「八戒!見て!満月!!」
まるで幼い子供のように、瞳を輝かせて空を見上げる彼女。
「すっごい綺麗!」
「そうですね。」
穏やかに微笑みながら、楽しそうに笑う彼女を見つめる。
「あたしね、月って大好き!」
屈託もなく笑う、そんな貴女を独り占めしているこの一瞬が、僕の心をとても暖かなものにする。
「は月や星といった自然が好きですね。」
「うん!」
大きく頷くと両手を月に向かってまっすぐ伸ばした。
まるでその手に月が降りてくるかのような錯覚。
「夜って、周りの音が無くなって凄く静かになるでしょ?でもね、お月様だけは、何があってもそこにいて、見ててくれるの。」
――― 全てが夜の暗闇に隠れても、全てを照らしてしまう・・・月
「だから、寂しくて空を見上げるといつでもそこにお月様がある事に妙に安心感覚えたんだ。」
「・・・寂しいんですか?」
「ん〜・・・小さい頃ね。今はそんな事全然ないよ。」
月に伸ばしていた手を下ろし、くるりと振り向いた彼女の瞳に・・・僕が映る。
「今は八戒がいてくれるもの。」
「・・・」
――― すべてを照らし出す月が、僕はずっと怖かった。
「ね、八戒は月と太陽どっちが好き?」
――― 何もかも、隠してしまいたいのに・・・太陽は焼けるように熱く照らし出し、月は穏やかな光で全てを映し出す。
「・・・八戒?」
「僕は・・・」
「うん?」
まるで何かご褒美を貰う前の子供のように無垢な表情で僕を見上げる貴女は、今の僕にとって何よりも大切な・・・女性
「・・・僕は・・・」
いつものように笑みを浮かべ、の顔を見ようと顔を上げた瞬間・・・月の光に彼女が飲まれる感覚に襲われ、思わず彼女の肩を抱き寄せこの腕に閉じ込めた。
「はっ、八戒!?」
「・・・」
驚きで硬直する体を抱く僕の手が、僅かに震えている。
こんなにも、貴女を失う事におびえている自分は・・・初めてだ。
それから視線を上げて、悪びれもせず空に浮いている月を一度だけ睨む。
――― 渡さない
「八戒ってば!」
「僕は・・・月も太陽もあまり好きじゃありません。」
「え?」
「・・・それよりも眩しい光が、今の僕が一番好きな物ですよ。」
「月と太陽よりも眩しいもの?」
「えぇ。」
僕の問いが頭に引っかかって、今の状況がまだ飲み込めていないの肩を抱いて、ゆっくり家路へと向かう。
月よりも太陽よりも、表情をくるくる変えて、喜怒哀楽を体中で表現している貴女が・・・僕には眩しくてしょうがありません。
照らす光で貴女の姿を消してしまう、月も、太陽も・・・必要ない。
「ねぇ、八戒!答えは!?」
「さぁ、何でしょう?頑張って考えて下さいね。」
「もぉ〜っ八戒の意地悪!!」
頬を膨らませて拗ねた顔も可愛らしいですよ。
家の扉を先に開けて、彼女を中へ導く。
そしてその後に続き、扉を閉める直前・・・背後を照らす月をもう一度見上げる。
――― 渡しませんから、絶対に・・・
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以前、web拍手で使った小話に多少手を加えて再登場させてみました。
暗い話だよなぁ、と思いながらも、その雰囲気がお気に入りだったのと、意外に好評だったのに気を良くしたのは内緒ですw
こちらも八戒がすっかり彼女に惚れちゃってる話ですね(笑)
悟浄と違うのは、珍しく八戒が好戦的だという所・・・かな。
ちなみに八戒のこの話のイメージは埋葬編の悟浄、八戒の章で月をバックに目を閉じている二人です。
(バレバレだと思いますが(苦笑))
なんとなぁ〜く、八戒って太陽も月も『好き』じゃないかなぁと思ったんですよね。
全てを明るみにさらけ出してしまうから。
西域へ旅立ってる今の八戒ならそんなもん何とも思ってないかもしれないけど、3年前の今だからこそ・・・好きじゃないんじゃないかなぁって。
ま、私の勝手な憶測ですけどね。
暗闇で彼女を隠してしまいたいのに、それすらも照らしてしまう月に・・・嫉妬してます(笑)
考えてみれば珍しい八戒かもしれませんね、ここまであからさまに自分の意思に忠実に動くのも。
取り敢えず、最後に月を睨む八戒が皆様の脳裏に浮かべば私的には大成功と言える話ですw
幻月・・・月暈とおなじ状況で、月の両側の同じ高さの位置に明るく輝くスポットが現れる事。
これが幻月です。さり気に悟浄と対にしてみました(笑)こちらも光の屈折による現象です。