「涼しぃ〜♪」

、いくら酔っているとはいえ、そんな薄着じゃ風邪引きますよ。」

結局あの後、八戒から荷物を手渡されたあたしは目の前にあった綺麗な色の飲み物を一気に飲み干して上着を八戒に預けたまま店を出た。
半分以上氷で薄まっていたとは言え、やっぱりお酒。
お酒に弱いあたしはよろよろ歩きながら外へ向かって歩き出した。
どうしてそんな事をしたのか分からないけど、その時はどうしてもお酒を飲みたかった。



――― ただ、何も考えたくなかったからかもしれない。



「ダイジョ〜ブ!」

「やれやれ、困った人ですね。」

千鳥足の見本のようにふらふらと歩きながら家までの人気の無い道を歩く。
空には綺麗なお月様が出ていて、星もあちらこちらに見える。
ふと首元に温かいものを感じ視線を落とすと、行きに八戒がしていたマフラーが首にかけられていた。

「せめてそれくらいはしていて下さいね。」

苦笑しながらまるで小さな子供に言い聞かせるように囁く八戒の声が、今のあたしには何故だかとても辛い。
その声を聞いた瞬間、思わずその場に立ち止まりあたしは視線を落とした。

?」

「ねぇ八戒・・・
聞いてもいい?

本当は聞いちゃいけない。言っちゃいけない、事・・・なんだけど
どうしても、今聞いておきたい事がある。

「どうしたんですか?突然?」

「聞いても・・・イイ?」

今度はしっかりと顔を上げて八戒の目を見つめて言う。
八戒は少し驚いた顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔になって小さな声で「どうぞ」って言った。
あたしは微かに震える唇をぎゅっと噛み締めると、ゆっくり口を開いた。

「八戒は・・・もう誰も
好きにならないの?・・・それともなれないの?

八戒に聞こえるか聞こえないか位の小さな声。
お酒の酔いなんてとっくに冷めてしまった。





目の前の八戒の表情は・・・見ている方が痛くなるくらい悲痛な表情に変わっている。
あたしは触れてはいけない部分に触れてしまったかもしれない。
そう思った瞬間、八戒から視線を反らしてしまった。















どれくらいその場で立ち尽くしていただろう。
体が空気の冷たさを感じ震え始めた頃、八戒が手に持っていた上着をそっとあたしの肩にかけその上から手を置いた。

「誰も好きにならない・・・と言う事は無いと思います。」

今まで聞いた事の無いような・・・八戒の心からの声。
嬉しい筈のその声も、今は・・・
辛い

「・・・と言うより僕には好きになってもらう資格が無いんです。全てを知っている貴女ならこの意味、分かって下さいますよね?」

あたしはこくりと頷いた。
今は絶対顔・・・あげられない。

「人に対して好意を持つ事はあります。ただそれは・・・『人を愛する』と言う事とは違います。」

淡々と話を続ける八戒の声を聞いているうちに、だんだんと涙が溢れてきた。
それは八戒が心から話をしてくれているから、あたしの質問に心から応えてくれてるから・・・その言葉の重みが・・・あたしには・・・。

