「八戒!!」
無理とは分かっていても自分の存在を知らせようと鏡を両手でガンガン叩く。
「!どうしてこんな所に・・・」
「・・・八戒。」
ってどうして荊藍は八戒の名前知ってるんだ?
あたし八戒の名前言ったっけ!?いや・・・言った覚えないけど、あたしの体が記憶してるからその中から言葉を選んでるのか!?
「向こうに戻ったのかと思ったんですけど妙な胸騒ぎを感じて探しに来たら・・・こんな所に一人でいて・・・」
「ゴメンね八戒。ちょっとお手洗いに行ってたんだ。」
「違うよ八戒!その人はあたしだけど『あたし』じゃない!!」
でもそれをどうやって知らせればいいかあたしには分からない。
鏡の向こうの八戒は少し困った顔をしながら手にしていた上着をいつも気遣うように『あたし』の肩にかけている。
普段なら喜ぶその行為も、今は寂しいだけ・・・。
「どうすればいいの・・・」
肩を落としていたあたしの耳に、八戒の鋭い声が届いた。
「貴方はどなたですか?」
パッと顔をあげて鏡の向こうを見ると、八戒が初めて見せるような怖い顔で『あたし』の腕をぎゅっと掴んでる。
「例え他の誰が貴方の事をだと言っても僕には違うと言い切る事が出来ます。」
「・・・気付いて・・・くれたの?」
あたし自身ですらわからない。
だって鏡の向こうにいて、今八戒と喋っている体は確かにあたしだから。
でも・・・それでも違うって気付いてくれた。
八戒はそのまま荊藍に手の平の気を向けながら、話を続ける。
「本物のは何処にいるんです。」
荊藍はクスクス笑いながら八戒の手の気を消させると、急に此方を指差した。
驚いた顔をした八戒と一瞬目が合い、あたしの姿が見えたのかと思って再び鏡を叩いた。
「が・・・映っていない?」
「そう、だってあたしはじゃないから・・・本物のはあの鏡の中にいるわ。」
「まさか・・・貴女は・・・」
「知っているのなら話が早いわ。私の名前は李荊藍、ある人から貰ったある物を探しているの。それが見つかれば速やかにこの体はあの子に返してあげる。その代わり見つからない限りあたしはこの体から出ては行かない。」
「・・・取引と言うわけですか。」
「そう取ってくれても構わないわ。どうしても私はあれを見つけなきゃいけないの!」
「は・・・無事なんですね?」
「今の所はね。」
「今の所?」
「今の所ってどういう事?あたし・・・何も聞いてないよ。」
荊藍があたしの体を取ったと言う事の意味が嫌でも分かってくるこの空気が嫌で、首を左右に振って気分を切り替える。
「私がこの体を動かせるのは夜の間だけ、勿論食事なんて取る事が出来ない・・・って事はどうなるか分かるでしょう?」
「時間がかかればかかるだけ・・・の体が衰弱してしまう、という事ですか?」
「当たり。ついでに言えばこの鏡の中にいるって子の魂も弱ってきちゃうだろうから・・・この体に入った感じからして大体3日が限度って所かしら?」
「3日・・・。」
「み、3・・・日・・・」
それ以上立てばあたしは・・・どうなってしまうんだろう。
鏡の向こうでは荊藍が八戒と何か話をしているみたいだけど、今のあたしの耳には二人の声が凄く遠くて良く聞こえない。頭をめぐっているのはただ一言。
・・・どうしよう。ただこの一言だけ・・・。
ふと目の前が暗くなったように感じて、顔をあげるとそこに・・・八戒がいた。
「?そこにいるんですか?」
問いかける声はいつもと同じ、優しい声。
でもその表情は今までに見た事が無いくらい憔悴していて・・・あたしは無意識に鏡に置かれている八戒の手に自分の手を重ねた。
前は簡単に触れる事が出来た・・・温もりを感じる事が出来たはずの手が、今は冷たいガラスの感触しか伝わらない。
「ここに・・・いるよ、ここにいるの・・・八戒。」
此方の姿が見えないのは、八戒の視線がずれている事から良く分かる。
見えているのであれば八戒はいつもあたしの目を見て話をしてくれるから・・・。
「必ず僕が助けます。だから僕を信じて待っていて下さい。」
そう言って笑ってくれた八戒の笑顔はいつもと違ってちょっとぎこちなく感じたけれど、あたしの心に小さな灯りを灯してくれた。
ポッと音を立ててついた明かりはあたしの涙を止めてくれた。
「・・・八戒を、信じて待ってるよ。」
見えるはずも無い八戒に、あたしは一生懸命笑顔を作って微笑んだ。
八戒の胸にもあたしと同じ灯りが灯る事を祈って・・・。
ブラウザを閉じてお戻り下さい。
はい〜♪鏡の裏です(笑)
鏡の向こうであんな事やってる時、鏡の裏はこんな状態だったみたいですね(笑)
いや〜こっちも色々あって大変みたい・・・って書いてるの自分なんだけど。
向こうの声と姿が見えるだけでこっちからは何も出来ないって言うのはかなりはがゆいとおもうんですよね。
しかも曖昧な事しか言われてないし・・・。
さて、次、鏡の裏になるのはどこかしら?