「天ちゃん!これどうかな?」
が窓からひょっこり顔をだし、僕の名を呼んだ。
「…、何度も言うようですけど僕の部屋の入り口はここじゃないんですよ?」
「だってこっちの方がラクなんだもん!それよりこれ、どうかな?」
が後ろ手に持っていた物を僕の目の前に差し出した。
これ以上言っても効果が無さそうなので、僕は目前に置かれた品を見るべく一歩下がってそれを見つめた。
「これは?」
「『葛きり』っていう下界の食べ物で中に入ってるのをかけて食べるんだって。甘味控えめだって言うから貰ったんだけど・・・金蝉食べてくれるかなぁ?」
最近のは金蝉を喜ばせる事・・・否、金蝉を笑わせる事に情熱を注いでいる。
――― 今回は食べ物編と言った所でしょうか。
部屋の窓辺に腰掛けながら足をバタつかせ、葛きりの入った器を両手に握って不安そうな顔をしている。
まだ食べさせてもいないのにそんな顔して・・・。
でもそんな所がらしくて自然と頬が緩む。
「で、は食べたんですか?」
「ううん、まだ。さっき菩薩ちゃんがくれたの。天ちゃんと一緒に食べてみようと思って二つ貰ってきた。」
はい、と言ってが僕の手に小さな器に包まれた葛きりを一つ分けてくれた。
「そんな大事な物僕が食べちゃっていいんですか?」
「うん。だって天ちゃん金蝉と一緒で甘いのあんまり好きじゃないでしょ?捲兄だと茶化されそうだし、悟空だと足りないし、ナタクはこうゆうの食べないし・・・。感想ちゃんと聞きたかったから・・・」
「たいした事言えませんけどね。」
そんな風に捨てられた子犬のような目で見なくても、の頼みを無下に断ったりしませんよ。
僕はに手を貸して窓辺から降ろすと、二人で並んで床に座り葛きりの封を切った。
中には袋入りの黒蜜が入っていたのでそれをかけて、同時に葛きりを口に運ぶ。
「これは・・・」
「・・・何かおもしろい、つるつるしてる。」
「随分と変わった食感ですね。」
そんな風に感想を言いながら食べていたら二人ともあっという間に食べきってしまった。
見た目の割に案外量は少ないんですね。
器に残った液体を飲むべきかどうか思案している所へ視線を感じて振り向けば、何かを期待したような目でが僕を見ていた。
・・・ま、何を待っているのかは明白ですけど。
「ねぇ、どうだった?おいしい?おいしい?」
予想通りの展開に苦笑しながらも、僕は食べ終えた器を床に置いてに笑顔を向ける。
「とてもおいしかったですよ。ただ・・・」
「ただ?」
「金蝉がこういった物を食べるかと言われると・・・」
床に置いてある小さな花形の透明な可愛らしい容器。
この器を手で持って、箸でつまんで食べる金蝉なんて・・・想像するだけで笑っちゃいそうですよ。
「金蝉の食事風景ってイマイチ想像できないんですよね。」
「うっ!確かに似合わないかも・・・」
「味自体はあんまり甘くないんで大丈夫だと思うんですけど・・・」
空になった器を手にうんうん唸るの頭に手を置いて、慰めるように軽く叩く。
「もしダメなら今度は僕も文献を調べて何か探してあげますよ。」
「本当?天ちゃん!」
「えぇ。」
僕の答えに気を良くしたのか、は食べ終えた器を一つにまとめて袋に入れるといつものような眩しい笑顔でニッコリ笑った。
「ありがとう天ちゃん!取り敢えず金蝉の分、菩薩ちゃんに貰ってくるね。」
そう言うと窓辺に置いてあった僕の椅子に足をかけ、そのまま窓辺を勢い良く蹴って外へ飛び出して行った。
「だから、僕の部屋の出入り口はこっちの扉なんですって・・・」
そう言って僕が指差した先には、半分姿の隠れた扉が本の重みによって僅かに悲鳴をあげていた。
・・・せめて扉と認識されるくらいまで、本・・・片付けましょうかね。
100のお題からこっそり移行させましたが、コメントは殆ど弄ってません。
金蝉に恋するヒロインを温かく見守る天ちゃん・・・華散歌とかを知ってるとちょっと切ないけど、コレだけ読むとギャグ?
ず〜〜いぶん昔に書いた物をリメイクしました(マジ)
内容は全然変わってません。ヒロインが金蝉の笑顔を見るべく美味しい食べ物を探しています。
で、菩薩ちゃんに変わったお菓子を貰ったから甘い物が好きではない天ちゃんを実験台にしている・・・と言う話です(笑)
でも取り敢えず散らかった天ちゃんの部屋に正面から入るより、窓から入った方が安全だと思うのは私だけでしょうか?