第3章 −夢か現実か!?−







今日は最悪だった。
仕事はミスの連続、家に帰れば洗濯と洗い物が山になっていて全てが片付い頃には12時を回っていた。
お風呂に入り濡れた髪を乾かして布団に入る。

「…もう八戒達に会えないのかなぁ。」

借りていたシャツは丹念に洗い、アイロンをかけて強引に乾かした。
ただどうやってこれを返せばいいのだろうか?
夢の中に物を持っていく方法なんてどんな本にも載っていない。
逆を言えば夢の中から物を持ってくる方法なんて言うのもないだろうけど…。

もう一度向こうに行けたら…今度も戻って来れるかわからないけど…もう一度会いたい。
今度はしっかり話をしたい。
その思いを胸に抱きつつ今日も本を枕の下に入れてみた。
考えて見ればあんまり寝相が良い方でもないので、枕の下に入れていても翌朝には床に落ちてる事の方が多い。

「気分の問題…だよね。」

疲れていたのか何も考えずに意識が遠くなっていった。










「あのなー…」

突然目の前に現れた女。
イイ女は覚えるが、大して個性がなきゃ覚えるコトもねぇ。
個性っていやコイツは今までで一番個性的だ。

「登場の仕方がな…おい、起きろ!」

肩を揺さぶって起こすが一向に目を開けない。
微かな声が耳に届くが覚醒はしていない様だ。

「八戒より寝起きワリィな…おい、チャン!」







「はいっ!」

耳元で呼ばれ慌てて体を起こす。
覚めきらない頭で周りを見ると綺麗な赤が目に飛び込んだ。

「きれー」

「寝ぼけてんなよ。」

大きな溜息が聞こえ焦点を合わせると、そこには悟浄がしゃがみこんでいた。

「あれぇ?」

「あれぇ?じゃねーよ。オマエ今まで何処にいたの?どーしてオレの前でいーっも寝てンの?」

悟浄が髪をかき上げながらじっとあたしを見つめている。
かっこいー…じゃなくて、あたしまた来ちゃったの!?

「ほえぇ?」

あたしの声を聞いて悟浄ががっくり肩を落とした。

「…悪かった。一先ずオレん家行こうや。」

歩き始めた悟浄の後を寝起きの覚めやらない足で追いかける。
追いかけてきたあたしを見て悟浄が歩みを止めた・・・と思った次の瞬間、急にあたしの視界が高くなった。

「!?」

「あ・し。汚れちまうぞ。」

悟浄がお姫様抱っこで抱き上げてくれている。
やばっ!最近体重増えて重いのに!!
慌てて下りようと悟浄に声をかける。

「ご、悟浄!重いから!大丈夫、足丈夫だから!」

言ってる事が意味不明。
お姫様抱っこと悟浄の顔が至近距離にあるのとで2倍に動揺している。

「女のコは甘えるもんだろ。オニーサンに任せなさいって」

そう言うとウィンクであたしに笑いかけてくれた。
昨日とは何処か違う感じがした。





「あぁ、さん。無事だったんですね。」

家に着くと八戒が笑顔で出迎えてくれた。
再会を喜ぶ前に風呂場まで悟浄に連れて行かれ、汚れてしまった足を綺麗に洗った。
これって何かに似てる…そうだ犬の散歩。
あはは・・・と笑ってから足を拭いて居間に戻ると、八戒が紅茶を入れて待っていてくれた。悟浄もテーブルについて煙草を吸っていた。

「ミルクは要りますか?」

「はい。」

「サトーは?」

悟浄が片手に砂糖の入れ物を持って聞いてくれた。
普段は入れないけど今日は悟浄に1つだけ入れてもらおう。こんなチャンス2度とないだろうし…。

「1つで。」

「あいよ…」

八戒の入れた紅茶は美味しかった。
本当に何でも器用にこなす人なんだなぁ…なんて思って横目で八戒を見ていたら声をかけられた。

さん心配しましたよ?あの日から3日間、一体何処に行ってたんです?」

「み…3日?」

「そ、オレが毛布を取りに部屋に入ったらチャンの姿がなかったってワケ。」

あたしが現代に戻って過ごしたのは1日。普通に過ごした…はず。
1日多く過ごした訳でも、早送りの様に何かをやった訳でもない。
困った顔をしていると八戒がにっこり微笑んでくれていた。
相変わらず綺麗な笑顔だ。

「状況が整理できてなくても構いません。むしろ今思ってる事を言って下さる方が嬉しいんですけどね…。」

「この前みたいに話ぐちゃぐちゃかもしれませんよ?」

それでも八戒の笑みは変わらない。
変わらない笑みに安心感を覚え、今自分が思っていることを出来る限りまとめて八戒と悟浄に話した。



「つまりこっちの世界で寝て、目が覚めたら自分のトコに戻ったってことか。」

「そう言う事になりますね。」

入れてもらった紅茶はとっくに冷めていた。それでも二人とも席を立たずあたしの話を聞いてくれていた。

「眠ると言う事がキーになってるとは思うんですけど…」

「あっ、あとこっちで身につけた物はそのまま持っていけるみたいなんですけど、八戒に返そうと思っていた服。確かに手に持って寝たはずなんだけど…こっちには来てないですよね?」

