第1章 −ココは何処?−







「…なんだコレ?」

酒場でカードを行い幾らか稼いだ後、何時もより早く帰ってきた夜だった。
家の前に一つの人影が横たわっていた。
八戒が準備した明日捨てる予定の生ゴミではない様だ。
見事にオレん家の前に横になってくれちゃって、ドアが開けれねぇ…。

「しょーがねぇなぁ…。」

苛立たしげに頭を掻きながらしゃがみ込み、一先ず死体ではないらしい人物を抱いて帰宅した。
貧乏性…ってやつかね。落ちてるモノ見ると拾っちまうのは…。







頬に当たる日差しが暖かくあたしはゆっくり目を開けた。
何時もの様に布団で伸びをしてから寝返りをうつ。
そして時間を確認すべく枕元にあるはずの時計を手探りで探す。
するとその手が何やら生暖かいモノに触った。
思わずその手を布団の中に引っ込め、正体を確認しようとおそるおそる視線を向けた。
すると一人の人が椅子に座ってこちらを見ていた。

「起きたか?」

聞き覚えのある声。しかも最近聞いたばかりのような気がする…。
まだ起きない頭をフル回転させながら、記憶の糸を必死でたどる。

「まだ寝ぼけてンのか?おーきーろーよ!」

やっぱり聞いた事ある!!この声は…。

「起きねぇと…食っちまうゼ。」

「悟浄!!」

耳に残る低音。囁く声は渋く、女性に対しての台詞は甘い。
思わず指差し確認をしてしまった。
確認をされた方は口に咥えた煙草が僅かに揺れ、唖然とした表情でこちらを見ている。
…待って?なんで悟浄がいるの?

「…オレ、名前言ったっけ?」

コレは夢?そっか夢か…視線を悟浄に合わせたまま自分の頬を思いっきり引っ張る。

「いったー!」

「…たり前だろ?自分でつねりゃ痛いに決まってんじゃん。」

痛いってことは夢じゃないってことで…でもどうして?

「悟浄、あまり驚かせちゃいけませんよ?」

扉を開けて部屋に入って来たのは…。

「八戒!」

「はい?」

手にしていたお盆を机に置くと何やら悟浄と話をしている。
今はそんな事より、自分が置かれている状況よりを考えてどうすれば良いか考えなくちゃいけないんだけど、今は…生の二人に会えたことが嬉しい!
目の前で喋ってるし、動いてるし、声をかければ振り向いてくれる!もしかしたら名…名前も呼んでくれるかも…。
あー…さすがに自分が情けなくなってきた。

「それじゃぁ悟浄。頼みましたからね。」

「お…おい、八戒…」

扉に手を掛けたまま八戒が振り返り、悟浄に向けてにっこり微笑んだ。

「拾ったモノは自分で責任取ってくださいね♪」

「…」

コレかぁ…黒い笑顔…って。
妙に納得しながら扉が閉まる音を聞いていた。

「じゃ、目が覚めたトコでオニーサンと少しお話しよーゼ♪」

悟浄がマグカップを手渡してくれた。チェックの柄の可愛いコップ。
礼を言ってそれを受け取りひとくち口に含む。
焦る気持ちを安心させるかのように甘い液体が喉を通る。
悟浄は手にしたコップをくるくる回していた。

「悟浄…さんと何話すの?」

「まず、名前。名前ねーと呼べねーだろ?」

そっか、そりゃそうだ。持っていたコップをおろし悟浄の方へ体を向ける。

です。よろしくお願いします。」

「いや、ヨロシクされても困るんだけど…ンじゃチャン。どうしてオレん家の前に倒れてたの?そんで…こっからが大事…」

悟浄の目が怖いくらいに鋭く光っていた。
初めて悟浄が…怖いと思った。

「どうしてオレと八戒の名前知ってんだ?」

どう答えれば良いんだろう…。
自分でもわからない。
でも悟浄にしたらあたしを拾ってくれて、家にいれてくれて…目が覚めたら自分の事を知ってる人だったなんてどう考えても怪しすぎる。
どうすれば良いんだろう…悟浄に聞かれたことを全部話せたら一番良いのに…。

