「さて、準備も整った事ですし…そろそろ出掛けましょうか。」

「おっ、やっと終ったのかよ。」

「えぇお待たせしました。」

「何?何の用意してたの?」

「紅葉狩りです。」





八戒達とジープに乗って家から2時間程離れた山間にやってきた。

「うわぁ…」

目の前には一面の赤や黄色に色づいた木々が広がり、下の方からは川のせせらぎが聞こえてくる。

「結構イイ感じでない?」

「そうですね。」

「すっごーい!もう紅葉が始まってるんだね。」

なにやら大きめのバスケットを持った悟浄に視線を向けると楽しそうに笑ってる。

チャン来る様になってから四季の移り変わりが楽しく思えてしょうがねェよ。誰かサンも良く外に出るようになったしぃ?」

「悟浄、余計な事言わないで下さいね。」

「???」

何?何の事?首を捻っていると八戒が小さな水筒をあたしの手に持たせた。

「こちらお願いします。ここから少し歩きますから足元に注意して下さいね。」

「あ、はーい。」

「ほんじゃ、先行くぞ八戒。」

悟浄が先頭、続いてあたし、その後ろに八戒とジープという順番で急な坂道を下りて行く。
一応道はあるものの角度が急で、前日の雨の所為か足場はあまり良くない。
土の部分は問題無いが、所々にある砂利や大きな石の部分が滑りやすくなっている。
急なカーブには落ちないように気持ちばかりのネットが貼られているが、殆どの場所には何もない。
滑り落ちれば下の方に見える川まで真っ逆さま…である。
蛇行した土の坂道を一生懸命下りて行くあたしを、前方を歩いていた悟浄が時折振り返りながら心配そうに見ていた。

チャンそこの石、気ィーつけ…」
「えっ…うわぁっ!

言われた所ヘタイミング良く足を置いてしまい、そのまま足を滑らせた。
転ぶ!と思って反射的に目をつぶると、何か柔らかい物に当たって痛みは全然無かった。
ゆっくりと目を開けると誰かさんの胸元に倒れこんでしまったようだ。

え〜っと、後ろにいるのが八戒だから…これは…

「間一髪セーフ…大丈夫か?」

至近距離に悟浄の顔がある。一気に鼓動が早くなり慌てて悟浄から体を離した。

「あり…がと…」

「どうイタシマシテ。立てるか?」

雨で濡れていた平らな石に足を置いた瞬間滑ってしまい、前方にいた悟浄が体を盾にしてくれてあたしが滑り落ちるのを助けてくれたのだ。
下の方へ落ちていく小石の音がかすかに耳に届き、背中を嫌な汗が流れる。



危ない…マジで危なかった。



悟浄の肩を借りて体勢を立て直すと、あたしがしっかりと立ったのを確認した悟浄はゆっくり歩き出した。
滑った恐怖からくる鼓動か、悟浄に助けられた事からくる鼓動の早さかよく分からないけど、取り敢えず深呼吸をして気持ちを落ちつかせる。
そんなあたしの様子を見たからか、後ろから来た八戒が心配そうに声をかけてくれた。

、大丈夫ですか?」

「うん平気。ゴメンねとろくって…」

「そんな事ありませんよ。ゆっくり確実が一番ですから、気にせずのんびり行きましょう。」

「うん。」

何とか下まで下りると川の音がさっきよりもはっきりと聞こえる。

「お〜い。道こっちでイイんだな?」

そう言って手を振る悟浄が立っているのは…つり橋の向こう側。

え゛っ?

「えぇ、そっちです。…?どうしました?」

つり橋…遊園地やアトラクションにあるような可愛らしい物ではない。
昨日の雨で濡れているせいか、つり橋自体がやたら古びて見える。
両脇の綱はしっかりと向こうへ繋がっているが、足元の板は所々穴が開いている上修理をした跡もある。
つり橋の下では雨で水嵩を増した川の水が勢い良く流れている。
橋の袂から見れば大自然の優雅な姿なのだが、それを渡るともなれば話は別である。
もともとこーゆー所は好きなのだが、いざ渡るとなると足が震える。

