「・・・おい、何をしている。」
「・・・三蔵。」
「部屋から気配が消えたから帰ったと思えば・・・」
「探しに来てくれたの?」
「ふん・・・たまたまだ。」
不意に妙な気配を感じて目覚めれば、部屋の中からの気配が消えていた。
不審に思って気配を辿ってたどり着いたのが・・・なんだってこの部屋なんだ。
「ゴメンね三蔵。ちょっとお手洗いに行った時、この部屋から物音がしたから・・・」
――― 気になって勝手に入っちゃった。
そう言うの表情は普段と何も変わらない・・・が、妙な違和感を感じる。
「でもさ・・・迎えに来てくれたのが三蔵で嬉しいな。」
「・・・そうか。」
「うん!・・・って、さ・・・三蔵ぉ?」
俺は懐に手をいれると無言で昇霊銃をに向けた。
「やだ・・・三蔵ってば、何してるの?」
「あいつに何をした。」
「え?」
驚愕の眼差しで俺を見つめるが、やはり違う。
俺は無言で昇霊銃を一発の足元に向けて撃った。
「きゃぁっ!」
「をどうしたのかと言っている。」
耳を両手で塞ぎながら涙を浮かべてこっちを見ているが悲痛な声で叫ぶ。
いつもならばどんな小さな声でも俺の耳に届くはずの声が・・・今は聞こえない。
「何言ってるの三蔵!私、だよ!!」
「・・・馬鹿か、てめぇは。」
照準をの眉間に合わせて、唇の端を微かにあげる。
――― アイツの声が、聞こえない ―――
「さん・・・ぞう?」
「次は外さん。言え・・・本物のをどうした。」
すると涙を浮かべて今にも泣きそうな顔をしていたが、まるで別人のような笑みを浮かべ目元の涙を拭うとまっすぐ俺へ視線を向けた。
「別に撃っても構わないけど、死ぬのは私じゃないわ。」
「・・・どう言う事だ。」
「銃をしまってくれたら・・・話してあげる。」
「お前が事実を話す証拠でもあるのか。」
何かを企むような・・・あいつには不似合いな笑みを浮かべながら、そいつは楽しそうに笑い出した。
「ふふふっ・・・もちろん事実を話すわ。だって私にはこの子の体が必要なんだもの。」
両手で自分の体を抱きしめる姿を見て、俺は小さく舌打ちをしてから銃をおろした。
「・・・これでいいか。」
「そうね、出来れば見えない所にしまって欲しいけど・・・それでいいわ。」
何もかもが違いすぎる。
かもし出す雰囲気も、言動も、仕草も。
だがその外見だけはいつものあいつ・・・のまま。
「貴方が探している本物のは・・・あそこ。」
ある意味予想していた場所ではあったが、実際にそれを目にするまでは信じられなかった。
の姿をした女が示したのは、この寺には不似合いな装飾のついた大きな鏡。
そこには俺の隣に立っているはずのヤツ・・・が映っていない。
「まさか・・・」
「あら?ひょっとして貴方・・・私を知っているの?」
眠る前に寺院に預けられたという鏡の話。
が妙に怯えていたから・・・気休めにでもなればと部屋の扉に札を貼った。
俺が気配を感じ目覚めた時には既に外側から剥がされたような形になっていた。
――― だからここに来た。
「知っているのなら話が早いわ。私の名前は李荊藍(リ ケイラン)ある人から貰ったある物を探しているの。それが見つかればこの体はあの子に返してあげる。」
「・・・ほぉ、俺と取引しようってのか。」
「えぇ、そのとおりよ。」
「俺がお前を祓うって事は考えてねぇみたいだな。」
「えぇ。だってそうすればこの子がどうなるか・・・貴方が一番良く分かってるんじゃない?」
ニッコリ微笑むその笑顔からいつものような温かさは全く感じられない。
まるで氷のように冷たい、あいつには不似合いな笑み。
「何が望みだ。」
「私が馮祁(ヒョウキ)から貰った指輪を探して!」
「あぁ?」
「真ん中に大きな紫の石が埋め込まれてるちょっと古い感じの指輪。それ以外の事は貴方の方が詳しいんじゃないの?玄奘三蔵法師サマ。」
ワザとらしい嫌味な言い方に今すぐにでも祓ってしまいたい気分に駆られた・・・が、コイツの言うとおり無理に祓えばその反動が返るのは霊体ではなく本体のの方だ。本体に異常があれば精神だけになっているあいつがどうなるか分からない。
「・・・期限は。」
こめかみを押さえながらぼそりと呟いた一言を聞いて、の姿をした女の声が一段と明るくなった。
「大体3日って所かしら。」
・・・3日、だと?
たった今聞いたばかりの情報を元に、探し出すなんて殆ど不可能に近いじゃねぇか!
「私がこの体を動かせるのは夜の間だけで勿論食事なんて出来ない。・・・そんな状態の体に魂だけになっているあの子が戻るにはどう考えても3日が限界ね。」
「・・・あいつは無事なんだな?」
最後に確認するようにの姿を借りた女の手を掴んでその目をじっと睨めば、微かに微笑みながら呟いた。
「貴方が馮祁の指輪を見つけてくれればすぐにこの体は・・・返して・・・あげる・・・」
そう言うと同時にの体から一気に力が抜けて、糸が切れた人形のように俺が掴んでいた手以外、床に崩れてしまった。
「・・・おい。」
手を離して床に崩れたの肩を揺すっても返事が無い。
その代わり規則正しい小さな寝息が聞こえてきた。
寝顔はここへ来る間、ジープで眠っていた時のとなんら変わりは無い。
彼女の体をそのままその場に横たえて、俺がここへ来た理由でもある鏡の前に立つ。
「・・・。」
口の中で呟くように名前を呼ぶ。
いつもならすぐに顔を上げて返事をする明るい声が・・・聞こえない。
女が狙われていると言う事が分かった時点で・・・帰すべきだった。
例え悟浄と一緒だとは言えこんな命に関わる危険は無かったはずだ。
それをしなかった自分に今回の非はある。
「・・・俺が来るまでそこで待ってろ。すぐに出してやる。」
鏡に背をつけ、まるで何事も無かったかのように声をかける。
それで少しでもこの中にいるが落ち着けば・・・と思った。
だが、取り出したタバコを口に運ぶ手が僅かに震えているのは・・・何故だ。
あいつが消えた。その事に自分がこんなにも衝撃を受けるとは・・・思ってもみなかった。
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三蔵バージョン!
以前からこの部分が軸となって雨夜の月が出来たと言っていたので、折角ですから書いてみました。
三蔵は相変わらず動いてくれない人でしたが、個人的に最後のシーンがお気に入りv
鏡の前で普通にしてるのに実は微かに手が震えてる三蔵(笑)
(でも何気に偽物と言い切って銃をぶっ放す三蔵も好きですけどね♪)
でも相変わらず口調がたまに分からなくなってしまうので、一番苦労しました(汗)