「…!おいっ!」

「ふぇ?」

どうしたんだろう?悟浄がなんだか慌ててる。
手にしたコップを慌てて机に置いてティッシュの箱を持って戻ってきた。

「ワリィ…急過ぎたな。もう少し落ちついてから話そう…な?」

あたしは泣いていた。瞬きを忘れるくらいの勢いで目から涙を流していた。
悟浄の質問に答えたい。
答えられない…教えて欲しいここが何処なのか。
どうして悟浄達の元にいるのか…。

「悟浄…僕、泣かせろ…と言った覚えはないんですけど…」

冷たい空気が悟浄の背後で流れていた。
八戒が異変に気付いたのか何時の間にか部屋の中に入って来ていた。

「オレが泣かせたんじゃねぇよ!」

「人のせいにするつもりですか?大丈夫ですよ。こんなですけど噛みつきはしませんからね?」

八戒がポケットから取り出したハンカチで涙を拭ってくれた。
一瞬頬に触れた手が少し冷たかった。
それでも温かい心が胸に優しく伝わり、さらに涙がこぼれてきた。

「…お前の方が泣かしてんじゃねぇかよ!」

こんな…と言われた悟浄が新しい煙草に火をつけ窓辺で煙を漂わせていた。

「不安なんですよ…きっと…。大丈夫、落ちつくまで僕等が側にいますから…」

八戒はあたしの頭を撫でてくれた。
落ちつくまで何度も何度も…。



ようやく涙が止まった頃には外は夕暮れ、あたしの目はきっとウサギもビックリなほど腫れている事だろう。

さん落ちつきました?」

こくりと頷き八戒を見る。
悟浄は子供のお守は任せたと言ってとっとと何処かへ行ってしまい、八戒がその背中を黒いオーラを漂わせながら見つめていた。

「ごめん…なさい。ありがとうござ…いました。」

「いいえ、お話できそうですか?」

八戒が優しい目であたしを見てる…この目に応えたい!

「信じてもらえないかもしれないけど…」






私の名前は。3人家族で1人っ子の1人娘。
金融会社に4年努めてイヤな先輩や単調な仕事に飽き飽きし、そろそろ辞めよっかなぁ〜なんて考えながら働いているOL。
毎日眠るのが楽しみで、小さい頃本で読んだ「夢に出てきて欲しい人の写真を枕の下に入れて眠ると夢で会えるv」
なーんて少女趣味な事を日々実行し、思った通りの夢が見れずに喚く毎日。
今日は会社でイヤな事があったのでお気に入りのパジャマを取り出し、最近はまった最遊記の本を枕の下にいれて寝た。
そして現在に至る…。






