第5章 −お買い物!?−
「う〜ん…」
「チャン朝だゼ♪」
誰かが何か言ってるぅ…もうちょっと寝かせてよ…。
もぞもぞと布団をたぐりよせ、その中へ体をもぐらせて行く。
「さん、おはようございます。いい天気ですよ。」
「んー…」
天気?暖かい陽だまりでゴロゴロするのスキィ…。
布団の中からもそもそ頭を出すと、日差しを求めて窓の方へ頭を向けた…つもりだった。
「だぁっははははは!」
「ふぇ…?」
うっすら目を開けると…こっちに来ていた。
盛大な笑い声と共に悟浄が床にしゃがみ込んでお腹を抱えて笑っていた。
八戒もその隣で口元を押さえながら何とか笑いをこらえる様にしていた。
あたし…何かやったのかな?
「お…はよう。」
「おはようございます。太陽は反対側ですよ?」
上半身を起こして周囲を確認する。
あたしが頭を出した方とは逆に窓があり、しかも日差しが当たっているのは布団の上ではなく床の上だった。
本当に日差しを求めるのであれば床に転がり落ちなければいけなかった…うわぁ間抜け!
「チャンおもしれー!サイッコー!」
涙を流しながら悟浄は笑い続けていた。
困った顔をして八戒を見ると、その八戒も何故か視線を合わせてくれない。
視線が合うと背中を向けて体を小刻みに震わせていた。
「何でそんなに笑ってんのー!!」
今までで最悪の目覚め。
目覚めの声が悟浄と八戒なのに、起きたら2人が大爆笑…なんか悔しい。
今日も八戒に服を借り美味しい朝食を頂いた。
本日のメニューは中華風朝粥だった。
胃に優しい味だった…はぁしあわせしあわせ♪
食後のお茶を飲んでいたら、悟浄が急に立ち上がりあたしの手を掴んだ。
「?」
お茶を離さず視線を悟浄に向けると何かを企んでいるかのように、にやりと笑った。
絶対なんかある…。
あたしの不信な視線など全く気にせず、悟浄がウィンクしたかと思うとそのまま爆弾発言をした。
「デートしようゼ。」
「…は?」
今なんとおっしゃりました!?
首を傾げボーっとしている間に手にしていたお茶は机に置かれ、八戒は笑顔で手を振っていた。
「行ってらっしゃい。悟浄、さん迷子にならないようしっかり見張っていてくださいね。」
「任せとけって!」
そうしてあたしはこっちに来て初めて外の世界を見ることとなった。
しかも悟浄と一緒に…。
町は賑わっていた。
悟浄の家しか知らないあたしにとっては不思議な体験だった。
どちらかと言うと観光気分…って言うのが正しいのかも知れない。
「チャン、こっち。」
きょろきょろしていたら悟浄の進む方とは逆に向かっていたらしく、腕を掴まれ方向転換させられた。
「あ…ごめんなさい。」
「迷子にならない様にココ…持っててくれると助かるんだけど?」
そう言って差し出されたのは悟浄の左腕。
心臓が大きく飛び跳ねた。
ゆっくり悟浄の腕に手を伸ばすが触るに触れない。
…って言うか恥かしいよぉ〜。
真っ赤になって戸惑っているあたしの様子を見た悟浄が、あたしの右手をさっと掴むとそのまま自分の左腕に絡ませた。
「しっかり掴んどけよ。」
「はい!!」
…腕を組んでしまった。
やっぱりすっごい筋肉。固くて太い腕だなぁ…。
それでも体を密着させるのが恥かしかったので、くっつかないように悟浄と自分の体の間に僅かな隙間を空けて歩く。
そのまま周りの店を見ながら連れてこられた所は…
「悟浄、ここ何?」
「まぁいいからいいから…おっ、コレいいじゃん♪着てみねー?」
そう言って差し出されたのは短い丈のチャイナドレス。
しかもめっちゃくちゃスリットが深い。
「無理!!」
「やっぱダメか…そんじゃぁ…」
気付くと悟浄が2、3着、服を見繕ってくれた。
しかもあたし好みのシンプルで動き易そうな服ばかり。
「ヤローの服着てるってのもオレ的にはオッケーなんだけど、八戒がうるさくってよ。一応試着してみるか?」
「え…あ、うん。」
何が何だかわからないまま試着室に通された。
とりあえず目の前にある籠いっぱいに入った洋服を、試着しようとして声を上げる。
「ご…ごじょーっ!!」
カーテンを開けて悟浄を呼ぶと店のお姉さんと話をしてた悟浄が振り向いた。
「どした?合わなかったか?」
飄々とこちらへやってくる悟浄にあたしは籠の中に入っていたある物を取りだし、目の前につきつける。
「何コレっ!!」
顔を真っ赤にさせ悟浄に訴えるが本人はあっけらかんとしている。
私が手にしているのはいわゆる下着…。
しかもその色は黒…。
「年上のオネーサマって事でソレにしてみました♪」
口を金魚の様にパクパクさせながら悟浄の声が耳を流れて行く。
だからって…だからって…黒はないでしょ!黒は!!しかも…どうしてサイズわかってるの!!