?」

八戒があたしの顔を覗きこんで再び声をかけてきた。
慌てて我に返り八戒へ何とか笑顔を向ける。

「あ、ゴメン。ちょっと見惚れちゃって…コレ渡れば良いんだよね。」

そう言って綱を掴んで足をつり橋に乗せる。
ギシッという音と共につり橋がかすかに揺れた。
ふと足元を見ると板が体重に反応して微妙に軋んでいる。
そんな事考えずにとっとと足を左右に進めれば問題ないのだが、気になってしまうと一向に進む事が出来ない。
そのまま固まってしまったあたしを向こう岸にいた悟浄が不審に思い、再びつり橋を渡ろうと戻ってきた。

「おいっ、どうした?」
「ごじょー!!こっち来ないでぇー!!」

悟浄がつり橋へ乗った瞬間、つり橋が大きく揺れた。
それ位で落ちたり壊れたりするような物なら立ち入り禁止になっているだろうが、今のあたしにそんな余裕はない。
悟浄はあたしの声に驚きつつも慌ててつり橋から下りた。
気持ちだけなら前に進もうと必死だが、足元を見てしまった今では前にも後ろにも進めない。
引きつった顔で硬直しているあたしの手を掴んだ八戒が、子供に言い聞かせるように優しく声をかけてくれた。

、ゆっくりでいいからこちらに戻って来て下さい。大丈夫、僕がいますから。」

何も言えず、それでも八戒の声に操られるかのように、もといた地面へと足を戻す事ができた。

「こ…怖い。」

「お〜い、どうするよ。どっか他のルート探すかぁ?」

つり橋の向こう側で荷物を肩から下ろし悟浄が手を振っている。
暫らく何か考えている様だった八戒が悟浄へ返事を返した。

「いえ…今、行きますから少し待っていて下さい。、ちょっと目をつぶっててもらえますか?」

「目?」

「えぇ、すぐですから。」

言われた通りに目をつぶる。
目の前にいた八戒の気配が一瞬消えたかと思うとあたしの体が急に地面から浮きあがった。

「は、八戒ぃ!?

思わず目を開けると八戒があたしをいわゆるお姫様抱っこの状態で抱き上げていた。

「大丈夫だったら、目…開けててもいいですよ。」

そう言うとさっきあたしが脱落したつり橋へ一歩、また一歩と進んで行った。
自分で渡る時は不安定な足元とその下を流れる川が怖かったけど…抱きかかえられていると視界がかなり高い事と、両脇の綱が自分の横には無い事で別の不安が沸いてくる。

「八戒、ダメ!!怖いっ怖いっ!!

小さい子供の様に震える手で八戒の洋服を掴む。
そんなあたしに八戒は宥める様、優しく言い聞かせた。

「じゃぁ両手をしっかり僕の首に回して、ギュッと掴まってて下さいね。」

言われるより先に八戒にしがみ付く。
一歩歩くたびに体が大きく揺れ、不安定な感覚を八戒にしがみ付く事で必死に耐える。
足元からつり橋のギシッギシッという音が耳に届く。
やがてその音がしなくなったのでゆっくり目を開けると、悟浄がヘンな顔であたしを見ていた。

「…ソレ…見せつけてんの?」

「ほぇ?」

「そうかもしれませんね。」

八戒に必死でしがみ付いている様はどう見てもラブラブなカップル状態。
あたしは慌てて八戒の首に回していた手を外す。

「ご、ゴメン八戒!重かったでしょ、下りる下りる!!」

「僕は別にこのままでもいいですよ。」

至近距離でにっこり笑う八戒はそれはもう綺麗で…思わず頷きかけてけど、コレ以上重い荷物を運ばせる訳にはいかない。

「下ろしてくださいぃ!!」

「はいはい」

くすくす笑いながら地面に下ろして貰ってから振り返ると、さっきまで怖くて一歩も進めなかったつり橋が、少しだけ揺れていた。

恐怖のつり橋から10分ほど歩いたら小さな東屋みたいな所があったのでそこで八戒お手製のお弁当を食べた。
そこから見る山の景色はとっても綺麗で、八戒のお弁当はいつも以上に美味しくて…今までの疲れが吹っ飛んでしまうようだった。

