木の下に倒れていた…がすぐに起き上がり、木の上をじっと見上げていた。

「やんちゃなお子さんですね…。」

ふと少女の視線と天蓬の視線が重なった。天蓬は軽く会釈をするとそのままその場を去ろうとした。その背中に大きな声がかかる。

「女の子が困っているのに貸す手はないの?」

年の割に達者な口調だなぁと思い、天蓬は少女に近づいていった。

「手を貸して欲しいんですか?」

すると少女は差し出された手をあっさり払いのけた。

「私に手は要らない。このコを巣に返してあげて欲しいの。」

天蓬の目の前に差し出された小さな手に、まだ羽も揃わない小鳥のヒナが震えていた。

「あそこの巣…見えるでしょ?あそこから落ちちゃったみたいなの。戻してあげて…。」

澄んだ瞳が天蓬を映しだしていた。

(大きな目ですね…。何だかこぼれてしまいそうな…。)

天蓬は吸い込まれる様に少女の瞳を覗きこんだ。力強い光を秘めた瞳…。
少女は神妙な面持ちとなり微妙に後ずさりし始めた。その様子に天蓬が口元を僅かに歪めた。

「何も取って食べようなんて考えていませんよ。」

「嘘!このコを食べるつもりなんでしょう?」

手の平でヒナが小さく鳴いている。天蓬は少女が天蓬に何かイタズラされると思って後ずさりしたと思ったが、少女の方は天蓬がヒナを食べるものだと勘違いしたらしい。
それに思わず天蓬が吹き出した。

「やっぱりそうだったんだ!!」

少女がその様子に憤慨しヒナを自分の背中に隠した。それを見て更に天蓬が笑う。

「そうじゃないんです…けど…か…可愛い人ですねぇ…。」

なおも天蓬の笑いは止まらない。少女はすっかり諦めてもう1度木に登るよう足場を探し始めた。そして、足をかけて登ろうとした少女の手を天蓬が掴んだ。

「離して!」

「離してもいいですけど…登るのは無駄ですよ。」

「何でよ!」

「すでにそのヒナは人の…貴女の匂いがついてしまっているので、親鳥が育てるのを放棄してしまうと言っているんです。」

天蓬の真剣な眼差しに少女の動きが止まる。

「自然の動物にはむやみに手を出してはいけないんです。」

「…そっか…。」

少女は力なく座りこみ手の平のヒナの背を優しく撫でてやる。ヒナはやはり小さな声で鳴いていた。
その様子を見て天蓬は溜息をついた。

(なぜ関わってしまったのか…。)

「僕の部屋に鳥に関する書物がいくらかあります。貴女がヒナを育てるつもりならお貸しします。でも、そうでないならそのヒナはこの場に置いて行きなさい。」

少女はしばらく何かを考えていたが、やがて決心を固めたような瞳を天蓬に向けた。

「私が育てる。そして、大人になったら空に返す。」

「…いいんじゃないですか?」

天蓬はそのままもと来た道へと戻って行った。先程と違うのはその後ろを少女が着いてきていると言う事だ。

「あ!そういえばまだ言ってなかったね。私の名前は光明歌姫…じゃなくてって言うの。」

「そうですか…。」

そのまま天蓬は前を向いたまま歩き続ける。

「…普通レディーが名乗ったら自分も名乗らない?」

「誰が決めたんですかねぇ…」

「…うん、何となく分かってきたみたい。アナタの性格…天蓬元帥。」



これが天蓬と光明歌姫の出逢い
まだ、歯車は周り始めたばかり…





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2番手は天ちゃんですv若干(?)偽者です。
金蝉と貴女が出会ってから…1、2ヵ月後位と思っていてください。
貴女が助けた鳥は、天ちゃんに食べられることなく無事巣立ちますのでご安心を(笑)
さて、それでは次は捲兄に会いに行きましょう!