第4章 −2度あるコトは3度ある−
「う〜ん…」
「おはようございます。お目覚めですか?」
慌てて飛び起き、声のする方を見る。
…また来てしまった。
「…おはよう・・・ございます。」
あれ?何かが違う・・・。
前回、前々回とも一番初めに出会ったのは悟浄だった。
悟浄がいつも不思議そうな顔をしながら起こしてくれて、家まで連れてきてくれる。
しかし今回、目の前にいるのは八戒である。
そんなあたしの疑問を見透かすかのように八戒が教えてくれた。
「朝方、夜遊びから帰る途中の悟浄に連れて来られたんですよ。いくらなんでも悟浄と一緒に寝かせる訳にも行かなかったので僕のベッドを使ってもらったんです。」
「ごめんなさい。」
あぁ…これ以上ない程、迷惑を掛けまくっている気がする。
しゅんと肩を落として落ちこんでいると八戒の笑い声が耳に届いた。
…って言うか声を出して八戒が笑ってる!?
瞬時に顔を上げて八戒の方を見ると必死に笑いを堪えている様子の八戒が見えた。
「は…八戒?」
「本当に素直ですねぇさんは…」
それでも八戒の笑いは止まらない。
流石にここまで笑われると恥かしい。
「八戒ぃ…」
自分でも情けないくらいの声で八戒の名前を呼ぶと、ようやく笑いの止まった八戒がこちらを見た。
「今回も向こうを1日過ごしてきたんですか?」
「うん。仕事で疲れてあっという間に眠りについて…」
「こっちでは1日しか経ってませんよ。」
…日付の感覚狂いそう。
八戒の話によると私が台所から姿を消した10分後くらいに居間に戻ると、ソファーで眠っているジープと悟浄の書置きが机に置いてあったと言う。
「確か本物のジープを見れて…でも触るの躊躇ってじっと眺めてたらジープが寝ちゃって…それを見てたらついついうたた寝を…」
「それで向こうに戻ってしまったというわけですね?」
「多分…」
八戒が腕組みをしてなにか考えている。
こんな時に不謹慎だけど…やっぱり八戒ってかっこいいなぁなんて思って眺めていた。
やがて八戒が顔を上げて軽く手を叩いた。
「一先ず食事にしましょう。前回召し上がって頂けませんでしたからね。」
そう言うと八戒は後ろの棚から洋服を取りだしベッドの上に置いた。
「僕の服で申し訳ないんですがよかったらどうぞ。着替えたら居間に来て下さいね?」
そう言うと八戒は部屋を出て行った。
鍵も掛けられますからね・・・と言う一言を加えて。
流石八戒…面倒見が良い。
一行の保父さんになれる訳だ。
納得しながら八戒がベッドの上に置いてくれた洋服を手に取った。
渡された服は長袖のシャツとズボン。
シャツは肩の位置がずれてしまうのは体格が全然違うのでしょうがない。
袖がかなり余るので数回折りたたむとようやく手が出てきた。
ズボンは履く前からウエストの心配をしていたが、いくら細身とはいえ男性という事もあり一応余裕があった。
そしてお約束のように長すぎるズボンの裾は、まるで時代劇の袴のように長くって・・・。
数回裾を折りたたんで転ばない程度に足を出すと、ようやく着替えが完成した。
「…八戒から見たら子供に見えるんだろうなぁ…。」
一応年上なのに…と言う言葉は横において部屋の鍵を開けて廊下へ出た。
食べ物の匂いが鼻に届くと向こうで夕飯を食べたはずなのにお腹が鳴り始めた。
あたしって意地汚い…。
「…やはり大きかったですね。」
あたしの身長は155cm弱。八戒から見たら子供の身長だろう。
それが袖とズボンを折りたためるだけたたんだ自分の服を着ているのだ。
面白いに違いない…。
「服まで借りちゃってすみません…」
「構いませんよ。それよりも着てきた服が汚れてしまう方が大変じゃないですか。」
言いながら八戒がコーヒーを注いでくれた。
所狭しと机の上に並べられているのはパンとオムレツとサラダと…そしてシチュー。
シチューを器に盛る八戒に声を掛ける。
「八戒…このシチュー…」
「さんに味見していただいた物ですよ。一晩じっくり煮込んだんで美味しいと思いますよ。」
湯気の立つシチューに八戒の笑顔が加えられ手渡される。
不味い訳がないでしょう!!
