それから数日後、急に風が冷たくなって八戒が洋服の衣替えを始めた。
それと同時期くらいにようやくマフラーが出来上がった。
出来上がったマフラーは、若干デザインが違うけど同じ色の物。

2人が居間にいるのを見計らって、後ろ手にマフラーを隠して2人に近づく。
悟浄は新聞を見ながらまた何かのパズルに熱中しているのか、眉間に皺が寄っている。
八戒は本を読みながら、膝に乗っているジープの背中をゆっくり撫でている。
ごくりとつばを飲み込んで、柄にもなく緊張しながら2人に声をかける。

「八戒、悟浄。今ちょっと大丈夫?」

「はい。」
「あぁ?」

あたしの声を聞いて2人が同時に振り返った。
喜んで・・・くれるかな、受け取ってくれるかな。
そんなドキドキしているあたしの気も知らず、いつものように話をする2人。

「よーやく部屋から出てきたか、ヤローと2人で茶なんざもうゴメンだぜ。」

「やっぱりがいないとお茶の美味しさも半減してしまいますね。」

「今日からはまた一緒にお茶飲もうねv」

にっこり笑って2人に一歩近づくと、両手に持っていたマフラーを同時に2人の肩に乗せた。

「え?」
「あ?」

「・・・冬には間に合った?」

本当だったら一人一人ちゃんと首にかけてあげたかったんだけど、何となく2人同時にあげたかったから・・・肩に乗せちゃった。
それをビックリした表情で2人がゆっくり手にとって眺めている。
八戒のマフラーに関しては、机に乗せられたジープも不思議そうな顔をしてみてる。

「もしかして・・・ここ数日部屋にこもってたのは・・・」

「コレ・・・作ってたのか?」

「あー・・・うん。本当はもっと早く渡す予定だったんだけど、中々時間取れなくてこんな遅くなっちゃった。」

・・・ん?何で2人ともマフラー手に持ったまま固まってるんだ?
まっまさか!編み目が飛んでるのを誤魔化したのがばれた!?
それとも妙に雑な作りに溜息つく直前!?それともそれとも・・・。

どんどん悪い方向へ考えるあたしのクセは、この家では直した方がいいかもしれない。
オロオロしているあたしを落ち着かせるかのように、気付けばあたしは2人に抱きしめられていた。

「・・・嬉しいです。とても。」

「オレも・・・」

左右から2人の声が聞こえて、あたしの方が嬉しくて倒れてしまいそうになる。
やっぱり頑張って良かったなって思える瞬間。

「ね、2人ともそれつけてみて!もし長さが短かったりしたら足すし、長かったら調節するから。」

腕の中から顔を上げて交互に顔を見れば、2人とも笑顔で頷いてくれる。
すぐにマフラーを広げて首に回すと、八戒は嬉しそうに、悟浄は自慢げにあたしに見せてくれた。

「どうですか?」
「どーよ!」

2人とも身長差はほとんどないから同じ長さで編んだんだけど・・・うん、大丈夫みたい。

「もう少し長い方が良かった?」

「いいえ、これ位がちょうどいいですよ。それに僕と悟浄の微妙に柄が違うなんて凝ってますね。」

さすが八戒、見る所見てるなぁ。
そう思いながら八戒のマフラーの端っこを持って悟浄のマフラーと違う部分を示した。

「うん。まったく同じだとペアみたいになっちゃって嫌かなぁと思って少しだけ変えてみた。色は同じなんだけどね。」

「あははは、とペアなら嬉しいんですけどね。」

「そりゃオレの台詞だ。」

「悟浄はどう?夜出掛ける時に使えそう?」

「んなトコ持ってったらすぐに盗られちまうよ、こんな上物v」

マフラーの端を掴んでニッと笑う悟浄は、やけに上機嫌。

「でも寒い時に使う物だよ?もし盗られたらまた作るから・・・」

「こんな大変なモン、そうそう作らせられねェよ。」

「そうですよ悟浄、貴方が風邪をひいてもこのマフラーだけは失くさないで下さいね。」

・・・八戒、それマフラーの使用目的とずれてる気がするんだけど。
元々マフラーは防寒具で人が風邪をひかない為にする物でしょ!?



あたし・・・間違った物を渡してしまっただろうか。



「とにかくサンキュv」

ポンポンとあたしの頭を軽く叩いて悟浄は部屋に向かってしまった。
もうちょっとマフラーの感想聞きたかったのになぁって思いながら後姿を見送っていたら、八戒に肩を叩かれた。

「悟浄は照れてるんですよ。」

「照れてる?」

「こう言う物、貰うタイプに見えますか?」

・・・見えない、否こう言う気持ちのこもった物はうっとおしがって受け取らないタイプかも!まさか!