八戒は困った顔をしながらあたしを見ていた。
嘘…と思うよね…あたしだったら思うわ。

「つまり…さんのいる世界では僕らは本の登場人物…と言う訳…ですか…」

「は…い…」

今のあたしに出来る事はこれぐらい…。
この後あたしはどうなってしまうのだろう。
ふざけるなって追い出されちゃうのかな…。

「面白いですね。でもどうしてこっちに来ちゃったんでしょう?」

「は?」

八戒がおや?と言う顔をしてあたしの顔を覗き込んだ。

「違うんですか?今、さんが言った事をそのまま言ってるんですが…」

「あの…信じてくれるんですか?」

そう言うと八戒は唇の端を少しあげ笑った。

「嘘をついている目じゃありませんでしたから…それに、こう言った事に良く出会うんです。側にそういう関係の方がいるもので…。」

「それってもしかして…三蔵様?」

八戒の目が大きく開かれ、驚いた様にあたしを見ていた。
その後苦笑したまま椅子に座りなおした。

「お見通し…ってわけですか。それじゃぁあといくつか質問するので答えていただけますか?」







「お帰りなさい悟浄。お早いお帰りでしたね?」

こっそり家の戸を開けたつもりが台所に蝋燭の火が灯されており、そこにもう一人の同居人が座っていた。

「あー…今日はツイてなくって…」

「逃げましたね。」

それは少女の前から…を意味している。
自分が拾ったモノは自分で面倒を見る…と言う約束を見事に破った悟浄に対して、八戒は一切の甘さも見せなかった。

「拾った物は自分で面倒を見るって以前言いましたよね?」

「そりゃ酒で酔っぱらってた時だろ!マジにとんなよ…」

悟浄が八戒の前の席を引き寄せ座った。
八戒が台所へ向かい両手にコーヒーカップを持って戻り、悟浄の前にもう一方のカップを置いた。

「…彼女ですけど…おそらくこの世界の人ではありませんね。」

「…どゆコト?」

八戒は自分が彼女と話をした事を掻い摘んで悟浄に聞かせた。
彼女がいる世界では八戒達は本の中の登場人物である事、その世界で本を読んだ事によって自分達しか知らない内情を知っている事等を…。

「僕、悟浄にも姉の名前は言っていないはずです。」

「…あぁ。」

八戒は持っていたカップを机に置き、一度瞳を閉じてゆっくりと目を開けた。

「彼女は知っていました。僕の姉の名が花喃である事…そして双子だという事…別々の孤児院にいたという事…そして関係があったという事も…」

「おい…それプライバシーの侵害だろ!」

悟浄が机を両手で叩き勢い良く立ち上がった。
八戒が苦笑しながら悟浄を椅子に再び座らせた。

「彼女は口にするのを躊躇っていたんです。彼女自身は本を読んで知っているだけで、目の前で見ていた訳ではないんですから…。」

「それでも…あんまイイ気しねーだろーが!」

八戒は何時もの笑顔で彼女の眠っている部屋の扉を見た。

「…彼女不安なんですよ。考えてみてください。もし悟浄が何かの本を読んでいて、眠って目が覚めたらその本の中に居るんです。
自分を知る人は誰も居ない、何も持っていない、どうすればいいかもわからない、いつ元に戻れるかもわからない、でも出会う人についての知識はある。
そうなった時、貴方ならどうします?」

悟浄が机の上にあった煙草を取り出し口に咥え、机に肘をついた。

「なるよーになるっしょ。」

「そう言うと思いました。今日の所はとりあえず悟浄のベッドで休んで貰っていますから悟浄はソファーで寝て下さいね。」

「何ぃ!?」

口に咥えた煙草がそのまま床に落ちた。
それを悟浄に手渡して八戒は何時もの様に爽やかに笑った。

「拾った物は最後まで責任を持つ。男に二言はないんですよね?」

「…実は…怒ってる?お前…」

その問いに応えず八戒は自室へと戻っていった。
悟浄はソファーで寝るためしぶしぶ毛布を取りに彼女が眠っている部屋にそっと忍び込んだ。(自分の部屋なのだが)
しかしそこには人の気配がなかった。
慌てて部屋の明りをつけるとついさっきまで人がいた気配はある…が、少女の姿は何処にも見えなかった。





ブラウザのBackでお戻り下さい



ついにやってしまいました(笑)最遊記世界へ落っこちてみようー!!(爆笑)
読んだ方・・・後悔してませんか!?今後もこんな感じで進んでいきますよ。
えーうたた寝のネタは本っ当に私が気の向くまま、思うがままにやりたい事をやっています。
うたた寝はヘタするとくちなしの夜より甘くなります。逃げるなら今のうちです(爆)
今後、徐々に八戒たちとお近づきになりたまに出没する同居人の位置に定着します。
それまでゆっくりお付き合いくださいねv