指定の時刻に指定された場所へ向かうと、既に捲簾と悟空・・・そして金蝉が桜の木の下に集まっていました。
「おやぁ?・・・遅れましたか?」
口にくわえていた煙草を手に持ち返ると僕はすぐ側にいた捲簾に確認をした。
「いや、ちょうどだぜ。」
「天ちゃん何色のコップがイイ?」
赤と緑の紙コップを持った悟空がニコニコ笑顔で尋ねてきたので取り敢えず緑色の紙コップを受け取りその場に座った。
地面の上に引かれた柔らかな布は桜の根で少しごつごつしているはずの地面を全く感じさせない。
そして目の前には様々な料理が所狭しと並べられている。
「・・・随分豪勢ですね。」
「俺も驚いた。誰が用意したんだ、コレ?」
自然と僕らの視線は目の前にいる金蝉の方へと向くが、当の本人は不機嫌そうな顔をしながらやたら落ち着きの無い悟空の手を掴んでその場に座らせていた。
「・・・違いますよね。」
「違うな。」
「じゃぁ一体誰が・・・」
と、言いかけた所で館の方から目に鮮やかな真っ赤な歌姫の衣装を身に着けたがやってくるのが目に入った。
いつもは軽装を好む彼女が、何故今日に限って歌姫の衣装を身に着けているのかという疑問が頭をよぎったが・・・今はただ、滅多に見られないの姿に目を奪われる。
「ごっめーん、私が遅れちゃった!!」
「おっせーぞ、呼び出した張本人!」
「あはははゴメンね、捲兄。ちょっと野暮用v」
「野暮用?」
「うん、でもちゃんと終わったから・・・あ〜疲れた。」
悟空から残っていた赤いコップを受け取るとは後ろ手に隠していた物を僕らの前に差し出した。
「じゃ〜んv」
「おっ・・・おいおいマジか?」
「どうしたんです?」
隣に座っていた捲簾が珍しく身を乗り出してが手に持っている酒瓶に手を伸ばした。
「これって天界でも滅多に手に入らねぇ幻の酒じゃねぇか!!」
「菩薩ちゃんに貰ったの。」
ニコニコ笑顔でそう言うを見て、思わず僕らは顔を見合わせてしまった。
「・・・甘いな。」
「甘いですね。」
「・・・いつもの事だ。」
金蝉が頭を抱えるようにしてため息をつく。
ひょっとしてあの人の事後処理をしているのは側近だけではなく、金蝉も関わってるんですかね。
「ひっどーい!金蝉達が喜ぶと思って、今日は朝から菩薩ちゃんの所でこき使われてきたって言うのに!」
「どういう意味です?」
僕がずれた眼鏡を直しながら尋ねると、はわざとらしく大きなため息をついてから今日一日のスケジュールを話してくれた。
まず、いつもより早めに起床するとこの場所にシートを引いて場所をキープした。
次に金蝉と悟空と朝食を済ませると仲のいい料理人の所へ行って、料理をお願いした。
その足で観世音菩薩の元を訪れると、そこに幻の酒と呼ばれるものを見つけそれを僕らへのプレゼントにしようと考えた。
だが相手が相手だけにただではやれないというので、観世音菩薩好みの衣装を身につけつい先程まで言われるがままに歌い続けた・・・と言うわけらしい。
「それはご苦労様でしたね。」
「ね?偉いでしょ?」
えっへんと胸を反らすの額を金蝉が横から叩いた。
「いたっ!」
「それならそうと言え。何も言わずにこの大量の荷物を押し付けやがって・・・」
「だって・・・言う暇なかったんだもん。」
「金蝉、の話聞こうとしなかったじゃん!」
小さな子供にまとわりつかれる父親のように右と左から叫ばれて、金蝉がどんどん声を荒げていく。
その姿を見て僕も捲簾も苦笑せざるを得ない。
「・・・随分オトーサンらしくなったな。」
「えぇ本当に。」
そう呟いた瞬間、なんとも言えない鈍い音が二つ・・・僕の耳に届いた。
「「いったーっ!」」
「・・・お前らも殴られたいのか。」
「あははは遠慮しておきます。」
「俺も。」
金蝉はがいつもの侍女のような格好ではなく、歌姫の正装をしていてもどんな姿でいてもその扱いは変わらない。
それがにとって居心地のいいものだと知っているのかいないのか・・・頭を叩かれても彼女が金蝉を見つめる目の柔らかさは、変わらない。
それから取り敢えず最初の乾杯だけという事でが必死で手に入れたお酒をコップについだ。
「おい、飲むなよ。」
「分かってるよ。」
「うん!」
「おうおうオトーサンは大変だね♪」
「そうですね。」
「煩い。」
不機嫌そうだけれど、今日は金蝉も少し機嫌がいいみたいですね。
まぁ普段があんなですからそれに気付く人も少ないと思いますけど・・・。
不意に視線に気付いてそちらへ顔を向けると、僕の袖を軽く引っ張りながらが空いている手に持っているカップを目の高さで軽く左右に揺らしていた。
「ねぇねぇ天ちゃん、くりすますの時も乾杯って言うの?」
「いいえ。クリスマスの時は『乾杯』という代わりに『メリークリスマス』って言うんですよ。」
「へぇ〜じゃぁ今日は皆で言ってみようよ!」
「いいですね、それ。」
「おー何だか面白そーだな。」
「うん!」
「金蝉もメリークリスマスだからね?」
・・・おやおや、そんなに嫌そうな顔をしてもには通用しませんよ。
「・・・」
「メ リィ ク リ ス マ ス 」
目の前で一言一句区切るようにして告げると、金蝉が諦めたようにため息をついた。
「・・・分かった。」
「それじゃぁ皆、折角お酒もご飯もいっぱい用意したんだからしっかり食べてね!メリークリスマス!!」
「「「メリークリスマス!!!」」」
「・・・めりぃくりすます」
「金蝉声小せぇ・・・」
「言えばいいんだろうが。」
「よっしゃ飲んで食うぞー!」
「どれも美味しそうですね。」
それから皆で目の前の料理を酒の肴に天界一の酒と言う幻の美酒に酔いしれた。
と悟空はそれが飲めない事が不満だったみたいですけど、金蝉が持ってきた飲み物を見ると二人は目を輝かせてそれを受け取った。
「・・・金蝉、なんですかそれ。」
「・・・ただの柚子蜜だ。」
ただの柚子蜜にしては二人の喜びようは尋常じゃないですよ?