「ひょっとして実はイヤ!?」

「そんな事ありませんよ。嫌だったらあんなに笑顔で受け取るはずないじゃないですか。」

「でも・・・」

「僕と同じで、悟浄にとってもは特別な人になってるんですよ。」



・・・え?



「とく・・・べつ?」

「えぇ、そうです。」

八戒があたしの目の前にしゃがむと両手を包むようにして手を重ねた。

「悟浄は今まで一人で暮らしていて、僕と一緒に暮らしてくれるって時も周りの人は驚いていたみたいですよ。」

初めて八戒が教えてくれる・・・2人の同居生活の始まり。

「最初はお互いの時間を同じ家で過ごすって感じだったんですけど、だんだん一緒にいる時間・・・まぁ食事をしたりお茶を飲んだりそれくらいですけど、増えてきたんです。」

「・・・へぇ。」

「そこへ悟浄が貴女を連れてきたんですよ、。」

「ほぇ・・・」

そ、そんなっ!そんな大事な時期を邪魔しに来てしまったのか、あたしっ!!

のおかげで、僕は今まで知らなかった悟浄を知る事が出来ました。」

「・・・」

ベッドの下にいけない本を隠すとか、案外料理上手だったとか、意外に子供っぽいとか・・・」

「・・・正面からの愛情を受け取り慣れてない、とか?」

伺うように八戒の顔を覗き込めば、苦笑しながら頷いた。

「そう言った僕一人では知る事が出来なかった悟浄を知る事が出来たのは、やはりが悟浄にとって特別な人だからだと思います。」

・・・そう、なのかなぁ?
ちょっと首を傾げていたら、八戒がギュッと手を握り返してきたので慌てて視線を元に戻す。

「お礼が遅くなってしまいましたね、マフラー本当にありがとうございます。」

「そっそんなっ!」

改めてお礼を言われるとちょっと照れる。
自然と赤くなっていくあたしを見て、八戒がその手を緩めていつものように頭を撫でてくれた。

「今度買い物に行く時には使わせてもらいますね。」

「ホント!?」

「えぇ・・・皆さんに自慢しちゃうかもしれません。」

「うわっそ、それは恥ずかしいかも・・・」

「恥ずかしくありませんよ。こんな素敵なマフラーなんですから。」

八戒が笑顔でそう言ってくれるだけで今までの苦労が報われる気がする。



編み物をしていた時、考えていたのは2人が喜んでくれる顔だけだった。
どんな顔して受け取ってくれるのか、実際につけたらどんな風なのか・・・それだけを考えて編み続けた。




















それからジープにも残りの毛糸でマフラーを編んであげようって思って、部屋に帰る途中・・・悟浄の部屋から鼻歌が聞こえた。
何気なく扉をちょっと開けて中を覗くと、部屋の中でマフラーを巻いたまま嬉しそうに外を見ている悟浄がいて思わず扉を押してしまった。