「良くこんなトコ知ってたな。」

「この間、町内の奥さん達にお伺いしたんです。紅葉狩りするのにいい場所はありますかって…その時に教えていただいたんですよ。」

「人付き合いって大切だねぇ。」

「そうですね。」

のんびりお茶を飲むあたしと八戒に悟浄がツッコミを入れる。

「いや…そうだけど…そういう問題じゃねーだろ?」

「いいじゃないですか。綺麗な景色と美味しいご飯…他に何がいるんです?」

「そこだよ、そこ!!八戒…酒は?」

悟浄が荷物の入っていたバスケットを開けその中を叩く。
ぎっしり詰まっていたお弁当やお茶、お菓子を出した今ではすっきり空になっている。

「ありませんよ。」

手にしていた水筒のコップを机に置きながら悟浄に向かってにっこり微笑んだ。

「あンでよ!」

「運転する人がお酒を飲んでどうするんですか?飲酒運転は犯罪ですよ?」

「帰りの運転オレかぁ!?」

「僕、朝からずーっと準備してましたよね。その間、悟浄…何してました?」

「何って…その…チャンと…」

はジープと一緒に遊んでましたよね?」

うわぁ…悟浄このままじゃ帰りの運転手決定だ!どうするんだろう!?
はらはらしながらも隣にいるジープにせがまれ、卵焼きをあげるあたし。

「わーったよ!運転すりゃいいんだろ!」

「お願いしますね。」



あ、悟浄負けた。










ジープでかなり山の上まで来たので下の方は遥か彼方まで赤と黄色とオレンジの絨毯が広がっている。
上を見上げると紅葉が綺麗な赤い小さな手を揺らしながらあたし達の目を楽しませくれている。

「ちょっと水を汲みに行ってきますね。この山の涌き水、結構美味しいんですよ。」

これもきっと御近所井戸端会議で仕入れたネタなんだろうなぁ。
あらかじめ用意してあった大きめのタンクを持って八戒はジープと共に先に見える小さな滝へと向かっていった。
あたしと悟浄は八戒が水を汲み、ジープがその脇で水を飲んでいる姿を座ったまま眺めていた。

チャンってさ、高いトコ苦手なの?」

「うーん…好きではない…かな。足場がしっかりしてればさっきくらいのつり橋も渡れるんだけど、安定感が無いとちょっと…進むのも怖い。でもあーゆーの嫌いじゃないんだよ!」

「ふーん。じゃあさ…」

悟浄に手招きされ頭に?マークを浮かべながらも顔を近づける。
急に肩を掴まれ、体勢を崩したあたしは悟浄の肩口へと倒れこむ形となった。

「帰りはオレが抱いて行ってやるよ。」

耳元で囁かれた時のあたしの顔はきっとどの紅葉よりも真っ赤に染まっていたに違いない。
慌てて悟浄から離れると、いつの間にか水を汲み終わった八戒が後ろに立っていた。

「帰りも僕がきちんと抱いて行ってあげますから安心して下さいね。」



こんな幸せな状態…いつまで続くんだろう。



そんな事を思いながらも、帰りのつり橋は八戒、悟浄どちらに連れて行ってもらおうかなぁなんて幸せな悩みを抱えるあたしだった。





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うっひゃぁ〜!!今はもうこんな話書けません(言い切りやがった(汗))
初々しい感じの3人ですよね。多分これ書いたの、サイト開設してすぐ旅行に行った後ですよ。
秋にUPしようとして、ずっと…放置されてたんですね(苦笑)
今と雰囲気が全然違う話ですが、まだ見れる話だったので勿体無いオバケが出ないようUPさせて頂きました。
下記はこれを書いた当時のコメント…みたいです(笑)

旅行でつり橋を渡ったんだけど…怖かった!
雨の所為で板は古く見えるし、所々新しい板で修繕してあるし、間は開いてるし(ちょっとだけ)
揺れるし!足もとの川は流れ速いしでかい岩あるし!
それでも渡って見たかったから渡ったんだけど、最後の1メートルくらいはわーっと目をつぶって走りたい気分でした。
他の子に「あの岩の形変わってて面白いね」と言われたけど…見る余裕ありませんでした。
安全な場所(地面の上)からちらりと見たら変わった岩でした。
とにかく怖かったんです!!
でも抱かれて渡るの方が…怖いですよね(苦笑)
それでも書きたかったんです!