庭の方から何か音が聞こえたから出て行ったら、悟浄が頭にタオルを巻いて日曜大工をしていた。
今なら驚かせられるかも、なんて小さなイタズラ心が沸いて来てそーっと近づいて声をかけようとした瞬間、嫌な音が聞こえた。
べちゃっ
「「あ」」
「・・・やっぱり落ちませんね。」
「ペンキだもんね。」
椅子に座って濡れた髪を八戒に拭いてもらっているあたしの前では、額を床にくっつけそうな勢いで頭を下げている悟浄がいる。
「ほんっっっとに悪かった!」
「悟浄がそんなに謝る事ないよ!そもそもあたしが驚かそうと思って無言で近づいたのが悪かったんだから!!」
そう、悟浄を驚かせようとその背中に手を伸ばした瞬間・・・悟浄がくるりと振り返り、手に持っていた白いペンキのはけがあたしを掠めてしまっただけ。
ホント馬鹿っていうか運がないっていうか・・・ちょっと自分が情けなかったよ。
洋服についた部分は八戒がシンナーで綺麗に落としてくれたし、体についたのはお風呂で洗って落ちたんだけど・・・左側肩下の髪についたペンキは、微かに残っていて落ちない。
自業自得なんだけど・・・このまだら模様のような髪はちょっとイヤかも。
「今回は不幸な事故、という事で・・・の髪は僕が何とかしますから、悟浄は作業の続きお願いします。」
「・・・あぁ。」
ゆっくり立ち上がる悟浄からいつもの元気が見えなくて、思わず席を立ってその背中に声をかける。
「本当に気にしないで!!」
「・・・サンキュ。」
苦笑したような傷ついたような微妙な表情であたしの頭にポンッと手を乗せると、悟浄はそのまま庭へ戻って行った。
あーもー!どうして今日に限ってあんなヘンな事やろうなんて思っちゃったんだろう!!
素直に声をかければ悟浄もあんな顔しなくてすんだし、あたしの髪も真っ白にならなくてすんだのに・・・あーもぉ最悪!
自分の行動を責めるかのように頬を両手で思いっきり引っ張っていたら、頭上から八戒にその手をつかまれた。
「が悪いわけじゃないですよ。ただタイミングが悪かっただけです。」
「・・・八戒ぃ」
「だから、その手を離してください。頬が赤くなっちゃいますよ?」
「・・・うん。」
八戒に言われて素直にその手を膝に下ろすと、何故か八戒が両手を組んでじっとあたしの方を見ているのに気付いた。
なんだ?あたしの顔に何か付いてる?!
真っ直ぐ視線が自分に向いているのが恥ずかしくて所在無さ気にオロオロしていたら、八戒があたしの髪をひと房つかみ、とっても綺麗な笑みを浮かべサラリとすごい事を言った。
「僕に髪を切らせてもらえませんか?」
「は?」
呆気に取られて出た言葉は押さえる事が出来なくて、ついでに言われた事に驚いた所為で開いた口も塞がらない。
そんなあたしを見ても八戒は全然顔色を変えない。
「洗っても落ちないとなると切るしかないじゃないですか。でも左の部分だけを切るとバランスが悪くなりますから・・・いっその事僕に任せてみませんか?」
「あの、その・・・でもっっ!」
「の髪が酷いクセ毛なのは知っていますよ。」
「う゛」
そう、あたしの髪は天然パーマ。
昔よりだいぶ落ち着いてきたけれど、何処の美容院に行っても肩下より短くされない。
理由は簡単・・・それ以上短くすると、髪の重みで伸びていた髪が持ち上がってしまって凄い事になる、と皆に口を揃えて言われているから。
それが一人の美容師さんに言われたなら諦めないんだけど、何処へ行っても同じ事を言われれば諦めざるを得ない。
その為、あたしの髪はずーっとロングヘアーだ。
「の髪は根元からクセが出ているんですよ。」
眉間に皺を寄せて悩んでいるあたしの顔を見て不安を読み取ったのか、八戒がそっとあたしの頭に触れて根元の部分を掴んだ。
「でもそのクセを活かした髪型にすれば大丈夫だと思うんです。」
「八戒、人の髪って切った事あるの?」
いくら器用な八戒とはいえ人の髪を切った事が無い人に任せるのはちょっと怖い。
疑っているわけじゃないけど数十年ぶりに髪を切るとなると・・・その辺を確認したくなるのは当たり前だよね。
「えぇ、悟浄の髪はいつも僕が切っていますし、自分の髪も切りますよ。」
「えぇー!?」
自分の髪も切ってるの?!
驚いて振り返ると、八戒は自分の前髪をちょいちょいっと引っ張りながら笑っていた。
「えぇ、ほら床屋さんのお金も馬鹿になりませんし・・・いつも自分で切っていますよ。この間は三蔵が後ろ髪が鬱陶しいと言っていたので切って差し上げましたし・・・」
あの三蔵の髪も切れるのか・・・それはちょっと凄いかも。
「少しは信用していただけましたか?」
・・・八戒に隠し事ってどうやったら出来るんだろう。
苦笑しながら大きく息を吸って、吐く。
こうなったら八戒に任せよう。
どんな髪形になっても・・・皆は笑わないって分かってるし、八戒の腕を信用する。
「八戒。」
「はい?」
「・・・お願い、してもいい?」
「勿論です。」
今まで以上に綺麗な笑みを浮かべた八戒が椅子に座ったあたしの前にしゃがんで、左側のまだらになった髪をそっと手に取り口付けた。
「・・・誰よりも綺麗に、して差し上げますよ。」
――― カミサマ、髪を切るだけで心臓が止まりそうになる事ってあるのでしょうか。
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これは、風見がはじめてショートにした美容院のお兄さんのワザに惚れた時に書いた話ですね(笑)
いやぁ〜はじめてショートにしたんですよ!小学校以来。
ま、今はまたもとの髪に戻ってますが、天パを生かすようなパーマをかけたり、髪形にしたりと、そこの美容院のお兄さんには未だにお世話になっています。
本当はこの後、こー髪を切るシーンとか切った後のシーンを入れたかったんですが…上手くいかなかったので、ここで止めさせて頂きました。
ただ、まぁ…唯一心配するとしたら、八戒の趣味が悪いってとこなんですけど、そこはほら夢小説なので綺麗に切りそろえてくれると信じましょう!
昔から言うじゃないですか!
信じるものは救われる
ってね!(脱兎)