「素敵な人だなって思う事は僕だってあります。人として、人間として素晴らしい人だと・・・でも・・・」

肩に置かれていた八戒の手が、痛いほどあたしの肩を掴んだ。



「心の底から一緒に居たい、そう思った女性ひとはもういない。ただ・・・、それだけなんです。」





それだけ言うと八戒は肩に置いていた手をゆっくり離し、そのまま片膝をついてその場にしゃがむと今だ動かないあたしの顔をそっと覗きこんだ。

「・・・泣かないで下さい。貴女を泣かせたいわけじゃないんです。」

ごめ・・・な・・・さい・・・あたし・・・

涙が止まらない。
手で拭っても拭っても後から後から涙が溢れてくる。

「はっ・・・か
いぃ・・・ごめ・・・ごめん・・・」

「どうしてが謝るんですか?」

八戒がティッシュを何枚か渡してくれたので、それでとりあえずぐちゃぐちゃになった顔を隠すように当てた。

「ほん・・・とっ・・・
ごめ・・・

「そんなに気にしないで下さい。こうやって言葉にしてみて、少し気持ちが楽になった気がするんですから・・・」

あたしは思い切り首を振る。
八戒の声は気持ちが楽になったようには聞こえない。
むしろ古傷を思い切り引っ掻いてしまった感じがする。

、僕を見てください。」

八戒の声がすぐ近くから聞こえる。
あたしはそれでも顔をあげる事が出来ず、小さく首を横に振った。

、こっちを向いてください。」

あたしの頬に八戒の手が添えられる。
外気に当たって冷たくなってしまった八戒の手は、まるで今の八戒の心を示しているようで余計に涙がこぼれてきた。

・・・」

三度名前を呼ばれて・・・目の前にいる八戒の顔を見る為にあたしは顔を覆っていたティッシュをどけた。



するとすぐ目の間に八戒の顔があった。



その表情は、あたしが泣き出す前とは全然違う・・・憑き物が落ちたかのようにすっきりしている。
驚いたあたしの顔を見て八戒は微笑むとコツンとあたしの額と自分の額を合わせた。

「僕は大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。」

「・・・」

「まだ、信用できませんか?」

「・・・」

「・・・体、冷えちゃいましたね。」

八戒がそっと体を抱きしめてくれた。
温かい八戒の腕の中・・・あたしはそっと目を閉じて八戒の鼓動に耳を傾ける。
トクン トクン・・・それはまるで優しい子守唄のようで、先程までの感情の波を見事に落ち着かせてくれた。




















「落ち着きましたか?」

ハッと気づいて慌てて八戒の腕の中から抜け出る。
酔いは覚めているはずなのに、何だか頬が熱い。

「・・・いつものですね。」

「えっっ!?
えっ!?

「さ、今度こそ帰りましょう。これ以上外にいたら本当に風邪をひいちゃいますから・・・家に着いたら温かいお茶を入れましょうね。」

目の前に差し出された八戒の手。
そっと手を乗せると八戒がギュッて握ってくれた。
それに応えるようあたしも八戒の手を握り返す。

「・・・ゴメンね八戒。手、冷たくなっちゃってる。」

「僕よりの方が冷たいですよ。風邪ひかないといいんですが・・・」

「あ、それは平気。馬鹿は風邪ひかないって言うでしょ?」

「じゃぁやっぱり早く家に帰らないといけませんね。」

「・・・八戒、意味通じてる?」

「えぇ、は馬鹿じゃないから風邪ひいちゃうって事ですよね。」

ようやく到着した家の前で、八戒はくすくす笑いながら家の鍵を開けた。
いつもの八戒の笑顔がこんなに嬉しいなんて・・・





扉を開け、先に家の中に入ったあたしは今日一番の笑顔で八戒を出迎えた。

「お帰りなさい、八戒。」

「・・・ただいま帰りました。」





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「心の底から一緒に居たい、そう思った女性(ひと)はもういない。ただ・・・それだけなんです。」

何かの時に当サイトの参謀でもある香原さんが突然この台詞が頭に浮かび、その声が石田さんだったと言うのを電話で聞いた。
「・・・こう言う台詞を言うのは八戒だよねv」
「それでシチュエーションはこんな感じだよね?」
「そうそう♪」
・・・と言う事で一時期異常に盛り上がりました(笑)
電話を切った後、どこかその台詞使いたいなぁと思ってのろのろ書き始めたんですが・・・上手くいかない。
構想、
1日・・・執筆・・・1年(大爆笑)
書いては止めて、書いては止めて・・・昨年末ようやく書き終わりました!!
本当は1月中にUPしたかったんですが、風見に鬼の霍乱が訪れ今頃になってしまいました(TT)

いやぁ〜何時にも増して意味不明ですね(苦笑)
文章は1年かかってるから所々おかしいし(自分でも分かってる(笑))校正の香原さんも大変ご苦労様でしたm(_ _)m
最後の台詞なんて説明無きゃわかんないよ!!
モヤモヤした気持ちを抱えていたヒロインだけど、最後にはいつもの二人に戻りつつ、今日の『今』の八戒も全て受け入れるという意味で「お帰りなさい」
・・・って説明してもわかんねぇってばよ(壊れた?)
でも取り敢えず1年かかっていた話をUPする事が出来たので大変満足です(自己満足v)
ラストの月の背景はこのネタを思いついた時からイメージがあって・・・何年探してたんだろ?
ようやくピッタリイメージが合う物を見つけて、本当はこの背景と話をあわせた事で満足して更新するのを危うく忘れる所でした(爆笑)