空に浮かぶ月。
真っ暗な闇の中、ただひとり・・・ぽつんと浮かんでる。
「・・・寂しく、ないのかな。」
そう思うのは、今自分がひとりでいるから・・・なのかもしれない。
少し戻れば皆の待ってる家がある。
――― 明るい光、温かな空気、優しい声
でも今は、真っ暗な森の中にただ一人。
見えるのは風で時折揺れる木々と、空に浮かんでる大きな丸い月だけ・・・
「・・・」
「・・・」
不意に誰かの気配を感じた。
でも、振り向かず空を見上げたままじっとしている。
「・・・」
気配がだんだん近づいてくる。
そこに恐怖なんて感じない。
真っ暗闇の中、自分に近づいてくる気配は・・・どこか安心できるモノだと知っているから。
パサリと頭の上に置かれたのは、あたしが愛用しているひざ掛け。
そしてそこから香る僅かな煙草の香り・・・これは、マルボロ?
「三蔵?」
頭に乗せられたひざ掛けを手で避けて隣を見ると、三蔵が空を見上げて立っていた。
「・・・」
「皆は?」
「・・・さぁな。」
「そっか・・・」
それ以上何も聞かず、あたしは本来の目的に使うべくひざ掛けを足に乗せた。
柔らかな生地が肌に気持ちいい。
徐々に膝が温まる事から、初めて自分の体が冷えていた事に気付いた。
切り株に座ったあたしの隣に立っている三蔵は何も言わず、ただ、あたしと同じように空を見上げている。
だからあたしも何も言わず、さっきまでと同じように空を・・・月を見上げた。
「ねぇ、三蔵。」
「・・・なんだ。」
「月ってひとりで寂しくないのかな。」
真っ暗闇の中、空にひとりで輝いている月。
その輝きが眩しいほど、その寂しさが際立って見えてしまう。
「こんなに真っ暗闇で、自分だけ輝いてて・・・側に誰もいなくて、寂しくないのかな。」
ひざ掛けごと膝を抱えて、ポツリポツリと呟く。
暫く沈黙が続いたが、やがて三蔵の声が耳に届いた。
「・・・誰もいないわけじゃねぇだろう。」
「え?」
三蔵の答えに驚いて、ゆっくり視線を月から三蔵へと移動させる。
まるで月が地上に舞い降りたかのように神々しく光る、金糸の髪。
その輝きに圧倒され、思わず目を細めると・・・三蔵が僅かに口元を緩め、まるであたしを包み込むような声で、こう言った。
「てめぇがいるだろう。」
「・・・」
「バカみたいに自分を見てるヤツが少なくとも一人はいる。人間の周りには同じヤツがいっぱいいるが、隣のヤツの事なんざ逆に無関心だ。だが、どんなに距離が離れていようと・・・、お前のように見ていてくれるヤツがいれば充分だろう。」
「三蔵・・・」
「同じ立場に立っていなければいけないわけじゃねぇだろう。」
「・・・そう、だね。」
「・・・」
そう言うと三蔵は懐から煙草を取り出し、ゆっくりとした足取りであたしの左側へ移動した。
何で移動するのかな?って思ったけど、その理由は三蔵が煙草に火をつけた瞬間明らかになった。
――― 煙草の煙が・・・左に流れていく
微かに吹いた風に乗って、マルボロの煙はあたしのいる場所とは反対に流れていく。
そんなさり気ない気遣いが嬉しくて、思わずくすくすと笑みが零れてしまった。
「・・・何、笑ってやがる。」
「・・・三蔵が優しいなぁって思ったら嬉しくて・・・」
「あぁ?」
「・・・あたし、幸せだなって・・・」
「ふっ・・・何馬鹿な事言ってやがる。」
そう言いながら、あたしの頭に乗せられた手は優しく頭を撫でてくれる。
それが凄く気持ちよくて目を閉じれば、何故か涙が一粒零れた。
「・・・気が済んだら帰るぞ。」
「うん。」
たったひとりでいた森の中。
舞い降りてきた月の光は、優しくあたしを包んでくれた。
たった一人に見えたお月様。
だけど、すぐ側に貴方を見ている人が必ずいるから。
いつか必ず・・・その手に触れられる事、覚えていてね。
距離じゃなく、相手を想う気持ちが一番大切だと知った夜。
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悟浄と八戒で月話を書いたので、折角だから三蔵も・・・と思って書き始めたら何だか違う方向へ進んでしまいました(苦笑)
って言うか、これをうたた寝に置くか、別部屋へ置くかで数日間悩みました。
でも折角タイトルも『月』で揃えたし、シチュエーションも同じだから・・・うたた寝に並べてみました。
まぁ視点がヒロインっていうのが他の二人と既に違う所ですが、何故こんな風に大幅に内容が違うか・・・と言うのは・・・(周囲を見渡す)
三蔵にとってうたた寝ヒロインがまだ気にかかる存在、と言うだけで落ちてないからなんですよね(超小声)
悟浄と八戒は既に落ちてるので(笑)消えてしまう不安とか、取られたくない思い、とかあるんですよ。
でもねぇ、私の中の三蔵はまだそこまでうたた寝ヒロインと親密じゃないのです。
は〜・・・言ったらすっきりし・・・
スパーーーーン!!!
あいたっ!ど、何処からかハリセンが飛んできた!?
ズキューン!!
うわわっじゅ、銃弾!?
これ以上喋ると私がヤバイので、これで月シリーズは終了です!!
(どうやら何処かで三蔵が聞いてたらしい(笑))
※孤月・・・ものさびしげに見える月