「・・・ナニしてんの?」

「いや、その・・・」

あんまり悟浄が嬉しそうな顔してるから、その笑顔がもっと側で見たくて身を乗り出したら前のめりに転びました・・・何て言えない。

「えっとその・・・ご、ごめんね。勝手に入っちゃって・・・じゃ・・・」

立ち上がって部屋を出ようとしたあたしの背に悟浄の声がかかる。

「なぁチャン。」

「ん?」

振り返ると悟浄が小さく手招きをしていたので、一応扉は開けたまま悟浄に近づいた。

「・・・これってさ、元はナニ?」

「え?」

「いや・・・何となく気になって・・・サ。」

「元は・・・毛糸だけど、まぁ一本の紐?」

「一本の紐ぉ!?それがどうしたらこんなになるんだ!?」

・・・一瞬小さな子供がお母さんに色々質問する光景が頭に浮かんで、消えた。
悟浄にとってあたしが普通に考える子供が過ごしてきた時間が無いんだって事に・・・。

「えっとね・・・ちょ、ちょっと待ってて!」

その質問に答えるべくあたしは慌てて部屋から飛び出して自分の部屋にあった残り糸と編み棒を持って悟浄の元へ戻った。

「これが毛糸で、この棒を使って編むの。」

「・・・割り箸?」

「違う、見ててね。」

ちょうどジープ用のマフラーを作ろうと思っていたので、一番基本となる編み方でまっすぐ編み始める。

「・・・はぁ〜器用だな。」

「多分八戒も出来るんじゃないかな、こういうの・・・はい、ジープ用マフラー出来上がりv」

ちょんっとハサミで切って悟浄の手にそれを乗せると、不思議そうな顔で眺めている。

「最初は一本の紐だったのにな。」

「凄い?」

「あぁ、マジ尊敬した。」

うふふふふっ♪何だか凄くうれしいなv
悟浄に褒めてもらえたのが嬉しくて、ニコニコしてたら目の前の悟浄も嬉しそうに笑っていた。

「・・・ホント、チャンってオレらにとって特別・・・ってカンジ。」

「とく・・・べつ?」

「オレさ、八戒が来るまでずっと一人で暮らしてて・・・で、八戒と暮らし始めたけど最初は合わなかったのよ。」

「・・・」

「単純に言えばオレは夜型、アイツは朝型・・・合うはず無かったんだよなぁ〜。でも暫く一緒にいたら徐々にかみ合う時間も出てくるわけよ。」

悟浄の話を聞きながら、八戒も同じ事を言っていたなって思った。

チャンが来てから随分八戒の見えなかった部分、見えた気がする。」

「そう?」

「あぁ!意外と嫉妬深いとか、異常に心配性だとか、オレの扱いとチャンの扱いに雲泥の差があるとか!!」

「最後は・・・男女の差ってヤツじゃない?」

「いんや!アレは絶対に違う!!」



あたしの見てない所、見えない所で一体何があるんだ?



「で、アイツのポーカーフェイスが崩れる唯一の相手が・・・チャンってワケだ。」

「あ、あたし!?」

「そ。今度出掛けた時にほかのオンナ、まぁ雑貨屋のオバチャンでもネェチャンでもいいや。それとチャンに向ける笑顔・・・見比べてみ。面白いほど違うゼ♪」

「んー・・・今度見てみる。」

ポンって頭に手を乗せられて、反射的に顔を上げて悟浄へ視線を向けた。

「ソレ見て思った。八戒にとってチャンは特別な人間なんだな・・・ってさ。」



悟浄、八戒と同じ事言ってる。
2人と別々に話をしたはずなのに、お互いに話す事は同じ。
ひょっとしたらあたしは2人の何かを繋ぐためにここにいるのかな?なんて自惚れてしまいそうになるほどに、2人の気持ちは重なっている。



チャン?」

「あ、ゴメン・・・ちょっとボーっとしてた。」

「こ・れ・・・今度ダチに自慢していい?」

軽くウィンクをしながら今だ首に巻いているマフラーの端をヒラヒラさせる悟浄を見て自然と顔が赤くなる。

「ええぇっ!?これをっ!?」

「そvアイツラこんなイイモン見た事ないから悔しがるだろうなぁ〜♪」

「楽しそうだね、悟浄。」

「モッチロンv初めて自慢できる物だからな・・・」

「え?」

「こっちの話。ホントありがとな。チャン。」

「・・・うん!」

笑顔で頭を撫でてもらって、悟浄にマフラーが形になるまでって見せるために作ったジープのマフラーを持って居間に戻る時、悟浄もお茶を飲むって言って一緒についてきた。

それから机にいたジープにマフラーを巻いてあげて、喜ぶジープを囲んで3人でお茶を飲んだ。





あたしにとっても・・・2人は特別な人、だよ。
いつかちゃんと伝えられたらいいな。





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冬だから2人にマフラーを編んであげよう♪
・・・と言うだけの話が、何故かお互いのろけあう形に(笑)
2人の特別な位置にヒロインが定着した・・・と言うのを何故か本人ではなく、お互いに言い合ってる辺りが何となく好きです。
と言うかこういう八戒と悟浄の関係が好きみたいです(苦笑)
お互いの事、言ってるわけじゃないのに知ってると言う感じが・・・。

うたた寝に物を持ち込みたいと言う声も聞こえたので、ヘタに持ち込むとこうなる・・・と言うのを書いてみました(笑)
大変ですねぇ・・・首にかけるのは厳禁みたいです(苦笑)
そうすると洩れなく目覚めと同時に三蔵の読経が聞こえます(縁起でもない)
と言う訳で持ち込む際には体に巻きつける、手に巻きつけるをお勧めします。

本当はマフラーを2人の首にかけてあげたかったんだけど・・・なんて事でしょう、私ってばどちらを先にするかで一日考えちゃいました(笑)
結果・・・選べませんでした(おいおい)完全二股確定です(汗)