「ん〜…おはよう。」
「おはようございます。」
目を擦りながら居間へ行くと八戒と悟浄が二人でコーヒーを飲んでいた。
いつもなら明るいはずの空がまだ午前中だというのに今日はやけに暗い。
「おはよう悟浄。」
「んー」
なにやら新聞に載っているパズルを解いている様だ。
耳に鉛筆を挟み、珍しく真剣な眼差しでその問題を眺めている。
中々問題が解けないのか指が苛立たしそうに机を叩いている。
あたしの前にコーヒーを置いて八戒が席に座った。
「ヒントはいらないって言い張っていてさっきからずっとこの調子なんですよ。」
「へぇー…」
その時、薄暗い空が一瞬光り、数秒後に大きな音が耳に届いた。
あまりの音の大きさに、八戒は窓辺へ近付いて外の様子を伺い、悟浄も新聞から視線を上げた。
「結構近くに落ちたみたいですね。」
「珍しいな、こんな時期にカミナリなんて…」
「そうですね…取り敢えず部屋の窓の確認をしておきましょうか。僕は台所を見てくるのでそれ以外の所、お願いしますね。」
「ん…チャン所は自分で…あ?」
何気なくあたしが座っていた席に目を向けた悟浄は、ついさっき迄いたはずの人物が消えていた事に目を丸くしていた。
所在を探そうと視線を走らせた矢先に雨粒が激しく窓を叩き始めたので、悟浄は戸締りの確認をするべく慌てて居間から姿を消した。
早々と台所の確認を終えるとそんなに広くない居間の隅で小さくなって震えているあたしを八戒が見つけた。
「…もしかしてカミナリ苦手ですか?」
「いや…そんな事は無いんだけどぉー!!!」
ちょうど良いタイミングでカミナリが鳴った。先程よりも近くに落ちたようで、光と音の鳴る間隔は殆ど同時だった。
一生懸命に耳を押さえギュッと目を閉じてカミナリが遠ざかるのを必死で待つ。
「うぅ〜っっ」
「、そんな塞ぎ方をしてると耳が痛くなっちゃいますよ。」
相変わらず空は真っ暗で時折光るカミナリだけが部屋の中を映している。
雨と風はどんどん酷くなり、まるで大型台風でもやってきたかのようである。
「ぎゃ〜っっ」
可愛らしい悲鳴をあげる暇が無いくらいカミナリは連続して鳴り響いていた。
ふっと気付くと八戒の大きな手があたしの体を包みこんでいた。
「次にカミナリが光ったら一緒に数を数えましょう。」
「か…かず?」
「そうです…ほら光った。1、2…」
八戒の声を聞くために耳に入れていた指をゆっくりとはずす。
八戒が3まで数えた時カミナリの大きな音があたしの耳に届いた。
「うにゃぁ!!」
「落ちついて、大丈夫ですよ。ここには落ちませんから…ほらまた光った。1、2…」
八戒は赤ん坊を抱きかかえるかのようにあたしの体をギュッと抱きしめる。
反射的に両耳を押さえていた手を八戒の手が優しく包む。
それでもやっぱりこんなに大きなカミナリを体験した事は無くって体の震えは止まらない。
八戒は先ほどからずっと数を数え続けている。
「…7、8。大分遠ざかったみたいですよ。」
「え?」
「カミナリが光ってから音が鳴るまでの間隔が近いほど近くに落ちたって事なんです。だから逆を言えば間隔が開けば遠くなるってことなんです。僕と一緒に数えてみませんか?」
「う…うん。」
それから横目で窓が光るのを見るたび2人で数を数えた。
初めの内は5秒以内で鳴り響いていたカミナリも時間がたつほどにその間隔を伸ばして行って、10秒経った頃には外の雨も横降りから普通の雨へと変化して行った。
「14。もう鳴らないかな?」
「そうですね…」
「あー怖かったよぉ…こっちってカミナリこんなにおっきいの落ちるんだね。」
「滅多にカミナリなんか落ちないんですけどね…少し落ちつきましたか?」
「え…うん。」
我に返って手元を見るとあたしは八戒の手を力いっぱい握っていた。
慌てて手を開いて八戒の手を離すと微妙に赤くなっている…気がする。
「ご…ごめん。痛かった?」
「大丈夫です。がどれだけカミナリが嫌いなのか、よくわかりましたから…」
にっこり笑ってさっきまであたしが握っていた手をひらひらと目の前で振ってみせた。
薄っすらとあたしの指の跡が八戒の白い手に残っている…気がする。
はっと悟浄の姿が見えない事に気付いて声を出そうとした瞬間大きな音が耳に届いた。
「どっかーーーーん」
「んぎゃぁ〜〜〜〜」
目の前にいた八戒に飛びついて再び耳を塞ぐ。
次のカミナリに備えていたのだが…しかしそれはすぐに大きな笑い声に変わっていった。
「だぁっははは!!!」
そこにはびしょ濡れになって笑い転げている悟浄。
「悟浄、悪戯が過ぎますよ。」
半分涙目になっているあたしを抱きとめたまま八戒が悟浄にくぎをさす。
「それにしても何で貴方そんなに濡れているんですか?」
「…あのなぁ、人がどれだけ叫んでも手ぇ貸してくんなかったのはどちらサマで?」
「「え??」」
悟浄曰く、窓の開閉の確認をしていた所、悟浄の部屋の窓ガラスに何かが当たり割れてしまっていた。
取り敢えずダンボールで雨よけをしようとしたのだが、押さえるのに精一杯で塞ぐには手が足りなかったらしい。
大声であたし達の名を呼んでいたらしいが…その頃あたしはカミナリの恐怖に必死で耐えていて、八戒はそんなあたしを宥めるのに手いっぱい。
一人必死の攻防を行い、よろよろになって居間に戻ったら抱き合うあたし達がいたのでつい悪戯をしてしまったらしい。
「それはすみませんでした。それで、部屋はどうなったんです?」
八戒はあたしをソファーへ座らせると悟浄の部屋の方へ歩いて行った。
二人がいなくなって心細くなったあたしの元には、二人の代わり…とでもいうように、ジープが飛んできた。
ジープを抱き上げたところへ、遠くから八戒の声が聞こえる。
「すみませんがジープのブラッシングお願いできますか?すぐ戻りますから。」
八戒の気遣い…いつでも人を思いやる八戒の心はとても温かい。
「まっかせて!!」
ジープを膝におろしてゆっくりと毛並みに沿ってブラシをはしらせる。
窓の外は今までの荒天からうってかわった晴天ヘ…
二人が戻ってきた頃、窓の外にはキレイな虹が掛かっていたんだけどあたしはその頃しっかり夢の中。
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いつ書いたかも分からないぐらい昔の作品です。
…校正しようとしたら、全書き直しの上ボツになりそうだったので、恥を忍んでそのままのUPとなりました。
う、うわぁ…これ、案外自分に辛いわ(苦笑)
雷が鳴り響く時期に、雷嫌いの自分はこれをやります。
カーテン閉めて、耳塞いで…ピカッと光った後、どっかんと音が鳴るまでの時間を数えます。
…とはいえ、遠ざかっても光りは怖いし、音も怖いのに変わりはありません。