「前にこいつらが館に置いてあった柚子蜜を隠れて飲みやがったんで暫く飲ませなかったんだ。」
「すっーごく美味しかったのに金蝉が隠しちゃったの。」
「うん!」
「・・・何度場所を変えても見つけ出して飲んだのは、誰だ。」
「「はーい」」
本日何度目かのゲンコツがと悟空の頭に振り下ろされる。
「・・・なるほど、二人のお気に入りと言う訳ですか。」
「あぁ。」
「いった〜い。」
「うぅー・・・」
「まぁまぁ今日は『くりすます』とやらで無礼講なんだろ?今日くらい大目に見てやれよ。」
捲簾・・・貴方は年中無礼講でしょう。
コップに注がれた酒を飲みながら心の中でそう呟くと、いいタイミングで捲簾がくしゃみをした。
くしゃみ一回は・・・いい噂でしたっけ?悪い噂でしたっけ・・・何かの文献にそんな事書いてありましたよね。
お酒も料理も無くなりかけて肌寒くなってきたので、そろそろお開き・・・と言う頃に、金蝉が悟空と一緒に花冠を作っていたに声をかけた。
「おい、そろそろいいだろう。」
「あ、うん!悟空、この続きはまた今度ね。」
「うん。」
「何だ?お開きか?」
頭上の桜を見上げながら腰に下げた酒瓶から酒をついでいた捲簾が、視線をに向けると軽やかな足取りで桜の木の根元に立った。
コホンと小さな咳払いをするといつも舞台に立つようにしゃんと背筋を伸ばして、視線を遠くへ向ける。
「・・・?」
小声での名を呼べば、隣に座っていた金蝉に肩を叩かれる。
「アイツから・・・プレゼントだそうだ。」
「はぁ?」
「プレゼントって何?」
「すっげーいいものだって言ってたよ、!」
目に見えない尻尾を振っている悟空を最前列に、その後ろに並んだ僕らは・・・この日、天使の歌声を耳にする。
が天帝お気に入りの歌姫となったのはつい最近。
その前も何度か独唱を聞いてはいるけれど、こんなに透き通った歌声は初めて聞いた。
風に乗って耳に届く歌声は、優しく・・・甘い。
先程まで冷たく感じていたはずの風すらも温かく感じる。
彼女の歌声に合わせるように風に揺れて舞い散る桜の花びらが・・・まるで下界で降る雪のように僕の目に映った。
「・・・メリークリスマス。」
が歌い終えてニッコリ微笑み一礼すると、僕らは惜しみない拍手を送った。
悟空は嬉しそうに、捲簾は口笛とともに、僕は敬意を表して・・・そして金蝉は何処と無く満足そうな笑みを携えてに拍手を送っていた。
彼女が歌った曲は・・・アヴェ・マリア。
何故この曲を選んだのかとに聞けば、歌の意味も何も分からなかったけど、譜面を見た時からずっと心に残っていて今日の為にずっと練習をしてきた・・・と教えてくれた。
が僕らにとってのマリアだと、そんな事を言うつもりはありませんが・・・桜の木の下で歌う貴女の姿は、何よりも神聖で神々しく感じましたよ。
メリークリスマス。
願わくば、ここにいる貴女達にも
僕らが感じた幸せが届きますように・・・
クリスマスin天界(笑)
去年は確か桃源郷でクリスマスをやったので、今年は天界でクリスマスをやってみました(笑)
この話で使いたかったのは桜の木の下でアヴェマリアを歌うシーンです。
歌は何でもよかったんだけど、作中で言ってるように私も何となくそれが使いたかったんです(おいっ)
突然ですけど夜、桜の花びらが風に舞う様子って雪が降ってるように見えません?
天界は雪が降らないから、桜の花を雪の変わりに降らしてみました(笑)
ちなみにヒロインが赤の服を着ているのはサンタさんから来ています。
きっと菩薩チャンもその辺知っててその服着せたんでしょうね(爆笑)
それにしてもこのサイト・・・一体いくつクリスマス話があるんでしょうね!?
そろそろネタ尽きてくるぞ・・・(ボソリ)