心の声が聞こえたのか悟浄がにやりと笑った。
「この前廊下でぶつかったろ?サイズ違うか?」
…開いた口が塞がらない。
あの一瞬でサイズまでわかってしまうとは…さすがエロ河童。
「外歩くのにノーブラってのもなぁ…オレは嬉しいんだけど…」
よーく考えたら今まで二人の前であたしはノーブラで過ごしていた。
そりゃそうだ、寝る時は外してるもんね…ひゃー!恥かしい…。
「なぁ紫とかならいいか?」
「やだー!!」
あたしの拒絶の声は店中に響き、店員のお姉さんが別の色の下着を持ってきてくれて悟浄の持ってきた黒の下着は哀れ、もとの場所へと返品されたのだった。
「似合いそうだったのになぁ…悟浄ザ〜ンネン。」
どっかで聞いたことのある台詞がカーテンの向こうから聞こえる。
それを無視して悟浄の選んでくれた洋服に袖を通す。
タータンチェックの短めなタイトスカートに黒のVネックのシャツ。
鏡を見て口を塞ぐ…あ、太っとい足。
ショックでしゃがみ込む。
可愛いんだけどなぁこのスカート…でもこの足あの二人には見せたくない。
お世辞にも綺麗とは言いがたい・・・否、言えない太い足・・・大根とまでは言わないけど。
はぁ、とため息をついてから他の服を着ようとスカートのファスナーに手をかけた瞬間、背後から悟浄の声が聞こえた。
「おーい開けるぞ。」
「えっ!?」
カーテンを押さえるよりも早く中に悟浄が入ってきた。
真っ赤な顔で鏡を背に精一杯逃げる。
そんなあたしの格好を上から下へと一瞬の内に視線を走らせると、悟浄は満足そうに頷いた。
「へー似合うじゃん。他は?」
「…え…まだ。」
「他も着てみなって、ぜってー似合うから。」
そう言ってカーテンを閉めて出ていった。
あたしは…というと、もし着替えている最中だったら心臓はどうなってたんだろう…なんて考えながら他の服に袖を通し、引かない頬の熱さを必死で冷まそうとしていた。
結局悟浄の選んでくれた服を全て試着し、その中から悟浄お勧めの物とあたしが気に入った物を一着ずつ買い店を出た。
勿論お金なんか持ってないので全て悟浄が支払い、荷物も悟浄が全て持ってくれている。
「悟浄あたしも持つよ。」
「いーから、女に荷物持たせるなんてモテねーヤローのする事よ?」
「それにお金…いっぱい使っちゃったでしょ。ごめんね。」
「バーカ…」
悟浄が目の前に立ち止まり振り返った。
「こーゆー時は…違うっしょ?」
片手に抱えた紙袋を持ち直しあたしの言葉を待つ。
悟浄って…やっぱカッコイイや。
「…ありがとう。」
「どー致しまして、さて、どっかでお茶でもしますか?」
夢としか思えないような悟浄のエスコート。
気付けば手近にある店に入りメニューを持っている。
しかしそのメニューの文字は全て異国の文字。
眉を寄せ悟浄の方を伺うと店の時計をじっと眺めていた。
あたしの視線に気付いたのか顔をこちらへ向ける。
「決まったか?」
「…読めない。」
一瞬の沈黙の後、悟浄の口端がゆっくり上がっていった。
悟浄が笑い出す一瞬前ということを最近学んだ。
予想どおり、悟浄は椅子の背にもたれ声を殺して笑っていた。
「ワリィワリィ…甘いモンとか食うだろ?あとは…」
そう言って悟浄が頼んでくれた中国菓子数個とジャスミンティー(あたしの覚えが正しければだけど)が目の前に置かれた。
お茶を一口飲もうとカップを持った瞬間悟浄が急に立ち上がった。
「?」
「ちょっと待ってな。すぐ戻る。」
そう言うと悟浄が凄い勢いで店を飛び出して行った。
残されたあたしは一先ず机の上のお菓子を口に運びお茶を飲んでいた。
オープンテラスのように暖かい日差しが当たる中、悟浄が出て行った方角をじっと見ながら何時の間にかあたしの瞼はきっちり閉じられていた。
心は悟浄を待ちながら…。
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悟浄とデート!の巻(笑)あー・・・楽しかったv
前回洗面所を出た所の伏線がコレです。くだらなくてすみません(笑)
八戒の服を重ね着しているから下着無くても何ら問題ないんですけど、指摘されると戸惑うからその前に買い物に行かせて見ました。
悟浄だったら何となく測らなくても女性のスリーサイズ分かるんじゃないかなぁ・・・と思ったんですけど・・・深読みしすぎですかねぇ?
結局下着の色はどうなったのか知りませんが(おいっ)悟浄の意見は却下されたみたいですよ♪暫く悔しがっていたみたいですから(笑)
今回結構馬鹿やってますが・・・まだ平気ですか!?見捨てないで下さいね〜(必死)