「あーっダメじゃん、一人でこんなとこいちゃ!」

「・・・悟空。」

「起きたらいないから・・・俺向こう帰ったのかと思ったよ。」

「ゴメン、心配させちゃった?」



・・・あれ?何か・・・おかしい。



「寒いからそろそろ戻ろうか、悟空。」

いつもみたいにが笑ってるのに、なのに俺・・・全然嬉しくない。

「・・・お前、誰?」

「え?」

俺の手を掴んで歩き出そうとしたの手をよけてじぃーっと目を見つめる。
驚いた顔でが俺を見てるけど・・・やっぱり違う。

「なぁ、何処?」

「何言ってるの、悟空?」

「だって俺、お前の事なんて知らない。」

キッパリ言いながら今度は俺の方からの手を掴む。
いつもならすっごくドキドキするはずだけど、今は何か背筋がぞくぞくする感じがする。

「私だよ、悟空!」



――― 違う!!



は自分の事『私』なんて言わねぇ!」

「・・・っ!痛いよ悟空、手を離して・・・」

今この手を離しちゃいけない、絶対。
の顔が痛そうに歪んでるけど、でも・・・これはじゃないから。

「お前なんか全然じゃない!を何処にやったんだよ!!」

真っ暗な部屋の中に俺の声だけが響く。
それが何だか今の自分の心ん中みたいで、スッゲー嫌だった。





部屋ん中が静かになったら、突然の笑い声が響き始めた。
いつもみたいに楽しそうな笑い方じゃない・・・何か、すっげー嫌な笑い方。

「子供のクセに結構力、強いのね。」

「・・・」

「ねぇ、悟空。手が痛いわ・・・離して。」

「やだ。」



早く三蔵の所、連れてかなきゃ・・・絶対に何かあったんだ。



ぐいぐい手を引っ張って歩こうとしたら、いつもみたいなの声に思わず足を止める。

「離してくれれば・・・この子の事、教えてあげるわよ?」

「え?」

「知りたいでしょう?」

こんな笑い方するヤツの言う事なんて聞いちゃダメだって思うけど、でも・・・黙って立ってる姿はいつもののまんま。
俺が迷ってるのに気付いたのか、が掴んでいた手を指差した。

「手、離して・・・」

「・・・分かった。そんかわりのいるとこ教えろよ!」

逃げたらまた捕まえればいい。
そう思って手を離すとの顔をしたソイツは手首を撫でながらチラリと視線を前に向けた。

「貴方の探している本物のは・・・」

そう言いながら伸ばされた指先に視線を向けると、そこにはすっげーでっかい鏡が置いてあった。

「あ・・・あれれ!?」

鏡に映ってるのは俺だけ、慌てて隣を見るとニコニコ手を振るがいる。
もう一回鏡を見ても・・・映ってるのは俺だけ。

「うぇぇー!?」

頭を抱えて鏡とを見比べている時、不意に寝る前三蔵が話していた事を思い出した。





このお寺に預けられた鏡の話。
その鏡に映った女の人が毎晩変な行動を起こす・・・あの話を・・・。





「もしかして・・・」

「あら?ひょっとして私の事知ってるの?」

呆然との姿をしたヤツを見ていたら、そいつが小さく息を吸って一気に喋りだした。

「私の名前は李荊藍(リ ケイラン)ある人から貰ったある物を探してるの。」

「ある物?」

「そう、私が馮祁(ヒョウキ)から貰った指輪を探して!」

必死に何かを訴えるコイツからウソは感じられない。
それに、何か辛そうな顔をしてるの姿を見てるみたいで・・・何か胸が痛い。

「それどんなヤツ?」

「真ん中に大きな黄色の石が埋め込まれてるちょっと古い感じの指輪。詳しい事はここのお寺の人が知ってるからその人に聞いて頂戴。」

「うん。」

言われた事を一生懸命覚えようとブツブツ言っててふと思った事を聞いてみる。

「・・・それ見つけたら、返してくれるのか?」

「勿論。」

「そっか・・・分かった!」

「3日以内にね。」

「3日ぁ!?」

「そう・・・それ以上時間がかかると、この子の体はもたない。その意味分かる?」

良く分かんない・・・分かんないけど、やな予感がする。

噛み付くような視線で睨むと、そいつは口元をちょっとだけ緩ませて感情のない声で教えてくれた。



とは似ても似つかない・・・顔をしながら。




「私がこの体を動かせるのは夜の間だけで勿論食事なんて出来ない。」

「えっ、メシ食えねぇのっ!?」

思わず大声を出すと、それを見てちょっとだけソイツが・・・みたいに笑った気がした。

「・・・ご飯を食べなきゃ元気が出ない。そんな体にあの子が戻っても・・・大変でしょう?」

「うん!」

「だから、3日が限度なの。」

「・・・そっか。」

考え込むように俯くと、急に肩をつかまれて前後に揺さぶられた。

「だから早く探して!私が馮祁から貰った・・・指輪・・・を・・・」

「うわぁっ!」

肩を掴んでいたが急に俺に向かって倒れてきたから、慌ててその体を受け止める。
でも支える事が出来なくてそのまま一緒に床に倒れた。

「あっぶねぇー・・・」

クッション代わりにと床の間に挟まってを受け止める。
・・・俺の腕の中で眠ってるのはついさっき、寝る前にちょっとだけ見たの寝顔そのままだった。



でも・・・外だけじゃなくて中もじゃなきゃ、嫌なんだ。



そっとの体を床に寝かせると、俺はゆっくり自分の姿だけ映ってる鏡の前に立った。

「・・・?」

鏡に手を置いて首を傾げる。

ヘンだな・・・俺。
鏡だから自分が映ってるはずなのに、今の俺には・・・俺の顔の代わりにの顔が映って見えるや。

「待ってて・・・俺、絶対助けるから。絶対・・・何があっても・・・」

上手く笑えてるかわかんないけど、が俺の笑顔見ると暖かくなるって言ってたから・・・一生懸命笑った。
両手を後ろに回してから見えないようギュッと手を握り締める。
ちょっと食い込んだ爪が痛かったけど、それでもがここにいないより全然マシ。





心にポッカリ開いた穴、が戻れば埋まるかな・・・





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悟空バージョン!
以前からこの部分が軸となって雨夜の月が出来たと言っていたので、折角ですから書いてみました。
悟空は一番想いが純粋なイメージがあるせいでしょうか・・・思ってる事や考えている事が書いてて痛かった(TT)
ヒロインがいなくなってしまった事がこの場で一番堪えているのが悟空だと思います。
・・・コメントに困るほど、随所で悟空の想いが刺さるようで書くの辛かったです。