「オレが見つけた時はチャンしかいなかったし、その回りに物は落ちてなかったゼ。」

悟浄が両手を上げて何も無かった事を強調した。
全員が沈黙している中、八戒が席を立った。

「・・・取り合えず夕食にしましょうか。さんは好き嫌いありますか?」

「特にないです。え?八戒のご飯食べれるの?」

純粋に喜んでしまった。

「えぇ御馳走しますよ。悟浄…お相手していて下さいね?」

「へいへい。」

それだけ言うと八戒は台所へと姿を消した。
悟浄は手にしていた煙草を灰皿に押し付けるとじっとあたしの顔を覗き込んだ。
あんまり凝視しないで欲しい…。
内心冷や汗を掻きながらもその視線に引きつった笑顔を向けると悟浄が吹き出した。

「あははは!ワリィ…緊張させるつもりなかったんだけどよ。異国のオンナっての見てたかっただけなんだ。」

さすが悟浄…口説きなれてる…と言うかかなりドキドキするんですけど…。

「オマエもちっこいのに大変だな。今いくつだよ。14.5か?」

がくっときた。
外国に行くと日本人は実際年齢よりも幼く見られがちになるけど…まさか10歳も下に見られるとは…。

「あたし…悟浄より年上なんだけど…。」

「んあっ!?」

悟浄の肘が机からずり落ちた。開いた口が塞がらないと言った様子であたしを見る。

「これでもあたし…26になったんだけど…」

「…マジかよ」

暫らく悟浄の動きが止まり何か考え込んでいる様だ。声をかけても試しに顔の前で手を振ってみても何の反応もない。
目の前に居ると更に混乱させてしまうだろうと思い、台所に居る八戒の所へ向かった。
一歩台所に入った瞬間、後ろに眼でもあるのか八戒が声をかけてきた。

「悟浄が驚いていたみたいですね。」

「え!聞こえたんですか?」

「いいえ、何となーくってとこです。よければ味見していただけませんか?」

八戒が小皿を差し出してくれた。それを受け取りシチューの味見をする。
あーもー涙が出そうなくらい美味しい!!どうしてこの短時間でこんなに美味しい物が作れるんだろう…。

「美味しいです!!」

「クリームシチューは好きですか?」

もうひとくち分お皿に入れてくれて八戒がにっこり笑ってくれた。

「大好きです!」

それを聞いて八戒は他の食事を準備すべく冷蔵庫の方へ向かって行った。その後姿に声をかける。

「八戒はあたし幾つくらいに見えました?」

八戒はうーんと唸った後にっこりと微笑み答えを口にした。

「すみません。僕も10代だと思っていました。」

「あ…やっぱり…」

涙、涙。童顔ってこうゆう時、得してるんだか損してるんだか…。
はぁ、と溜息をついてカウンターに両手をついた。

「貴方は貴方なんですから、あんまり気にしない方が良いと思いますよ。」

ビックリして八戒の方を振り向いた。
この人本当は心が読めるんじゃないだろうか!?
当の本人は鍋をかき混ぜながらくすくすと笑っていた。

「素直な人ですね。全部、顔に出てますよ。」

かーっと顔が赤くなったのがわかった。
恥かしさを隠すため居間に戻ると悟浄の姿が消えていた。机の上には走り書きのメモが…。

「…あうっ。中国語?よ…読めない。」

読めるのは悟浄の名前くらい。後で八戒に読んでもらえばいいか。
椅子を出して座り、ボーっと部屋の中を眺めているとソファーの上に白い物体を発見した。
まさかもしや…。

「ジープ?」

名前を呼ばれた事に反応し、白い物体が首を伸ばし周囲を見渡した。

「キュゥ〜?」

「やっぱりジープだ!」

椅子から転がる様にソファーへ向かいジープに近付く。
赤いルビーのような目がきらきらしている。
眠そうに欠伸をしながらあたしの顔を不思議そうに眺めている。

「可愛いv」

さすがに噛まれると怖いのでそのまま眺めていた。
ジープが再び目を伏せ体を丸くして眠りに落ちた。
その様子を見ていたらつられる様にあたしも目を閉じ意識を飛ばしてしまった。

八戒のご飯は結局食べれなかった…と言う事に気付いたのは、現代に戻った布団の上だった。ちぃっ!!





ブラウザのBackでお戻り下さい



八戒の手料理って食べてみたいんですよね・・・今の時期ならやっぱりシチューかな♪
他にやりたい事と言えばジープを抱きたいって事ですかね(笑)
真っ白な体に赤い目v可愛くてしょうがないですっっ←馬鹿(笑)

童顔なのはいい事なのかどうなのか・・・私は一度も年相応に見られたことがありません。
・・・と言う訳で(どう言う訳?)八戒達よりも年上なんだけど、精神年齢の低いヒロインが出来ました♪
外見年齢はまぁ悟空より上で八戒達より下・・・と思って下さい。悟空よりは精神年齢高い・・・つもり。
よろしければまた次も読んでやって下さい!!