八戒お手製のご飯が食べれるなんて向こうじゃ考えられない出来事だ。
「あのー、悟浄は…」
今だ起きてこない人。
そして何故かあたしがこっちに来る時いつも現れてしまう人。
「悟浄が帰ってきたのは5時頃だったのでほっといて先に食べましょう。」
今は8時なのでまだ3時間しか経っていない。
それだけしか寝てないんじゃ起こすと悪いよね。
「それじゃあ遠慮なく…頂きます!」
八戒と二人きりで楽しい食事の時間を過ごした。
八戒の作ってくれた食事はほっぺたが落ちそうなほど美味しくて、シチューにいたってはお替りをしてしまったくらいだった。
目の前の席の八戒は終始笑顔でその笑顔に見惚れてしまう事が度々あり、その都度八戒に笑われたものだった。
八戒は食事の合間にこっちの世界の話を色々聞かせてくれて、くだらない質問にも八戒は事細かに答えてくれた。
あたしも八戒に質問されれば答えられる範囲で応えながら楽しい食事の時間は終わった。
後片付けくらいは手伝おうとお皿を手に台所へ向かうとにっこり笑顔で断わられてしまった。
「あう…」
「一応さんはお客様ですから、座って待っててください。すぐ戻りますから。」
確かに余計な手伝いをして皿を割る可能性が無いとも言えない。
あたしはもといた席に戻り残っていたコーヒーの入ったカップをくるくる回して時間を潰していた。
やがてカタンという物音と共に人の気配を感じてそちらに視線を向けた。
「おは…!!」
…瞬時に悟浄から視線を逸らした。
「うーす…もう起きてたのか。」
悟浄登場である。
それは構わない…構わないのだが…。
あたしの前の席を引き寄せ、どさっと椅子に腰掛ける音がした。
か…顔が上げられない。
その態度を不審に思ったのか悟浄が声を掛ける。
「おーい…なんでこっち見ねーのよ?」
見ないんじゃなくって見れないんだ!!
悟浄は今、上半身裸なのだ。
普段ならタンクトップ姿でいたり、上半身裸だったりもするがそれは本の中の出来事で・・・それを端から見るのと目の前で見るのとでは全然違う。
悟浄としてはそれが何時もの事なのだろうがあたしは初めての事に動揺しまくりである。思考回路すら動揺の為、意味不明になっている。
悟浄はそれに気付いていないかのようにちょっかいを出している・・・けど、絶対気付いてからかってるんだろうなぁ。
「ちゃ〜ん♪」
机に突っ伏しているあたしの頭を突ついている・・・その声がやけに楽しそうだ。
誰か助けて!・・・と心の中で叫んでいると、ゴンっという音が聞こえ悟浄の声が止んだ。
「悟浄、いい加減止めないとさんが困ってるじゃありませんか。」
八戒が悟浄を止めてくれたらしい。あー流石八戒!!
「ほら、さん耳まで真っ赤になっちゃってるじゃありませんか。」
「えっ!?」
慌てて両手で耳を隠す。
その様子を見て悟浄が大笑いしながらぽんぽんとあたしの頭を叩いた。
「ワリィ、今服着てくっから…ちょっと待ってな。」
…耳元で言うのは反則だ。
悟浄の低音が耳に残る…くー!イイ声!!
悟浄の足音が遠ざかったのを確認して顔を上げると、悟浄の朝食の用意を終えた八戒が机についてあたしの顔を見ていた。
「顔…まだ赤いですよ?」
「わ、分かってる…」
顔を両手で仰ぎながら動揺を隠す…意味ないだろうけど。
顔を洗って火照りを冷まそうと八戒に洗面所の場所を聞いてタオルを借りる。
洗面所に向かう途中、着替えを終え部屋から出てきた悟浄に正面から激突した。
体格差&体重差もあり、あたしはしりもちをついて鼻を押さえる。
思い切り悟浄の胸に鼻をぶつけてしまった・・・痛い・・・。
ぶつかったもう一方の悟浄は不適な笑みを浮かべ倒れたあたしに手を差し延べてくれた。
「バーカ。慌ててんじゃねぇよ。」
「ご…ごめん。」
その手を借りて立ち上がる…と言うより引っ張られた感じ。
悟浄ってやっぱ力強いよね。
そのまま洗面所へ向かうあたしの背中に何故か悟浄の視線がいつまでも付きまとっていた気がした。
…気のせい…かな?
顔の火照りを何とか治め居間に戻ると、その日は1日中2人と一緒に色々な話をした。
しかしちょっとした瞬間にあたしはうたた寝をしてしまい、気付いた時には何時もの様に目覚し時計が出社の時間を知らせていた。
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うたた寝が意外に好評なのに気を良くしたのかUPが早い!
やはりと言うか、八戒の料理が食べれないが悔しいと言うのは皆様同じようなので、今回はキチンと食べさせて頂きました(笑)
満足して頂けましたでしょうか?
洗面所へ向かう途中、悟浄に激突しましたが、体全部が悟浄に激突したと思って下さい。
それが次回への伏線です(笑)
三蔵&悟空登場まであと・・・えーと・・・3つくらい待って下さいっっ!!
必ず登場しますからっっ。